※本ページ内の情報は2026年8月時点のものです。

金属加工業界は、常に技術革新の課題に直面している。この挑戦的な環境の中で、モリテックスチール株式会社は、「鋼材のプロとしての専門商社」と「金属加工のプロであるメーカー」の2つの顔を持ち、独自のビジネスモデルで業界に新たな価値を提供している。近年はEVシフトによる猶予期間を活かした新規事業の創出や、創業以来初となる大規模な人事制度改革にも着手した。激動の時代において、未来を見据えた戦略と組織づくりの全貌を代表取締役社長の門高司氏に聞いた。

2つの顔を合わせ持つ企業ならではの強み

ーーまずは、貴社の事業内容について教えていただけますか。

門高司:
弊社は、金属製品の加工と販売を主軸にしている会社です。製造部門と商社部門、この2つを合わせ持つことが最大の特徴です。主に鋼材を扱い、全体の約7割が自動車のエンジンやトランスミッション(変速機)関連ですが、家電や刃物など、用途は多岐にわたります。純粋な売上高構成比としては、規模の大きい商社部門が全体の約6割を占めています。

ーーメーカーと商社機能の2つの顔を持つことで、顧客に提供できる価値は何ですか。

門高司:
最大の価値は、提案の幅が非常に広いことです。商社として右から左へ材料を流すだけではなく、製造や加工のことを深く理解しているからこそ、お客様のニーズに合った材料をより広く、的確に提案できます。

また、全国展開する中で、商社としての大局的で広い視野を持てるように心がけています。世界を俯瞰する大手商社のような視点と、地域に密着した問屋としての視点。この2つをマッチングさせる仕組みは、当社ならではの強みだと自負しています。

さらに、サプライチェーンをほぼ全て自社で握っている点も特徴です。メーカーから入ってきた材料を自社で加工し、最後まで精査してお客様に届けているからです。

ーーこれまでで苦労したエピソードを聞かせてください。

門高司:
仕事を覚えたての頃は、正直なところ非常に過酷な労働環境でした。仕事の量が多く、家に帰って寝るだけの日々で、辞めたいと考える暇もありませんでした。父には「営業に向いていない」と言われ、技術系への進路を勧められました。しかし、私は研究よりも実践的に動ける営業を選んだのです。

最初はルートセールスが主で、与えられた仕事をこなすことに集中していました。もともと人と話すことが苦手でしたが、聞き手としてのスキルを磨くことで、徐々に自分の立場を確立していきました。次第に人との対話の醍醐味を理解して、コミュニケーションの大切さを学んでいったのです。

ーー社長が考える業界の面白さはどこにありますか。

門高司:
この業界の魅力は、私たちの製品が日常生活のあらゆる場面で使用されている点にあります。たとえば自動車や家電製品、工具の材料など、弊社が提供する鉄製品は生活を支える多くのアイテムに不可欠な存在です。

特に、炊飯器のコードリールとノコギリの材料では日本のシェアの約6割を占め、大手メーカーにも広く利用されています。これらの事実を知ると、この仕事がどれだけ多くの人々の生活に密接に関わっているか実感できます。製品がなければサービスも成り立たないわけですから、その重要性とやりがいを日々感じています。

EV化の猶予期間を活かした新規事業の創出

ーーEV化が進む自動車業界において、現在どのような変化を感じていますか。

門高司:
一番大きな変化は、EV化のペースが想定よりも鈍化しており、市場の移行に少し時間的な余裕が生まれ、2030年ごろまで既存事業がしっかりと続く見通しです。また当社も引き続きEV事業に関する開発を進めています。一方で、メインである鋼材事業は流通の再編が起こるなど非常に厳しい環境になりつつあるため、常にアンテナを張って次の展開を検討し続ける必要があります。

ーー猶予期間となる2030年ごろまでの約4年間を、どのように活用するお考えですか。

門高司:
この期間を「足場固め」と「新規事業の創出」の期間と位置づけています。既存事業に力を入れつつ、2040年や2050年を見据えた新規事業へ軸足を移しつつある段階です。具体的な構想として、以前から手がけていたEV充電器の展開を進化させ、充電器の横に通信機器を併設するビジネスを考えています。予約制にしてバッテリー交換ができるようにするなど、5Gを活用した展開を予定しています。

ーー新規事業の創出に向けて、外部の知見をどのように取り入れていますか。

門高司:
ゼロベースで新しい事業の柱を模索するため、事業構想大学院大学へ社員を1名派遣しています。そこで新規事業の構想についてディスカッションを重ね、新たな事業構造を練り上げています。また、さまざまな大学の研究機関ともコラボレーションを行いながら、次の時代を担う製品づくりを進めているところです。

さらに、大手自動車メーカー以外の新規開拓も進めています。メキシコやタイの海外工場を通じたネットワークを活かし、日本では取引のなかった系列の大手企業との新しいビジネスを始めました。自動車業界以外にも、農機具や家電関係など広範囲に展開しており、関連会社を含めると売上高の約半分は自動車以外の分野が占めるようになりました。同時に、コロナ禍で控えていた訪問営業も再開し、町工場などの小規模な企業へも足を運んでいます。中小企業へのきめ細かい営業活動も緩めることなく広げ続けています。

次世代を担う人材の採用と体制構築

ーー採用強化に向けて具体的にどのような取り組みをしていますか。

門高司:
現在、インターンシップを中心として、学生との接点を増やす取り組みが進行中です。毎年7月から9月の夏休みのタイミングに多くの学生が参加できる社内イベントを企画して、弊社の活動や業界について知ってもらう機会を設けています。多様な人に弊社を知り、興味を持ってもらえる接点を増やしていくことで、将来的に一緒に働きたいと思ってもらえる機会を積極的につくっています。

