※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

昨今の製造業界では、環境負荷の低減や省エネルギーへの取り組みが加速している。また、人手不足による工場自動化の需要の高まりや、EVシフトに伴う製造工程の変革など、業界を取り巻く環境は大きく変化している。

そうした中、超音波、高周波、レーザーの3つの波の技術で、独自のポジションを確立してきた精電舎電子工業株式会社。創業以来培ってきた技術を活かし、食品業界など新たな分野への展開も進めている。代表取締役社長の渡邉公彦氏に、技術開発への思いと今後の展望を聞いた。

憧れの最先端技術、超音波・高周波とレーザーに挑む

ーー入社までの経緯を教えてください。

渡邉公彦:
新しい技術に携わりたい気持ちがあり、就職活動の際、自分のやりたいことをできる環境を探していました。1枚1枚企業の求人票を丁寧に見ていく中で、弊社の、レーザーや超音波・高周波技術に魅力を感じました。特にレーザーは30年前は最先端技術だったのです。面接でも「レーザーに携わりたい」と率直に伝えました。

ーー入社後はどんな仕事をしていましたか。

渡邉公彦:
入社後は、レーザー事業を立ち上げた室長の下で、開発に携わりました。しかし、当時はプラスチック加工に対する付加価値があまり評価されず、高価なレーザー加工機は市場に受け入れられませんでした。そういった状況が続き、事業の先行きが厳しい状況にありました。

その後、経営判断で開発室が閉鎖され、製造部へ異動になりましたが、レーザー技術への思いだけは捨てていませんでした。開発室閉鎖後も、後処理業務などを通じてレーザー技術に関わり続けました。

あるとき、営業職の先輩が「取引先でレーザーの魅力を伝えたいから、一緒に説明してほしい」と声をかけてもらい、提案営業に同行しているうちに、徐々にレーザー技術に関心を持つ企業が増えていきました。その経験を通じて自信を得た私は、当時の社長に直接、レーザーチームの再建を提案したのです。

国内唯一の「3つの波」の技術で、加工の常識を覆す

ーー貴社の特徴的な技術についてお聞かせいただけますか。

渡邉公彦:
超音波の音波、高周波の電波、レーザーの光波。この3つの技術を核に、モノの切断や接合を行う装置を手がけています。身近なところでは、自動車、医療、食品、電化製品と幅広い分野で活用されています。

それぞれの技術には特徴があります。超音波は最も汎用性が高く、樹脂成形品を瞬時に溶着することができます。高周波は創業期からの技術で、シート材の加工が得意分野です。レーザーは振動を嫌う素材の非接触加工に強みがあります。この3つの技術をあわせ持つのは、国内では弊社だけなのです。

ーー新商品開発はどのように進めていますか。

渡邉公彦:
世の中やお客様が抱えているさまざまな課題に着目しています。最近では、SDGsやリサイクルの観点から、弊社の技術が貢献できるアプリケーションを探っています。たとえば、超音波技術は接着剤や両面テープを使わずに素材同士を溶着でき、解体して再利用する際に非常に有効です。

また、弊社の装置は、溶着する瞬間だけエネルギーを使用するので、従来のヒーター溶着と比べて大幅な省電力化が可能です。この件については脱炭素に強い関心を寄せている大手企業と共に、脱炭素社会の実現に積極的に取り組んでいます。

好奇心と挑戦心を持つ人とともに未来を創造していきたい

ーー今後の展望を教えてください。

渡邉公彦:
現在は樹脂加工分野が中心ですが、3つの技術にはさらなる可能性があると考えています。たとえば、EVシフトが加速する自動車業界では、超音波技術をEV関連の部品の加工に活用する研究を始めています。弊社の持つ、金属端子や配線の直接接合技術が注目されており、新たな展開が期待できます。

食品分野でも、超音波でケーキをキレイに切断する技術を開発しました。この技術を使えば、マイナス20度の冷凍状態でもキレイに切れるため、大幅な工程削減を実現し、大手菓子メーカーから高い評価をいただいています。このように、従来とは異なる分野への応用を積極的に進めており、さらなる応用分野がないか、徹底的に探っていきたいと思っています。

実は、こうした新規事業の多くは、現場の社員のアイデアから生まれています。「やってみたい」という声を大切にし、チャレンジを後押ししてきた結果、年間売上の柱となる事業も出てきました。これからも社員のチャレンジ精神を大切にしながら、技術の可能性を追求していきたいと思っています。

ーー最後に、どのような人材を求めていますか。

渡邉公彦:
好奇心旺盛で想像力豊かな方、そして、自立して仕事に取り組める人材を求めています。決まった製品だけを売るのではなく、自分で考え、新しい価値を生み出せる方に来ていただきたいですね。専門知識は入社後でも学べます。弊社は失敗を恐れずチャレンジできる環境があるため、新しいことに挑戦したい方にぜひ仲間になってほしいと思っています。

編集後記

取材中、渡邉社長の「技術者魂」とでも呼ぶべき情熱に何度も心を揺さぶられた。開発室閉鎖という逆境に直面しながらも、レーザー技術への思いを諦めなかった若き日の姿。そして今ではその経験を活かし、社員の新しいチャレンジを全面的に支援する経営者として活躍している。

技術に対する真摯な姿勢は、経営者になった今も変わらない。東京本社には、お客様が抱えるさまざまな課題に向き合うためのテストルームを設けている。このテストルームにはお客様が気軽に立ち寄るだけでなく、社長自身もよく足を運ぶという。そのような環境で仕事をする姿に、現場を大切にする経営哲学を感じた。

渡邉公彦/1967年、北海道生まれ。1988年、日本工学院北海道専門学校を卒業後、精電舎電子工業に入社。取締役技術部長、取締役営業部長などを経て、2021年、代表取締役社長に就任。