※本ページ内の情報は2024年8月時点のものです。

眼鏡レンズメーカーとして85年、人々の「見える」を支えてきた東海光学株式会社。ニーズに応じたバリエーション豊かな商品の数々は、日本のみならず世界中で支持され、現在世界70カ国で展開されている。

同社代表取締役社長の古澤氏に、家業を継いだ経緯や独自性のある商品へのこだわり、眼鏡小売店様との信頼関係の構築方法について話を聞いた。

大切なことは「お得意様」から教わった――85年の歴史で積み上げられた信頼

ーー家業である東海光学を継がれた経緯を教えてください。

古澤宏和:
小学生の頃から父たちの仕事の会話を耳にすることが多く、「この仕事を継いでいきたい」という思いが芽生えていたため、自然と会社に入ることを決意していました。大学卒業後は東海光学に在籍しながら2年間システム会社で修業を積み、1996年に正式に家業に戻りました。

弊社では眼鏡の小売店様のことを「お得意様」と呼んでいるのですが、初めて眼鏡レンズの営業をおこなった際は、長くお付き合いいただいているお得意様から「東海光学というのはこういう会社で、こういった営業をするべきなんだよ」と教わることも多く、会社の歴史とお得意様のあたたかさに励まされたものです。

ーー事業について詳しくお聞かせください。

古澤宏和:
弊社は1939年創業以来、眼鏡レンズメーカーとして邁進し、現在は光機能事業とともに2本柱で事業を展開しています。

眼鏡事業としては、レンズの素材開発から設計・加工・販売まで一貫しておこなっています。日本国内に約7700万人いるメガネユーザーの中でも約16%のシェアを誇っており、世界70カ国以上での販売実績を持っています。

光機能事業は、眼鏡レンズのコーティングから生まれた「真空成膜」技術で、光学機器を始め、映像・医療・通信など幅広い分野で価値を提供しています。「プリズム」と呼ばれる光を屈折・分散させて自在に操る技術なども取り組み始めていますが、光機能分野でもこうした新たな事業をどんどん生み出していこうと計画しているところです。

脳科学、遮光眼鏡…他社には真似できない「独自性」が強み

ーー貴社が選ばれている理由や強みは何でしょうか?

古澤宏和:
当社の営業スタンスは、町の眼鏡店様から大手眼鏡チェーン様まで多岐にわたるお得意様に対し、単なる商品の提供にとどまらず、売上向上を目指した総合的なサポートを提供することにあります。

具体的には、眼にリスクのある光をブロックするレンズの実演販売や、当社独自の機器を用いたルテイン測定会などのイベント提案、またパンフレットでは伝えきれない効果的なPR方法、集客手法や販売促進活動、店舗レイアウトの提案まで多岐にわたります。こうしたお得意様との長年にわたる信頼関係の築き上げが東海光学の持つ貴重な財産であり、競争力の源泉であり、当社の営業の最大の強みだと考えています。

また、レンズの独自性も大きな強みになっています。プラスチックレンズで世界No.1の屈折率を誇る「1.76素材」や、脳科学を用いてレンズの見え心地を改良した「ニューロ セレクト」、まぶしさの緩和ができ白内障などの術後にも使用される「遮光眼鏡」など、他社には真似できない技術力・開発力が大きな強みです。

眼鏡レンズメーカーは淘汰の時代といわれており、かつては大手を始め多くの企業が手がけてはいたものの、今でも生産を続けている企業はそう多くありません。「東海光学さんなら任せられる」といった独自性のある商品・サービスを提供してきたことが、85年間に渡り勝ち続けてこられた理由ではないでしょうか。

ーー海外進出にも力を入れていますね。

古澤宏和:
1990年代半ばまでは国内を中心としていましたが、台湾マーケットへの進出を足掛かりとし、海外の展示会に出展を始めました。

海外ではメガネに対して求めるものが国によって異なり、アメリカは「割れにくく、よく見えれば品質にはこだわらない」という考え方が主流で、プラスチック素材のポリカーボネートが広く使われています。対してヨーロッパでは、見えやすさや品質にこだわる方が多く、日本に近い感覚であったため、アメリカよりもヨーロッパに先に進出を図り、成功を収めました。