ーー中途採用においてはどのような人材を求めていますか。

門高司:
弊社が現在一番強化すべき課題は、管理部門の体制構築です。これまで営業と製造を主体に成長してきたため、管理部門が脆弱になっています。特にIR(投資家向け広報活動)や財務・経理に関する専門知識を持つ人材を強く求めています。また、工場の技術職やシステム関連の人材も必要です。評論家のように意見を言うだけでなく、現場で実際に手を動かして改善に取り組める方が理想的ですね。

安全志向と新しい人事制度が生む生産性の向上

ーー人事制度についてはどのような取り組みをされていますか。

門高司:
創業以来続く評価制度を大きく見直し、新たな人事制度を導入しました。昨年の10月から、全社的に給与体系を刷新しています。それぞれの役割に見合った適正な配置を行うことが今回の大きな肝です。これまで80年近く変わらなかった年功序列の制度を思い切って見直し、能力に関係なく勤続年数だけで上がってしまう課題を是正します。もちろん急な変化は負担になるため、3年から5年ほどの時間をかけて、徐々に成果主義寄りの評価へ移行中です。

また他人を助けることを積極的に評価する目標管理制度を導入し、従業員同士が互いに助け合う文化を重視しています。自分の業務だけでなく、他の人をサポートすることで生じるプラスの影響も評価の対象となり、助け合いながら成長できる環境を大切にする社風を体現しました。

ーー若年層の社員に対する裁量や挑戦の場はどのように提供していますか。

門高司:
できるだけ早い段階から新進の社員を昇格させ、経験豊かなベテラン社員がバックアップできる環境があるうちに、失敗を経験させる方針をとっています。一昨年から昨年にかけては、40代前半の執行役員を2名登用しました。早いうちから権限を与え、その活力をうまく会社に還元していきたいと考えています。さらに、社長直轄の勉強会や社外の研修プログラムなども積極的に活用し、次世代のリーダー育成に取り組んでいます。

ーー工場の生産性や品質向上のために、現場で工夫していることは何ですか。

門高司:
生産現場では「安全第一」の視点から、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を徹底しています。単に綺麗にするだけでなく、災害時に安全に避難できるよう、自分自身の命を守るための5Sだと伝えています。安全を追求して環境を整えると、結果的に生産性の向上にも大きくつながります。

この活動を「ショールーム化」と称し、お客様が見て安心できるような職場を目指し、活動を進めています。特にタイの工場では非常に整理整頓が行き届いており、日本国内でもなかなか真似できないレベルに達しています。環境を整えたことで、従業員自身が誇りを持ち、ワクワクして働いています。同様の環境を他拠点へ実施中です。

すべての従業員が笑顔で働ける未来の会社像

ーーシステムの刷新など、DXの推進にはどのように取り組んでいますか。

門高司:
機械化できる部分は機械に任せ、人間とどのようにコラボレーションしていくかを真剣に考えています。各部門や工場の効率化をさらに進めるため、数億円規模の投資を行い、生産管理システムなどの大規模な刷新を実行しました。以前は各現場の判断でシステムを構築していましたが、現在はグループ会社も含めた全体でシステムを統一していく方針へ舵を切っています。

ーー社内の管理体制で最も注力していることは何ですか。

門高司:
IRを重視していますが、その理由は何が起こるかわからない現代において、企業価値を高めることは経営の絶対条件だと考えているからです。業界再編による合併や上場廃止など多様な選択肢が出てくる中で、他社と対等に渡り合い、何より今の従業員を守り抜くためには、平時から企業価値をしっかりと高めておく必要があります。その土台づくりのためのIRを含めた管理体制の強化に取り組んでいます。

全従業員の笑顔が導く「共に成長する」未来

ーー今後目指す、未来の会社像についてお聞かせください。

門高司:
私たちが目指すのは、すべての従業員が笑顔で働ける会社です。笑顔で働いているということは、従業員が給与面でも幸せで、仕事にも充実感を感じている証拠だと考えています。従業員一人ひとりが満足していれば、そのポジティブな影響は自然と仕事の質や成果にも反映され、結果として会社全体が良い方向に進むと信じています。

ーー最後に、これからの貴社を担っていく人材に向けてメッセージをお願いします。

門高司:
弊社の経営方針は「人を大切にして、共に成長する会社つくり」です。自分たちが充実していなければ、顧客に最高のサービスを提供することはできません。会社として従業員が充実できるようにサポートするので、まずは自分自身の充実に努めてください。その姿勢が顧客への良いサービスにつながると確信しています。

編集後記

門氏の経営方針には、従業員が安心して働くことができる職場づくりが根底にある。社長自身の過去の経験から得たコミュニケーションの重要性や、チーム内での助け合いの精神を今日の経営に活かし、「従業員第一」を貫いている。彼らの安全とやりがいを追求する姿勢こそが、金属業界屈指の最高の製品を生み出し、未来の新規事業を切り拓く原動力となっているのだろう。次世代を見据える同社の挑戦から、今後も目が離せない。

門高司/1961年生まれ。1984年に近畿大学卒業後、森ゼンマイ鋼業株式会社(現:モリテックスチール株式会社)に入社し、鋼材事業営業職に従事。北海道、東京、名古屋の各営業所長を経験し、2019年6月より現職。従業員がワクワクする職場づくりの実現を目指し「変わる、変える、変えていく」を合言葉とした風土改革“Kプロジェクト”を推進中。2040年に向け3つの成長ステージを掲げ、次世代のモリテックスチールを創造している。