※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

1960年の創業以来、ワイヤロープ一筋で歩んできた大綱株式会社。建設現場から海洋土木工事まで、産業の裏方として日本のものづくりを支え続けてきた。独自に開発した玉掛用ワイヤロープスリングやヨーロッパ製品の取り扱いに強みを持ち、全国の営業マンの情報ネットワークを活用することで、2023年度には過去最高業績を更新した。

西日本での海上土木需要を見据え、さらなる成長を目指す同社の代表取締役である馬場哲人氏に話をうかがった。

創業者だった伯父の誘いを受けて入社を決意

ーー入社の経緯を教えてください。

馬場哲人:
弊社は、主に建設現場や海洋土木業界で使用されるワイヤロープを取り扱う会社として、1960年に伯父が創業しました。私は大学に入学したときに伯父に誘われて、弊社でアルバイトするようになりました。そして3年ほどアルバイトを続けるうちに、「これからもこの会社で頑張りたい」という気持ちが固まり、大学を卒業後、正式に入社したのです。

ーーアルバイト時代から、いずれは会社を継ぐことを考えていたのですか?

馬場哲人:
はっきりと「会社を継いでほしい」と言われていたわけではありませんが、なんとなくそういう雰囲気はありました。伯父が働く姿を、アルバイト時代からずっとそばで見てきたことで、社長になるために必要な知識や考え方を教えられたように思います。

伯父は、「一生懸命仕事を頑張ったら、めいいっぱい遊んでプライベートも充実させよう」という社長でした。2年に1度は慰安旅行で海外に連れていってくれましたね。そのような働き方が魅力的だったことも、入社を決めた理由です。

専門知識の習得で切りひらいた新規開拓

ーー入社から現在に至るまでに苦労したことを教えてください。

馬場哲人:
突然、大阪から東京への転勤を命じられたときには驚きました。通常は新たな事業年度が始まる3月21日付けで異動するのですが、年末の忘年会の席で1月5日付けでの転勤を言い渡されたのです。これまで大阪で営業してきた取引先はすべて他の社員に引き継ぎ、東京で新規開拓をすることになりました。

1億円のノルマを課せられて上場企業の建設会社に営業に行ったものの、緊張のあまりどこに座ってよいかもわからない有様でした。当時、弊社は卸売りが中心で、直接建設会社、しかも一部上場企業に営業に行くこと自体が初めての経験だったのです。「ワイヤロープを買ってください」とお願いしても会話が途切れてしまうので、どうやって次のアポイントをとろうかと悩みました。

そこで、建築関係の本を読んだり、現場を見学するなどして知識を深め、お客様と共通の話題をつくれるように努力しました。とにかく勉強して詳しくなって会話を重ね、最終的にプライベートでもご一緒できるような関係性を構築することに成功し、成果に結びつけたのです。

ーー2019年に社長に就任された後は、どのようなことがありましたか?

馬場哲人:
代表取締役に就任後、計画的に事業をスタートさせたのですが、初年度の冬にいきなりコロナショックがありました。パンデミック当初は「この騒ぎもすぐに終わるだろう」と楽観視していたのですが、新年度の予算編成にかかる頃にはどんどん景気が悪くなっていきました。

2019年度はなんとか乗り越えられたものの、2020年度の売上は大幅に減少し、先行き不透明な状態に陥りました。ちょうど東京で大きな工事物件を受注していた時期で、社員に在宅勤務を命じていたにもかかわらず、東京営業所の社員にだけは工事現場への出勤をお願いしていました。この仕事のおかげで2020年度はなんとか赤字にならずにすみましたが、事業計画は方向転換を余儀なくされましたね。

営業体制の強化で目指す新たな高み

ーー貴社の強みや競合他社との差別化ポイントはどのようなところですか。

馬場哲人:
弊社の特徴は、海外とのつながりが強いことです。スウェーデンからワイヤロープを加工する機械を輸入することでヨーロッパのメーカー各社や金具メーカーとコネクションをつくり、それらの製品を日本国内で販売しています。近年は国内でヨーロッパ製のクレーンの導入が増えてきたので、そのサポートという点でもお役に立てるでしょう。

また、かなり早い時期から洋上風力発電に着目して、営業活動を行ってきました。ありがたいことに、今後数年間は西日本方面で海上土木の仕事が増える見込みです。そうした特需を取り込んで売上を確保するために、弊社の営業部門が常にアンテナを張っています。

全国に配置した営業マンが、情報交換を積極的に行っているので、正確で迅速な情報を掴んでいます。この営業部門の情報網こそが弊社の宝であり、強みであると考えています。

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

馬場哲人:
弊社は昨年度、創業来の最高業績を更新しました。かつては年商が30億円を切った時期もありましたが、2018年には40億円まで回復しました。その後、パンデミックを乗り越えて、2023年度には52億9千万円を達成することができました。今年度も順調に推移し、来期は、未知の領域である年商60億円の大台を目指し、社員と知恵を絞りながら事業領域を拡大していきます。

今後は営業体制を強化するため、定着しつつある社内プロジェクトを推進し、さらに業績を伸ばし続けたいですね。

編集後記

社長就任直後にコロナショックという逆風に見舞われながらも、それを乗り越え、過去最高業績を達成した馬場社長の手腕に感銘を受けた。その原動力は、同社がこれまで築き上げてきた強固な営業基盤にあると感じた。全国の営業マンによる情報網という「見えない資産」を活かし、今後もさらなる成長を遂げていくことだろう。

馬場哲人/1968年山口県徳山市生まれ。幼少期以降は神戸にて過ごす。大学卒業後、大綱商事株式会社(現大綱株式会社)に入社。東京営業所長、常務取締役営業一部長を経て、2019年に代表取締役に就任。