現在では世界70カ国以上に販売実績を持っていますが、弊社からは出張がベースで、現地の関連会社、代理店様と各々の営業展開をしています。

ーー社員の方がご活躍されているエピソードなどを教えてください。

古澤宏和:
最近では若年層の活躍に目を見張るものがあります。開発部に所属していた2年目の社員が、留学していた研究先のアメリカの大学で目の構造を学び、自ら設計をして新商品を開発したことは会社としても大きな衝撃でした。

次世代内面非球面レンズ「ベルーナHR」、次世代両面非球面レンズ「ベルーナWR」として実際に商品化し、日本最大の眼鏡展示会である「国際メガネ展(iOFT)」にも新商品として発表しました。自分の設計したレンズを楽しそうにイキイキと説明し、お得意様と盛り上がっている彼の姿を見て、とても誇らしく思ったものです。

「フレームの付属品」ではなく、レンズ自体の価値を上げていく

ーー貴社の商品では、レンズの広告としては珍しく俳優の方を起用していますが、どのような意図があるのでしょう?

古澤宏和:
世の中に広く「レンズの価値」を広めたかった、というのが大きな理由です。

以前は眼鏡店に行くと、「メガネレンズ無料」といった広告文句をよく見かけたものですが、レンズメーカーとして「このままではダメだ」と痛感しました。社員が懸命に開発しているレンズの価値を私たちが直接消費者の方に伝えていくには、有名な方に広告塔となっていただき、共に商品の素晴らしさを打ち出していこうと考えたのです。

現在は玉木宏さんを起用し、脳科学を用いた遠近両用レンズの「ニューロ セレクト」、眼の色素ルテインを保護するアイデアデザインレンズ「ルティーナ」など、数種類の商品でイメージキャラクターとなっていただいています。こうしたレンズ単体での有名人の起用は恐らく弊社だけではないでしょうか。弊社のレンズを販売して下さるお得意様と共に、今後もより一層レンズの価値を広めていきたいと思います。

ーーお得意様からの信頼を得るために、商品以外でどのようなことに注力していますか?

古澤宏和:
お得意様からの問い合わせや受注窓口として全国4拠点(愛知・札幌・東京・福岡)で運営しているコンタクトセンターを設けています。今の時代、電話対応などの窓口は1つにまとめるのが主流かと思いますが、あえて地域ごとにセンターを設けることで「同じ地域の人が対応してくれる」という安心感につながります。特に札幌では北海道に拠点を持つ2社のお得意様と、長いお付き合いを経て良い信頼関係が築けています。

通常、眼鏡を買うときは「東海光学のレンズが欲しい」と指名買いすることはまずなく、眼鏡小売店様がプッシュしてくれなければレンズは売れません。つまりお得意様との信頼関係を築くことが最も大切で、そのためにはただ物をつくるだけでなく、経営課題を解決できるようご提案し、困ったときに頼っていただけるような存在になる必要があります。

他社が「やらない・やれない・やりたくない」ことを突き詰めていき、結果として自然と独自性が生まれてくるのです。

編集後記

「眼鏡があれば、コミュニケーションが円滑になり、食事が美味しく摂れて、趣味に励むこともできます。そうした時間を世界中の人に提供できるなんて、こんなに良い仕事はありません」と熱弁した古澤社長。同社の製品がバラエティに富んでいるのは、「レンズを通した先に見える世界」を想像して開発に臨んだからこそ実現したのだろう。今後高齢化が進む日本でも、同社のレンズが多くの人の人生に彩りを与えてくれるに違いない。

古澤宏和/1970年、愛知県出身。1994年中央大学理工学部卒業後、東海光学株式会社に入社。1999年取締役社長室長就任、兼海外事業担当、2003年専務取締役を経て2009年より現職。