今、韓国は美容大国として世界的に注目を集めている。その中でも韓国ブランドのクッションにあらかじめファンデーションを染み込ませた「クッションファンデーション」は多くの日本人に愛用されている。
高品質でありながら低価格という韓国コスメのイメージを日本に定着させた立役者が、株式会社ミシャジャパンの取締役社長、康寅圭氏である。韓国コスメ市場を日本で開拓し、成功を収めた背景にはどのようなストーリーがあるのか、康社長にこれまでの歩みと展望について話をうかがった。
日本語が堪能な即戦力として選ばれ、日本法人を設立
ーー現在のミシャジャパンに出会ったきっかけを教えてください。
康寅圭:
日本留学中に力を入れていたのは日本語の習得とイベント運営で、「韓国留学生会」の代表として、グローバルなイベントを実施する経験を数多く積みました。
大学卒業後は日本のイベント制作会社で4年ほど勤務し、帰国後に韓国で仕事を探している時、「日本語ができるから、日本と関わる仕事がしたい」と思い、現在のミシャジャパンの親会社であるABLEC&C co.,ltdに日本市場担当者として入社したのです。
ーー最初から日本法人を設立する予定だったのですか??
康寅圭:
いいえ、もともと法人を設立するつもりはありませんでしたが、私が入社してすぐに日本市場での活動が決まり、日本語が堪能な即戦力として私が選ばれたため、入社10ヶ月で日本法人が立ち上がりました。
ーー設立メンバーとして苦労したことを教えてください。
康寅圭:
20年前、日本市場に韓国コスメを持ち込むこと自体が新しい挑戦でした。日本の消費者の韓国コスメに対する品質の懸念を払拭できるかどうか、またそもそも韓国ブランドが受け入れられるのかどうかといった不安がありました。
日本と韓国の企業文化の違いも大きな課題で、日本人は落ち着いて綿密な仕事を好む一方、韓国はスピード感を重視するため、こうしたギャップを埋めるのが非常に難しかったですね。
市場変革を目指した、低価格で高品質な新商品の誕生
ーークッションファンデーションが日本で爆発的に売れましたが、日本人向けに開発した商品だったのですか?
康寅圭:
すでに韓国で販売されていた商品で、当時、会社全体があまりいい時期ではなく、市場を変える何かが必要だと感じていた時だったので、韓国で急速に需要が高まっていたクッションファンデを日本市場に導入する戦略を立案しました。クッションファンデは当時の日本ではまだなじみがなく、起爆剤になると考えたのです。
日本で知られている韓国ブランドのクッションファンデは価格設定が高めでしたが、私たちは市場を一気に変えるために、格安で販売することにしました。同じ時期にメジャーブランドがクッションファンデの広告を出しましたが、ミシャは宣伝をせずに1,000円のクッションファンデを展開したところ、結果的に私たちの方が売れるという現象が起きたのです。
新商品を開発したいというより、市場を変えたかったのが一番の目的でした。低価格で品質の良い商品を提供するというインパクトは現在も続いており、日本専売の「プロカバーシリーズ」を発売して、カバー力を求める需要に応えました。
ーー商品へのこだわりや思いについて教えてください。
康寅圭:
トレンドに沿った商品展開が重要だと思っています。ミシャと言えばクッションファンデやグリッタープリズムのアイシャドウが主力商品ですが、年齢層が上がるとBBクリームを好む人が多くなります。スキンケアに力を入れたのは、コロナ禍でECサイトのスキンケアコスメ市場が拡大したからです。
ミシャはもともとスキンケアに強く、「タイムレボリューション」シリーズは9300万個以上の売り上げを記録しています。その知見をもとに、韓方化粧品やスキンケア商品をベースにして、日本市場に適した商品を提案しています。韓国の人気グループTWICEが使用していることも影響し、日本でスキンケアコスメの人気が広がっています。
今、特に力を入れている商品は「ミシャビタシープラス 泡マスク洗顔」です。洗顔料を泡立てる手間を省くことができます。
この泡マスク洗顔はボトルから出した時はジェル状ですが、手で伸ばして1、2分経過すると自然発泡し、肌に置くだけで洗顔とパックが同時にできます。パックと洗顔を兼ねた2way仕様なので、シートマスクも不要で、肌の汚れを落としながらビタミンCを肌に浸透させることができ、スキンケア効果もあります。シェービングの時に使う男性もいます。
「ミシャジャパン」として根付いていくために
ーー多くの競合ブランドがある中で、ミシャの強みは何ですか?
康寅圭:
当初、韓国コスメが日本市場で売れるという確証がないままに参入を試みたわけですが、オンラインショップのQoo10や越境ECへの出店が転機となりました。その後、多くの韓国ブランドが新しく日本に参入しましたが、新生ブランドにはリスクがあります。
ミシャは長い間、日本市場で培ってきた経験があるため、どんな商品が売れるかという判断ができます。一番の強みは「人」ですね。弊社には、美容の感性が高いスタッフがスピーディーに商品開発を行う環境が整っているのです。計画的に市場導入することで認知度を上げ、店頭での売れ上げにつなげています。
ーーこれからどのようなブランドに育てていきたいと考えていますか?
康寅圭:
ミシャは韓国ブランドというイメージが強いかもしれませんが、私たちは「ミシャジャパン」として日本に根付いていきたいと考えており、日本独自の商品を開発し、日本のブランドと肩を並べる存在にしたいと思っています。日本人スタッフが多いため、日本で安心して働ける環境や組織を整えることが私の任務であり、さらに、全員が幸せに暮らせるようにしたいとも思っています。
10年、20年後、日本に定着したミシャが、日本人から「すごいね」と言われるようなブランドに育てたいですね。アイデア勝負の中で積極的に自分の意見を持ち、現状を変えていける人と一緒に仕事がしたいと考えています。
編集後記
韓国コスメの日本市場展開に20年前から携わっていた康社長。「この場所で生きる人のためのブランドでありたい」と、韓国と日本、それぞれが持つ性質とトレンドを掛け合わせてニーズに寄り添ってきた。将来的に日本のブランドと肩を並べることが目標と語る康社長には、経験に裏打ちされた自信と必ず実現させるという強い意志を感じた。
康寅圭/韓国済州道生まれ。1993年、留学をきっかけに来日。2005年、韓国ABLEC&C co.,ltd(現株式会社ミシャジャパン) 海外事業部入社。2006年、株式会社ミシャジャパン設立に伴い、日本市場総括管理および営業本部長に就任。2020年、支社長および韓国ABLEC&C海外事業部理事に就任。2021年よりミシャジャパンの取締役社長。