※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

花き類の国内小売市場は長く1兆円規模だったが、2016年に1兆円を下回った。が、その後は目立った落ち込みはなく、2020年のコロナ禍の需要減退でも9668億円(前年比98%)にとどまった。

2025年に9897億円まで回復するとのシンクタンク予測もあり、通販や量販店をはじめ今後の需要拡大が期待されている。

戦後ほどなく姫路花商組合として創業した株式会社姫路生花卸売市場(1972年法人設立、兵庫県姫路市)は現在、6つのグループ企業を擁する総合花きカンパニーにまで成長を遂げた。

全国各地に顧客を抱え、海外は東南アジアでの生産・販売などワールドワイドに活動。さらに地元小学校で「花と緑に親しみ、育てる機会を提供し、やさしさや美しさを感じる情操面の向上」を目的とした「花育」の活動や、業界でもいち早くリモートのセリを取り入れるなど、多彩な経営を展開する柔軟性の高さが魅力となっている。

2001年から同社を率いる代表取締役社長の柴山栄一氏に、若い頃のエピソードや事業について詳しく話を聞いた。

相手のファクス用紙がなくなるまで営業に没頭した日々

ーー貴社に入社するまでのエピソードをお聞かせください。

柴山栄一:
大学を出て神戸の会社に就職しましたが、入社日に辞表を出して退職した経験があります。入社前にOJTに参加したものの、モヤモヤして「これでいいのか」と真剣に考えた末、直前に「間違っている」と結論を出して辞めることにしたんです。

その後は、しばらく実家の仕事で時給200〜300円のアルバイトをしていたのですが、弊社の当時の専務が私を岡山に連れて行ったのです。その行き先は岡山県の生花会社で、5年間の約束をして修業をすることになりました。

しかし初任給19万円の時代に月給5万円だったため、生活は厳しかったです。会社の仕事が終わったら別のアルバイトをして、先輩の家を順番に回ってご馳走になる生活をしていました。

そうするうちに父が重病にかかって、予定より早く姫路に帰ることになったんです。先代社長である父は5年くらい入退院を繰り返して余命わずかと宣告されたある日、「お前が社長をやれ」とポツリと言いました。

父はしばらくして亡くなり、私が社長になって最初の仕事は連帯保証人の印鑑を押すことでした。会社の移転費用も含めて多額の借金がありましたから、その時に「これを返すのが僕の仕事だ」と覚悟を決めましたね。


ーー入社後はどのような仕事を経験したのでしょうか。

柴山栄一:
姫路に戻ってからは寝る暇もないほど営業に明け暮れる日々で、あまり家にも帰ってなかったですね。

関西圏から岡山県までのタウンページを使って、いろんなお花屋さんに毎日ファクスで営業をかけていたんです。そのうち電話がかかってきて、「お宅のファクスのせいで、うちの用紙がなくなる」と苦情が複数きたくらいです。ですからそのあとファクス用紙を配って回ったこともあります(笑)。

また、スーパーマーケットの店頭に花を並べて売るスタイルは今ではポピュラーですが、当時市場としてはほとんどなかったと思います。

バブル経済がはじけて花きが売れにくい状況になっていましたから、生産者と仲良くしていただけに、何とかしたいという意志から、当時は新規営業に没頭していました。

地域貢献活動「花育」のトップバッターになる

ーー「花育」はどのような経緯で始まったのでしょうか。

柴山栄一:
現在では定着した花育は、姫路市と連携し小学校で年間4800名に『花育』授業を実施していますが、その発端になったのは、全国花き卸売市場協会の青年部会に出席した際に、そこに来られた講師の先生が企画されている花育『一花一葉』のお話を聞いてすごく感銘を受けました。

それまで花を売る商売のことしか頭になかったのですが、自分の子供から「お父さんの仕事はどんな仕事?」と聞かれたときに、胸を張って説明できるような地位の職業にしたいと思ったんです。

地域と教育に貢献する、真に豊かな職業にできればと思い、すぐに「やりましょう」と賛同して花育が始まりました。

リモートでのセリは他社を大きくリード

ーー貴社の強みはどんなところでしょうか?

柴山栄一:
兵庫県の中でも神戸は大阪商圏と近すぎて競合しますが、姫路市は大阪と約100㎞距離があるので、同じ商圏に入らないのは有利な条件です。

仕入れ面では、他社は生産者から直接商品を調達せずに、大手の卸売市場から仕入れる場合が多く、送料もかかりますが、弊社の場合は生産者とのつながりがあるため、積極的に直接仕入れを行うことができます。

さらに特徴的なのは在宅のセリでしょう。在宅のリモートでセリに参加できる仕組みとオンライン上で相対取引ができるシステムを持っていますので、商圏はもちろん全国津々浦々です。現在では南は沖縄、北は北海道まで毎日数百件のオーダーが入ってきます。

沖縄へは1週間に1回程度、定期便があり、北海道は雪の降らない時期に限定して出荷するなど、輸送問題もクリアできているため、このビジネスはいいペースで拡大していますよ。


ーー今後の注力事業についてお聞かせください。

柴山栄一:
耕作放棄地が増えて社会問題にもなっていますから、姫路市と連携してそれを花の畑にして少しでもエコに貢献する活動を進めています。

また「農福連携」に力を入れ、福祉・障害者施設の方に農業を提案させていただき、こちらに出荷してもらうことに取り組んでいます。現在8事業所まで増やし、順調に伸ばしているところです。

海外ではJICA(国際協力機構)のもとでベトナムに花きの生産トレーニングセンターを建て、栽培指導をしながら上質な花の仕入れ・販売活動を展開しています。

編集後記

「この先会社がどうあるべきかを模索中。人材はそれを踏まえて、市場の人ができなかったことをやってくれる人、そういう人材は欲しいです」と柴山社長談。

思ったことをすぐに行動に移す、思い切りの良さが魅力の同氏。今後もどんなエネルギッシュな活躍を見せてくれるのか楽しみは尽きない。

柴山栄一(しばやま・えいいち)/1969年兵庫県生まれ。1992年姫路獨協大学卒業後、株式会社岡山県生花に入社し、1年の修業期間を経て株式会社姫路生花卸売市場へ入社。2001年に同社代表取締役社長に就任。「花育」活動にも力を入れている。