近年、家具業界ではより便利に、より快適に暮らしていけるような機能性を重視するニーズが高まっている。さらにはより楽しく毎日の生活を送れるようなデザイン性も求められ、多くの企業がしのぎを削る。
そんな家具業界の世界で勝負する株式会社相合家具製作所は2019年にグッドデザイン賞を受賞し、2021年には世界3大アワードの1つであるiF design awardを受賞。三重県に自社ラボを設置し、勢力を増す同社3代目の代表取締役・茂見尚希氏に品質やデザイン力の強みをうかがった。
デザイナーによる「今まで欲しかったけどなかった」を考える力
ーー法学部出身とうかがっていますが、社長就任までの経緯を教えてください。
茂見尚希:
当初は家業を意識して経営学部などに入るといった気持ちは全くなく、弁護士や検察を目指していました。大学は法学部に入りましたが、国家試験に向けて勉強をしていくうちに私には無理だと悟り、大学卒業と同時に弊社に入りました。
入社後、語学習得のために1年ほどイタリアに留学。現地で半年ほど経った後、会社から海外の取引先を訪問してほしいと連絡があり、営業のような仕事もしていました。
ちょうどこの頃、「家具についてもっと知りたい」「会社の中にいるだけでなく外の世界のことも知りたい」と思っていた時期だったので、海外での営業経験はとても役に立ちました。
留学から帰ってきた後、社長室長を経て2016年に社長に就任しました。
ーー貴社はデザイン力が高いことが強みですね。
茂見尚希:
弊社は中小企業なので、「相合家具はこういうデザインで、こういう点が強いよね」と思ってもらえないと生き残っていけないと考えています。ですから、他社と同じようなものをつくって価格競争をするのではなく、他社とは違う自分たちのしっかりとした考え方のもとでつくった商品で勝負する必要があります。
三重にデザインラボをつくったことも強みの1つにあげられますが、デザイナーの感性が強く、「今まで欲しかったけどなかったもの」を考える人たちがいることが1番の強みだと思っています。
最近は環境配慮や、サスティナブルという言葉を多く耳にしますが、弊社はサスティナブルという点にこだわりを持った商品作りをしています。耐久性が高く形状に自由度のある「モールドウレタン」という素材を使って、長い間使っていただける「ロングライフ」という形を提唱しています。
ーー三重県のデザインラボの強みも聞かせてください。
茂見尚希:
もともと家具のデザインを1つの場所で完結できるように、デザインと品質データの集積地となるようなデザインラボを建設するつもりで土地を買いました。長らくそのままでしたが、ようやく2015年にラボの設置が実現しました。
それまで画面上で3Dを見ながら「これならできる」「できない」と判断していたものや、8分の1スケールの3Dプリンターで出力して確認していたものが、ラボでは原寸大で形状確認できるようになり、また試験機を6、7台置くことで、いろいろな試験ができるようになりました。この点においては、環境配慮にもつながっていると思っています。
さらなるメリットとしては、開発期間が短縮されたり、工数が減ったことで商品開発や生産の大幅な改善が可能になり、より一層デザイナーの感性を引き出しやすくなりました。その点もラボの大きな強みだと思っています。
先代とは一味違う、これからの課題とその先の夢とは
ーー今までで大変だったと思うエピソードはありますか。
茂見尚希:
ミラノで開催される「フオーリサローネ」というデザインイベントに、当時取引をしていたイタリアメーカーとともに展示したことがあるのですが、この時は結構大変だった記憶があります。海外のイベントなので費用もそこそこかかりますし、企画力も試され、すべての段取りを組んで臨まなければなりませんでした。
ですが、イベントではたくさんの国の方と名刺交換し、なにより大事なこととして多くの方に見ていただけたことは大きな収穫だったと評価しています。参加が1回のみで終わっているので、続けて参加できるよう企画力をあげていきたいと思っています。
ーー今後の課題を教えてください。
茂見尚希:
経営幹部の育成が課題だと考えています。今は先代時代に頑張っていた人たちが幹部クラスにいますが、その次の世代が育っていないと感じているので、育成・採用ともに力を入れていきたいと思っています。
販売面では弊社はお客様がカタログをご覧になり問い合わせをいただくケースが多いのですが、商品のストーリーやコンセプトをもっと明確にお客様に伝えていかなければならないと考えています。デザインをご覧いただくことは当然大事なことですが、今は商品だけ見て決めるお客様は少なくなってきたので、広告発信手法をさらに熟成させていく必要があると感じています。
先代までは口頭のみでしたが、今はビジョンやミッションバリューなどを全て文章化して発表したり、YouTubeを使った活動を行ったりしています。
また、古いシステムも変えていかなければなりません。古くからある業界なので人海戦術で補っていた部分も多く、過去には社員数を増やしたこともありましたが、結局人数を増やしても売り上げはそこまで上がりませんでした。苦労しても得られるものが少なければ意味がありません。
弊社はデザインと品質に対して世の方に喜んでいただける製品をつくり、そして今までになかったものや思いを込めた「オモロイ」を波及させたいと思っています。ですから、規模を求めるよりも、小さくてもキラッと光る会社にしていきたいです。
ーー今後の展望を教えてください。
茂見尚希:
国内の販売にとどまらず、将来的には海外、特にヨーロッパに販売して弊社を広く知ってほしいと考えています。
日本ではよくヨーロッパの有名メーカーの商品を卸していますが、弊社はヨーロッパの家具店から「卸してほしい」といわれるようなメーカーになりたいという夢を持っています。
編集後記
自社ラボを設置し、デザイン研究とデザイナーの強みを最大限活かした家具製造に力を入れる茂見社長。これまでの受賞実績におごらず、ひたむきに研究に取り組み、こだわりのデザインを目指すその姿勢こそが、各賞の受賞につながっているとインタビューから感じた。海外での販売を見据えたその研究の成果は、海を越えた人々へも伝わることだろう。
茂見尚希(しげみ・なおき)/1983年奈良県生まれ、2005年京都産業大学法学部を卒業後、株式会社相合家具製作所に入社。社長室長、専務取締役などを経て2016年4月、代表取締役社長に就任。