
「XBRAID」の名で多くの釣り人から親しまれている釣り糸メーカー、株式会社ワイ・ジー・ケー。同社がつくるPEライン(※)は、世界屈指の品質を誇る製品として知られている。
そんな同社を牽引するのは、2019年に代表取締役社長に就任した齊藤隆文氏だ。異業種から同社の社長に就任した背景や、同社が世界でも注目を集める理由などを齊藤氏に詳しく聞いた。
(※)PEライン:ポリエチレン(PE)製の糸を編み込んでつくる釣り糸
中小企業だからこその「個々の能力を活かした組織づくり」を意識してきた
ーー今までの経歴や社長就任の経緯を教えてください。
齊藤隆文:
もともと大手メーカーに勤務していましたが、その頃に出会った妻との結婚がワイ・ジー・ケー入社のきっかけです。妻の父親がワイ・ジー・ケーの創業者だったのですが、プロポーズをしたときに妻から「うちの会社に入ってほしい」と言われ、承諾しました。
その後、2019年に先代の社長である義父が体調を崩したことをきっかけに、僕が社長を継ぐことになりました。
「先のことは考えるな。今直面していることだけを考えなさい」という先代の言葉は今でもビジネスに活かされており、経営者としてとても尊敬しています。先代はまさに男が惚れるような男で、人柄についても心の底からかっこいいと憧れていたので、会社を継ぐようお願いされた際、断ることはできませんでした。
ーー社長に就任してからは、どのようなことを意識または大切にしてきましたか。
齊藤隆文:
大手企業にはない、中小企業の良いところを取り入れた経営を意識してきました。
たとえば弊社のような中小企業の強みとして、社員数が少ないからこそ、それぞれの能力を活かした経営ができる点が挙げられます。社員たちには、お互いの異なる能力を好きになってほしいということを伝えてきました。
会社で働く以上、自分の好きな仕事だけをするのは難しいですが、それぞれの社員の適性に合った得意なことや、長所を活かすことをできるだけさせてあげたいと思いながら経営をしています。
ーー社長就任後に取り組んだ改革についても教えてください。
齊藤隆文:
会社の方向性を示すために、先代の意識があるうちに会社の理念「無尽蔵であれ!」を定めたのが大きな取り組みの1つです。僕と先代2人の思いを合わせた経営理念を策定し、弊社がどういった会社なのか、MVVを社員たちに向けて明確に示しました。
1から10まで「内製化」を目指すことで、質の高い製品を生産・販売
ーー事業の内容や強みについて聞かせてください。
齊藤隆文:
弊社は釣り糸の製造・販売を行うメーカーで、1から10まで内製化を図っているのが強みです。釣り糸の糸を編み込むための製紐機をはじめ、関連部品やその他の製造設備もすべて自社で開発し、加工・生産しています。
ポリエチレン製の糸を編み込んでつくったPEラインに関しては、世界トップクラスのシェアを誇っています。
ーー世界トップクラスのシェアという高い成果を出せている理由は、どういった点にあると考えていますか。
齊藤隆文:
もともとYGKブランドとしてある程度のシェアを獲得したうえで、営業活動やマーケティング活動、ブランディング活動などに力を入れてきたことが大きな理由であると考えます。
たとえばパッケージに関しては、世界中の釣り具店の店頭を見て、どのようなパッケージが並んでいるのかを深く研究してきました。また、当初はマーケティング機能が社内になかったので、広告代理店出身者の人材を採用したり、エンジニアを育てたり、人材投資をメインに進めてきました。
そのほか、各国の代理店が営業活動を努力してくれたのも、世界トップクラスのシェアという成果を出せた理由だと思っています。
国内市場に頼らなくても戦える力を身につけるのが今後の課題

ーー貴社ではどういった人材を求めていますか。
齊藤隆文:
製品に誇りを持てる人材が来てくれると嬉しいです。人間は自分がまったく興味のないものより、自分が好きなもののほうが、他人に勧めるのが得意ですから、釣りが好きな人などは弊社で活躍しやすいと思います。
自分が勧めたい商品を、自信を持って紹介できる仕事であれば、やりがいも感じられるでしょうし、ワイ・ジー・ケーという会社や弊社の製品に愛着を持ってくれるような人に来てもらいたいですね。
また、弊社が自社ブランド製品の販売を始めたのも、社員に自社の製品に愛着を持ってもらいたいから、という理由があります。
ーー3年後、5年後のビジョンを聞かせてください。
齊藤隆文:
日本の釣具市場が縮小していくことを考えると、国内市場に頼らずとも戦えるものづくり力や販売力を構築しなければいけないと思っています。
世界に向けて販売することを前提として立ち振る舞うこと、そして最終的に2番手の企業とシェアを大きく離した「圧倒的世界一になること」を目指して、前に進んでいきたいです。
編集後記
PEラインの世界シェア1位という大きな成果を残している同社だが、その裏には日々の営業活動や研究など不断の努力がある。
たとえ日本の市場が縮小したとしても、世界を相手にできる製品と営業ノウハウを持つワイ・ジー・ケーなら、未来はきっと明るいだろう。釣り糸を通して日本のものづくりの素晴らしさを伝えてくれる同社を、これからも応援したい。

齊藤隆文/1983年茨城県生まれ。大学卒業後、大手家電メーカー勤務を経て、2013年に株式会社ワイ・ジー・ケー入社。2019年に同社代表取締役社長に就任。