
ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界の実現を目指すエイターリンク株式会社。同社は、マイクロ波方式で17メートルの長距離送電を実現し、生産ラインの安定化や空調制御の効率化などに貢献している。大手センサーメーカーとの協業やメディカルインプラントの研究開発など、幅広い分野での展開を進める同社の代表取締役/CEO、岩佐凌氏に話を聞いた。
商社での出会いが導いた「富の創造」への挑戦
ーー創業のきっかけをお聞かせください。
岩佐凌:
もともと私はクリエイティブで自由な人生を送りたいという思いを持っており、これを実現できる職業は政治家か経営者だと考えていました。また、父が経営者だったので、幼いころからその姿を身近に見て育ったことも影響していたと思います。
卒業後は商社に就職して働いていましたが、商社とは基本的に「富の移動」が事業の本質です。ですが、人類の歴史を振り返ったときに、どの産業の発展においても広い意味でのテクノロジーが介在していることに気がつきました。そこで、「富の移動」ではなく、技術で人類の生産性に貢献する「富の創造」をしたいと考えるようになったのです。
そんな時、弊社の共同創業者の田邉とアメリカで出会いました。当時彼は、ワイヤレス給電がまだ形になる前段階のものを研究しており、私はこれを産業用途で活用できないかと考えました。まずは商社で取り扱いたいと上司に相談したのですが採用されず、それならば、長年抱いていた経営者の夢を叶えるためにも、自分でやろうと決意したのです。2017年ごろから準備を始め、2020年に弊社を設立しました。
ワイヤレス給電で工場や空調、医療機器に革新をもたらす

ーー貴社の特徴や事業内容を教えてください。
岩佐凌:
弊社は3つの事業を展開しています。1つ目は大手センサーメーカーと協業したFA(Factory Automation)事業で、これは弊社のメイン事業です。工場にあるさまざまな設備の可動部や、配線しにくい箇所のセンサーをワイヤレス給電に変えることにより、断線のリスクを減らし、安定的な生産ラインの実現を支援しています。
ワイヤレス給電にはいくつか方式があるのですが、弊社はマイクロ波による無線技術を採用し、長距離給電を実現しています。理論上は100年以上前からあった技術なのですが、実用に耐えられるレベルまで到達させた点は、弊社の成果といえるでしょう。
2つ目はビルマネジメント事業で、オフィス空調の効率化に貢献しています。これまでは、空調の制御に必要なセンサーを天井に設置された空調機に内蔵するケースがほとんどでした。しかし、それでは実際に人が感じる温度とセンサーが検知する温度に差が生じてしまいます。そこで弊社は、これまで天井裏に設置されていたセンサーを、ワイヤレスで利用者の近くに数多く設置できるようにしました。これにより、設定温度と実際に感じる温度の差をなくすことができ、電気代の無駄も削減しています。
3つ目のメディカルインプラント事業では、体内埋め込み型医療機器へのワイヤレス給電技術の開発に取り組んでいます。たとえば、従来のペースメーカーは電池寿命の制約から定期的な交換手術が必要となり、それが患者の大きな負担となっていました。そうした課題に対して、ワイヤレス給電を活用すれば、体外から継続的に電力を供給できるため、より安全で患者にも優しい医療を実現できると考えています。現在は実用化に向けて、着実に研究開発を進めているところです。
ーー事業展開にあたり、特に重視しているのはどのようなところですか?
岩佐凌:
技術を市場に展開していく過程ですね。弊社がつくりたいものをつくるのではなく、メーカーやその先にいるお客様がどのような使い方をしたいのか、社員全員が同じ解像度で把握して開発を行うことが重要です。これを実直に繰り返すことが、市場で受け入れられる製品を生み出す鍵だと考えています。
また、ワイヤレス技術の標準化においては、難題にチャレンジし続けることが大切だと考えています。起業した当時の日本において、ワイヤレス給電は法規制もあり、極めて難しい分野だということもあり、実用化は難しいだろうと誰からも反対されました。しかし私は逆に、反対されたことで「これは成功する事業だ」と確信したのです。誰もが敬遠するアイデアだからこそ、そこに投資して形にし、未来を変えていく。これがスタートアップのあるべき姿だと捉えています。
ワイヤレス給電を地球規模で普及させる壮大なビジョン
ーーこの先、どのような方と一緒にどんなチャレンジをしたいですか?
岩佐凌:
現在、ビルマネジメント事業での取引先は100社に満たない状況ですが、これをさらに拡大するために、新規取引先の開拓を進めたいと思っています。日本だけではなく海外のデベロッパーにもアプローチするなど、グローバル市場をどれだけ増やせるかが今後の鍵だと考えています。
そのためには人材の力も必要です。特にワイヤレス給電技術に興味を持ち、各専門領域で高い知見を持つ方を求めています。具体的にはRF技術(無線周波数)、回路設計、メカ機構などの分野です。
また、これらの技術を統合して商品化していくため、プロダクトマネジメントができる人材も必要です。商品の仕様決定からスケジュール管理まで、細部にわたって管理するマネジメント力を持ち、粘り強く取り組んでくださる方と一緒に仕事をしたいですね。
私たちは2031年までに、ワイヤレス給電を世界のインフラにすることを目標としています。技術の進化によっては、グローバルからさらに宇宙まで見据えた未来もあるかもしれませんね。このような壮大な挑戦に共感いただける方と一緒に歩んでいきたいと考えています。
編集後記
「誰もが敬遠するアイデアにこそ価値がある」という岩佐氏の言葉には、スタートアップならではの挑戦者としての覚悟と冒険心が感じられた。既存の常識に縛られず、技術で世界を変えていく同社の歩みは、まさに「富の創造」そのものといえるだろう。新しい技術によって様々な分野に革新をもたらすことで、私たちの職場や生活、ひいては人生にも変化を及ぼしていく。その未来をともに見たいと思わされるインタビューだった。

岩佐凌/新卒で岡谷鋼機株式会社へ入社。トヨタ自動車などへの自動運転・電気自動車関連プロジェクトに従事。2017年に米国で、田邉氏(現:取締役/CTO)と出会い、2020年にエイターリンク株式会社を共同で設立。ICCサミットKYOTO2022「REALTECH CATAPULT」優勝、成長産業カンファレンス2023「GRIC PITCH」2冠受賞。2024年、日本経済新聞社からNEXTユニコーンに選出。