
1968年の創業以来、モータースポーツを開発フィールドとして、マフラーやサスペンションをはじめとした機能性自動車部品の開発、製造、販売を一貫して行う株式会社ティエムシー。レーシングカー用の高性能パーツから一般車両用のアフターパーツまで、さまざまなシーンで活躍する製品を生み出し、「RS★R」ブランドとして日本のみならず世界中で広く知られている。
創業者である父の思いを受け継ぎながら、高性能な自社製品を世界に広げるべく、海外展開に力を入れてきた代表取締役社長の寺井久美子氏に、社長就任後の取り組みや商品開発へのこだわりについてうかがった。
安全性と機能性に優れたアフターパーツを世界に届ける
ーー幼少期から家業を継ぐことを意識していたのでしょうか?
寺井久美子:
もともと家業を継ぐつもりはなく、大卒後は法律事務所で7年ほど働いていましたが、父に「会社を手伝ってほしい」と言われ、両親への恩返しのつもりで家業を手伝い始めました。入社当初は自動車の構造や技術についての知識がほとんどなかったので、メカニズムに関する本を買ってきて毎日勉強していました。
ーー社長に就任してからどのような取り組みを行ってきましたか?
寺井久美子:
社長に就任してすぐに就業体系や福利厚生などの整備を始め、世間で「働き方改革」といわれる前から、社員に長く健康に働いてもらうための取り組みを段階的に進めてきました。その一環として、製造開発部門と営業販売部門の2つに分かれていた法人を統合し、ルールを統一することで体制を整えました。社員たちには私生活も大切にしながら働いてもらいたいですね。
弊社のコイルスプリングは、創業者の時代に国内トップクラスのシェアを確立しています。私が社長に就任してからは、弊社が誇るこの機能性の高い商品を世界中の人に届けたいという思いがありました。
そこで、まずはアメリカに直営の営業所を設置することから始め、その後はタイに関連子会社を設立し、タイを拠点にASEAN諸国へ展開してきました。現在、北米や東南アジアでの基盤が固まったので、さらなる発展を目指しているところです。
次世代商品の開発によってユーザーや時代のニーズに応える

ーー貴社の事業内容を教えてください。
寺井久美子:
弊社では自動車の車輪を支えるサスペンションのコイルスプリングとダンパーをメインとした機能性自動車部品を開発・製造しています。サスペンションは路面からの衝撃を吸収する役割を持っており、コイルスプリングやダンパーを替えることで重い荷物を積んでいるときや凹凸のある路面でも安定して走ることができます。
サーキットで走るのが好きな方や見た目にこだわりたい方など、車の楽しみ方は人それぞれですが、弊社のお客様は乗り心地を重視する方が大半を占めています。弊社のアフターパーツを取り付けることで日本の自動車メーカーが誇る高い安全性を損なうわけにはいかないので、安心安全なモノづくりを最も大切にしています。
ーーこれまでに開発した商品について教えてください。
寺井久美子:
昨今、純正採用されている電子制御ダンパーを社外品のダンパーに交換すると自動車メーカーの純正の機能が効かなくなりますが、弊社ではその電子制御機能をそのまま使えるダンパーを開発しました。このような商品は他に例がなく、開発を成功させた技術者たちを誇りに思います。ダンパーの開発では大学の研究室と連携しながら新しい機構や素材を取り入れた商品づくりを進めています。
その他にも、アフターパーツの取り付けなどによって角度の歪みが生じていないかを確かめるアライメントゲージという装置では、スマートフォンを専用のフレームにセットすることで、手軽に角度の計測をできるようにしました。
また、エンジンオイルの添加剤は、燃費効率の改善やCO2排出量の削減を叶えるNASAで採用された素材を使用しています。弊社では、世の中の技術革新に遅れることなく常に時代の1歩先、2歩先を見据えた商品開発を心がけています。
開発から販売まで一貫体制だからこそやりたい職種に出会える
ーーどのような人材を求めていますか?
寺井久美子:
新卒や中途に関わらず、車が好きな方に来てほしいですね。また、これからSNSの運用に力を入れていきたいと考えているので、ネットリテラシーが高く、情報を上手く発信できる方を求めています。
弊社では受託から開発、製造、販売、営業、広報までさまざまな仕事がそろっているうえに、規模の小さい会社だからこそ、自分のやりたい職種や立場に就きやすい環境であることが強みです。
ーー今後の展望をお聞かせください。
寺井久美子:
弊社は国内生産にこだわっているため、海外へ商品を届けるのに時間がかかってしまうのが現状です。今後は海外に対しても納期を短縮し、スピーディーに届けられるように物流体制を見直したいと考えています。
編集後記
自社の技術のみならず日本の自動車の安全性や機能性に誇りを持つ寺井社長。ドライバーの夢をカタチにする技術者たちをリスペクトする姿が印象的だった。世の中の変化を柔軟に捉え、常に最新のテクノロジーを取り入れた商品開発に取り組む株式会社ティエムシーは、今後も自動車分野の技術発展の一翼を担うだろう。

寺井久美子/1970年大阪府生まれ。追手門学院大学卒業後、法律事務所勤務、法律実務を経験し1998年家業である株式会社ティエムシーに入社。経営企画室配属を経て2008年に代表取締役就任。株式会社アールエスアール代表取締役兼任。