
創業以来、ステンレス製品の製造で名を馳せてきた森松工業株式会社。同社はステンレス製タンクの製造で培った技術を基盤に、プラント設備や環境関連設備へと事業を拡大してきた。
同社の強みは、高度な溶接技術と革新的なモジュール化工法にある。加えて、多様な人材の採用や、独自の社内教育システムにより、グローバルな視点と職人魂を融合させた企業文化を築いている。今回は、技術革新と人材育成の両輪で成長を続けてきた同社の歩みについて、代表取締役社長の松久浩幸氏にお話をうかがった。
パーパスの実現と職人魂の継承を両立し、新たな「森松工業」へ
ーー貴社に入社する前はどのような経験をしましたか?
松久浩幸:
私は大学卒業後、海外留学を経験し、帰国後に機械商社に入社しました。当時、その商社は海外事業に力を入れ始めたところで、私の英語力とうまくマッチしました。早い段階から海外プロジェクトに関わる機会をいただき、自動車の海外進出に携わるなど、貴重な経験を積むことができました。
印象に残っているのは、インドでの仕事です。上司から突然「明日からインドにいってほしい」と言われ、現地の営業所立ち上げに携わりました。大変なこともありましたが、自分なりに全力でとり組んでいくうちに、だんだんと力がついていくのを感じました。
この経験を通じて、グローバルな視点と柔軟な対応力を身につけることができたと感じています。十分な実力を身につけられたと感じ、1997年に家業である弊社に入社することにしました。
ーー社長に就任してから取り組んでいることを教えてください。
松久浩幸:
最も注力しているのは新たな企業文化の構築です。まず取り組んだのがパーパスの導入でした。2024年1月に全社員に向けてパーパスを発表し、その後2ヶ月半かけて全事業所を回り、直接説明しました。
弊社のパーパスには、「社会に必要不可欠なものをつくる会社である」という誇りと、「100年先の社会資源を守る」という使命を込めています。社員にも弊社の立ち位置を改めて認識してもらい、自分の仕事に誇りを持ってほしかったのです。
同時に、弊社の強みである職人魂の継承にも力を入れています。技術の伝承は弊社の競争力の源であり、弊社の未来を担う世代にもその価値をしっかりと伝えていかなくてはなりません。パーパスの実現と職人魂の継承、この二つを両立させることで、持続可能な成長を目指しています。
ステンレス製品から広がる、多様な事業展開

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
松久浩幸:
弊社は、ステンレス製タンクの製造から事業をスタートさせました。創業以来培ってきた技術を基盤に、現在では建築設備・製品、水処理施設、さらにはプラント設備の製造にまで事業領域を拡大しています。特に近年注力しているのが、海外向けにモジュール(部品)化できる工場の製造です。
ワクチン製造プラントなどの高度な設備を、ブロック玩具のように分割して製造し、現地に運んで短期間で組み立てるという手法を確立しました。これにより、現地工事の期間を大幅に短縮するだけでなく、品質と安全性を高めることが可能となったのです。
この技術は、人手不足や工期短縮のニーズが高まる中で、非常に重要な意味を持ちます。日本では法制度など、超えなければならないハードルがありますが、同様の手法を展開できれば、建設業界に大きな変革をもたらす可能性があると考えています。
多様性が育む、技術の未来
ーー採用や人材育成においてはどのような取り組みをされていますか?
松久浩幸:
弊社では、多様な人材の活用に力を入れています。特にグローバル人材の採用に積極的で、1990年代から継続的に取り組んできました。2年前にインドのバンガロールから4人の設計者を採用し、昨年はネパールから溶接工を迎え入れました。
早い段階からこうした受け入れを行っていたので、国籍に関係なく会社に馴染める環境ができていると感じています。社員たちが片言でコミュニケーションをとり、仲良くなっている姿を目にすると嬉しくなりますね。この文化は、技術の継承にも良い影響を与えてくれていると思います。
また、女性の職域拡大にも力を入れており、最近では、地震をきっかけに社会貢献したいと考えた女性が、全くの未経験から溶接工になるケースもありました。
人材育成の面では、2015年に岐阜県の認可を受けて社内に職業能力開発校を設立しました。ここでは新入社員や中途入社の技能者に対して、2〜3ヶ月の集中的なプログラムを提供しています。これにより、現場でのOJTだけでなく、体系的な技術教育を行うことが可能になりました。こうした、多様な人材が活躍できる環境づくりが、弊社の技術力の維持・向上につながっています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
松久浩幸:
新製品開発に注力しています。昨年は800人の社員に向けて新製品のアイデアを公募しました。すると、240以上もの提案が集まったのです。この結果を見て、社員が持つ予想以上の発想力に驚かされました。
また、これからの時代、さらなる成長を遂げるためにはDXの推進も欠かせません。建設業界はDXが遅れていると言われていますが、弊社はこれをチャンスと捉えています。扱いが難しい、薄いステンレス素材を用いるタンクの製造過程でも、自動化やロボット化を進めています。
こうした課題にとり組むことで、より高度な技術が磨かれると考えているのです。これからも社会インフラを支える技術集団として、社員とともに常に新しい挑戦を続け、社会に貢献できる会社であり続けたいと思います。
編集後記
ステンレス製タンクの製造から始まった同社の事業領域は、想像をはるかに超えて広く、そして未来を見据えていた。特に興味深かったのは、モジュール化された工場の製造技術だ。この技術が普及すれば、建設業界の働き方改革にも大きく貢献するだろう。日本のものづくりの未来に、一筋の光明を見た気がした。

松久浩幸/1967年、岐阜県生まれ。明治大学卒業。機械商社に入社し、1997年に森松工業株式会社に入社。2022年に代表取締役社長に就任。