
プラスチックやガラスなどに金属の輝きを与える「真空蒸着加工」を軸に、さまざまな加飾加工を手がける津田工業株式会社。同社は化粧品容器の装飾で国内シェア約30%を誇り、照明器具からアミューズメント機器の部品、釣り具まで幅広い製品に技術を提供している。
「津田工業大学」という社内大学を通じて、人材育成にも力を入れる同社の歩みと展望について、代表取締役の津田健氏に話を聞いた。
危機を転機に変え、急激な市場変化を乗り越えた
ーーこれまでの経歴と貴社に入社した経緯を教えてください。
津田健:
大学卒業後は、株式会社埼玉電算研究所に入社しました。当時はまだパソコンではなく、オフィスコンピューターと呼ばれるものが主流だった時代です。私はそこで、オフィスコンピューターのシステム開発に従事していました。
そんな中、家業の津田工業がフランスシャネル社と取引することになり、容器加工のために社員をフランスへ派遣する必要が出てきたのです。弊社の創業者である父から「数年手伝ってほしい」との要請があったため、弊社に入社し、一時的にフランスへ渡ることになりました。
もともと弊社を継ぐつもりはなく「いずれどこか別の会社に移ろう」と思っていたものの、日本に帰ってきたタイミングで、今度はフランスから大勢の技術者が来日することになったのです。その対応役を務めるうちに、自然と弊社に深く関わるようになりました。
ーー社長として舵を取るようになったきっかけは何でしょうか?
津田健:
社長就任の背景には事業環境の激変がありました。私が社長になる前、弊社は携帯電話事業で大きく成長していました。いわゆるガラケーが主流だった時代は売上が非常に好調だったのです。
ところがスマートフォンへの移行により、ガラケー市場が急速に縮小し、弊社の事業も先細りが確実な状況でした。創業以来右肩上がりだった業績が急落する中、父から「これ以上は下がらないから、あとはお前が工夫していけばいい」と言われ、2011年に社長へ就任することになりました。就任後は携帯電話事業から撤退し、化粧品容器を中心とした本来の事業に立ち返り、売上重視から利益重視の体質へと転換を進めました。
国内シェア約30%を誇る、高度な表面加工技術

ーー貴社の事業内容を教えてください。
津田健:
弊社は特殊な表面加工を専門とする会社です。主力技術は「真空蒸着」といい、プラスチックやガラスなどの容器の表面に金属を付着させて美しい光沢を生み出します。ここに塗装技術を組み合わせることで、色彩豊かな装飾を可能にしています。
化粧品容器の装飾加工では国内で約50%のシェアを持っていますが、弊社の技術は化粧品容器だけに限りません。照明器具やアミューズメント機器の部品、釣り具など多岐にわたる産業で活用されています。これは弊社の高い技術力が幅広い産業で認められている証と言えるでしょう。
ーー人材育成の取り組みについてもお聞かせください。
津田健:
最近立ち上げたのが「津田工業大学」という社内大学です。これは弊社の未来を見据えた取り組みで、ベテラン社員が持つ技術やノウハウを若手に伝える場となっています。特徴的なのは、各部門の社員が自ら教材となる動画や文書を作成し、講師となって若手を育てる点です。たとえば製造現場では「設備の使い方」や「過去の事故事例」などを動画で分かりやすく解説しています。
また、営業管理システムを導入し、誰がどのお客様とどのような商談をしているかを「見える化」しました。これによって個人の努力を可視化するとともに、円滑な引き継ぎを実現しています。
お客様の課題解決を第一に、業界の枠を越えて挑戦していく
ーーどのような人材を求めていますか?
津田健:
弊社が求めているのは、何より「チャレンジする人材」です。成績や学歴といった過去の実績ではなく、これからどう成長していくかという未来を重視しています。みんなと横並びで安定していたいというよりも、「やってみたい」「任せてください」と1歩前に出る積極性を持った方が活躍できる環境ですね。
実際、高校を卒業したばかりの若手社員が、数年後には現場のリーダーとして活躍しているケースが多くあります。意欲さえあれば未経験の方でも十分に力を発揮できる職場だと自負しています。
ーー今後の事業展開についてのビジョンを教えてください。
津田健:
創業以来、弊社は容器メーカーとのお付き合いを大切にしてきました。今後もその姿勢は変わりませんが、現状の枠にこだわらず、新しい分野へも事業領域を広げていきたいと考えています。
10年後には「あの会社がこんなことをしているとは」と驚くような展開になるかもしれませんね。お客様の課題解決に貢献できるのであれば、業種や業界の壁を越えて積極的に挑戦し続けていきたいと思います。
編集後記
取材を通じて印象的だったのは、津田社長の「自分の頭で考え、自分の言葉で発言する」ことに対する誠実な思いだ。その思いが社員にも伝わり、意欲のある社員にはどんどん仕事を任せるという環境が、1人ひとりの主体性を引き出しているのだろう。「1歩前に出る人材」を育てる環境づくりに、製造業の持続的発展のヒントを見た。

津田健/1959年、宮城県生まれ。城西大学卒業。大学卒業後、株式会社埼玉電算研究所に入社し、システム開発に1年間従事。1983年、津田工業株式会社へ入社。2011年に代表取締役に就任。