お土産に旅先の珍しいお菓子をいただくと心がはずむ。日本国内でも、所変われば全く知らなかったお菓子に巡り合う機会がたくさんある。
正氣屋製菓(まさきやせいか)は、そんなお菓子を扱う会社だ。地域限定で、宣伝もしていないけれど地元で愛されているお菓子を「愛菓子」(まながし)®と呼び、全国に紹介している。
有名メーカーのお菓子の取り扱いを辞めたのが、同社をけん引する代表取締役社長の安井栄一氏だ。大胆な舵を切った安井氏に、詳細をうかがった。
人が行かない道を歩んで、起死回生を図る
ーーナショナルブランドを扱わないという大胆な戦略にはどのような考え方で取り組まれているのでしょうか。
安井栄一:
私が専務の時代には、有名メーカーの商品も取り扱っていましたが、私が社長に就任してから辞めました。理由は、有名メーカーでは価格競争ばかりで値引き合戦となり、菓子問屋同士が疲弊し合うだけだからです。
私は有名メーカーとの取引を解消し、代わりに地方のメーカーの商品を積極的に仕入れることにしました。その結果、売上は激しく落ちましたが、利益率は格段に向上しました。
私の考え方は間違っていないと確信し、地方メーカーの商品を積極的に仕入れる方針をさらに強化していきました。今では地域限定の菓子メーカーの商品を約1000社、30000アイテムを取り扱っています。先日も、沖縄のある地元のスーパーさんから「北海道フェアを開催したい」とのご相談を受け、北海道で選りすぐりの愛菓子達を多数ご用意しました。
このような事例は、日本全国であります。
たとえば①イチゴの日フェア、②駄菓子系、③1000円〜2000円のギフト、④賞味期限が60日までの商品、⑤輸入菓子などのさまざまなニーズにも細かく応えられます。
ーー同業他社と、どのような差別化を行っているのでしょうか。
安井栄一:
たとえば私が沖縄に行く際は、自分の足で約30軒弱の得意先様を事前に見本と見積もりを用意して訪問します。
弊社の営業マンは、全国47都道府県の得意先を毎月必ず訪問して、取引先との信頼関係を築き、フェイストゥフェイスの重要性をかみしめております。
展示会出展で掴んだ成功
ーー社長になって他に取り組まれたことはありますか?
安井栄一:
地方メーカーに切り替えた時に、焦燥感と危機感を強く持って始めたのが外部展示会への参加です。日本全国の展示会に、1年に10回以上、10年以上出展し続けています。
展示会への出展費用は、ブース代が1回あたり約40万円です。年間10回出展すると、ブース代だけで約400万円になります。加えて往復の交通費や宿泊費もかかりますので、年間につき何百万円もの費用を必要とします。
しかし、当社では比較的高い成約率があるので、多くの新規のお客様を獲得することができました。
合気道師範と起業家との意外な共通点
ーー「盛和塾」の活動に24年間注力なさっていたとのことですが、きっかけは何ですか?
安井栄一:
元京セラ名誉会長の稲盛和夫氏と合気道師範の佐々木將人(まさんど)先生、この2大師範と出会ったことが私のターニングポイントです。弊社の経営計画書には盛和塾や佐々木先生からの学びが多く反映されています。
佐々木先生は、大学時代の合気道師範です。厳しい指導をしていただき、そのおかげで鍛えられました。厳しい練習を乗り越えた経験があったからこそ、社長になった当初、ひたむきに働いて乗り越えることができたのだと思います。
社会人になってからは、「なにわあきんど塾」の第4期生として経営者について学びました。卒業後、知人から盛和塾に誘われましたが、当時私は「盛和塾とは何か」「稲盛和夫氏とは誰なのか」全く知りませんでした。
しかし参加してみるととても面白く、すぐに魅了されました。盛和塾に参加していなかったら、会社を存続させるのは難しかったかもしれません。私は稲盛氏の全国各地で行われる講演やセミナーを追いかけました。同時に講演会先のお客様や仕入れ先様も回れたので、一石三鳥でした。
私が稲盛氏に共鳴する理由は「佐々木先生と稲盛氏が、偶然にも中村天風(てんぷう)という人物の薫陶を受けていたからだ」と、後にわかりました。佐々木先生は、中村天風の愛弟子としてカバン持ちを務めていました。また、稲盛氏はJALを再生させた際に、中村天風の言葉を掲げていました。稲盛氏は、中村天風を心から尊敬していたのです。
稲盛氏と佐々木先生、2人は私のお手本です。
300年続く企業を目指し走り続ける
ーー新卒採用や新規事業などについて、社長のお考えをお聞かせください。
安井栄一:
私の息子は32歳で、次期社長候補です。ECの強化や採用などは、息子に任せています。私が自分の片腕となるような営業マンを育ててきたように、息子も頼りになる人材を選んで、右腕、左腕となって活躍できるような優秀な営業マンを育ててほしいと思っています。
しかし、優秀な営業マンを育てるには、最低でも10年はかかるでしょう。弊社は2024年4月で99年目を迎えましたがまだまだこれからで、徳川幕府のように300年続く企業にしたいのです。
私自身は新規開拓や展示会などを、身体が許す限り続けていこうと思っています。
レジリエンス・運・言霊。成功への3つの鍵
ーー若手に向けたメッセージをお願いします。
安井栄一:
雪の重みで木の枝は折れますが、竹はしなった後に戻ります。このような「レジリエンス」(逆境における回復力)を備えるべきだと思います。嫌なことや辛いことがあったとしても、それは自分に何かを気づかせてくれる神様のような存在からのメッセージだと考えます。たとえば、「なぜ私はこのような境遇にいるんだろう?」と解釈力を鍛えると良いでしょう。
そして、私は「運がいい」というより「運が強い」と考えています。運が強いと信じれば、実際に運が強くなります。不運だと嘆いたり、他人の成功をうらやんだり、自分はダメだと卑下する考えを捨てることが大切です。たとえ今は悪いことが起きていたとしても、スーパーポジティブに考えてスーパーポジティブに行動すれば必ずコトは好転します。
また、私は言霊(ことだま)を信じています。たとえば、「忙しい」はリッシンベンに亡ぶ(ほろぶ)と書きます。忙しいと言っていると本当に心が滅びるので、私は「充実している」と言い換えます。
社員さんには、ネガティブ思考を呼ぶ「3D(どうせ・でも・だって)」を使わず、ポジティブ思考の「3S(すごい・さすが・素晴らしい)」を使いましょう、と話しています。
編集後記
商売の基本はフェイストゥフェイスだと語り、外部の展示会には必ず立ち合っている安井社長。ホジティブかつ熱意ある接客で商談をまとめ、全国各地にファンを増やしていったのだろうと想像できた。
3Dを封印し3Sを使い、レジリエンスで不遇を跳ね返すと笑う安井社長が率いる正氣屋製菓の、さらなる成長に期待したい。
安井栄一(やすい・えいいち)/1959年大阪府生まれ。和歌山大学卒業後、フジッコ株式会社に入社し、3年の修業期間を経て1985年正氣屋製菓株式会社へ入社。2001年に同社代表取締役社長に就任。盛和塾の活動にも24年間注力していた。