高齢化による労働人口の減少や建設需要の拡大から、近年は人手不足が深刻な問題となっている建設業界。
建設業就業者数はピーク時に比べ28%ほど減少しているにもかかわらず、国土交通省による建設投資額の見通しは年々右肩上がりが続き、2023年度も前年度に比べ政府投資4.5%増、民間投資1%増とある。
このような状況の中、国交省関係の工事も請け負い65年の実績のある株式会社エス・ケイ・ディは、人が集まる魅力的な建設会社をめざしている。当初は建設業に興味はなかったという長谷川常務の、この会社にかける思いを聞いた。
親が生きているうちに恩返しをしたいという思いから、自ら課した厳しい条件で入社
ーーまず、長谷川常務の入社の経緯について教えてください。
長谷川裕永:
私は高校卒業後、土木の専門学校に行きました。そこで2年間勉強した後、仙台にある弊社のグループ会社に入社し、4年半の間そこで勉強したのですが、実はあまり建設業に興味がありませんでした。車が好きなので中古車販売に興味があり、いずれ自分で会社を興したいと思っていました。ですから、その後中古車販売業の会社に入ったり、また弊社の傘下の生コン会社に移って、「将来は生コン会社を経営しながら自分で中古車販売をしようか」などと考えていました。
そんな折、ちょうど10年ほど前のことですが、父である弊社の社長から60歳の節目のタイミングもあり「エス・ケイ・デイに戻ってきて欲しい」という話がありました。私も今まで親には私の好きなようにさせてもらっておりましたので、恩返しできるのはやはり親が生きているうちかと思い、父の願いを叶えようと弊社に戻ってきたのです。
その際の条件として「社員が1人でも私がエス・ケイ・ディに相応しくないと判断したら辞める」ということで入社させてもらいました。なぜなら、会社というものは社長1人で成り立つものではなく幹部がいれば成り立つものでもない、やはり会社を根本から支えているのは、現場の方々や事務員など、一生懸命汗をかいて働いてくれている人たちです。そういう方たちからの信任を受けられないような人間では「会社のトップに立つべきではない」というのが、ずっと私の頭の中にあったからです。
入社してから2年間は専務のもとで、受注して竣工するまでの過程や工事にかかる費用の算出など建設業についての基礎から、会社のトップに立つために必要な資質を身につける方法まで、多くのことを学びました。
品質と安全が第一。この会社に頼んで良かったと思われるような工事がしたい
ーーでは貴社の事業内容について、簡単にご紹介ください。
長谷川裕永:
土木一式工事、建築一式工事、リニューアル工事と不動産の工事をメインでやっている総合建設業です。他には、横浜の市境から箱根の山の上まで国道1号線の維持管理を請け負っております。また、冬には除雪作業、災害時には被災場所に応援に行くこともあります。事業エリアとしては平塚、厚木、伊勢原など、神奈川県内の横浜、川崎以外の地域が主です。
ーー多くの建設会社の中で貴社が評価されている理由は何だと思いますか?
長谷川裕永:
弊社は品質と安全が絶対条件ですから、品質を落としてまで行うような工事は引き受けません。少しでも安全面が懸念されるもの、安全に工事が進められそうにないものも極力お断りしております。弊社はつくるだけではなく、それをメンテナンスし、また次の受注に繋げていきたいので、そこだけは徹底しています。やはり「エス・ケイ・ディに頼んで良かったな」と思っていただけるような工事をしたいです。
ですので、安全に関しての講習を受けるなど社内の安全教育にも力を入れております。弊社だけではなく協力会社にも同じような教育ができるように、会社で講習会を開催しております。
自分の言葉で話ができる、やる気のある人に来てもらい、みんなで相談しながら育てていく
ーー常務が入社してから今までは、どのようなことを目標にしてきたのでしょうか?
長谷川裕永:
私はもともと縦社会の息苦しい雰囲気というものが苦手なので、会社で働く間に1日1回でも笑うことができるような、社員のみんなが和気あいあいと仕事できるような会社環境を維持することを考えてきました。
それから最近の建設業は人手不足という問題があります。現在、国は建設ICT(人手を介さない機械化施工)を活用し、ロボットが重機を操作する方式を推奨していますが、結局それは延命治療でしかないと思っています。最終的にそれを動かすのは人ですし、特定の免許がないと工事が受注できないものなどは、免許取得者がいなければ機械化施工で工事はできても、そもそも受注ができません。そのためには、建設業界を人が集まるような魅力のある業界にしていかなければならないし、その中でもエス・ケイ・ディを選んでもらえるような、魅力のある会社にしていきたいと思っています。
ーー他に社内で改革した点などありましたらお聞かせください。
長谷川裕永:
3年ほど前から外部に委託して人事評価制度を構築しており、昨年の10月から少しづつ運用を始めているところです。入社してからのステップアップの指針と、それから誰が評価しても同じ評価になるような平等な評価制度、これらを運用していきたいと思っています。やはり社員の昇給のための指針のようなものがないと私自身困りますし、社員一人一人に納得してもらえるような人事評価の基準として、明確に説明できるものが必要だと思ったからです。
ーー採用についてうかがいますが、貴社が求める人物像とはどのようなものですか?
長谷川裕永:
まず、やる気があるかどうかということです。土木や建築学科などの専門分野を出ている必要はありません。あとは、自分が思っていることや感じていることについて、素直に自分の言葉で話ができるということも重視しています。面接の時はほとんど私自身も入って見ているのですが、そこが基準です。採用は新卒だけでなく、中途採用など窓口も広くしております。
ーー社員の育成についてどのように取り組んでいるのか教えてください。
長谷川裕永:
弊社には多くの部署がありますから、まず本人の興味のある部署を回ってもらいます。そして、それぞれの向き不向きに応じて適材適所に配属できるよう、社内で相談しながら伸ばしていくというのが、弊社の代表の考えでもありますから、そのように教育していきたいと思っています。
また、社員が資格試験を受けるための費用は会社が出し、必要であれば試験勉強のための外部の学校への入学費も支援します。何年か経験を積んでから、さらに上の資格を取れば、より大きな仕事を取れるようになるので、そうしてステップアップできるように教えています。
人付き合いが希薄な時代だからこそ、地域社会とのつながりや社員同士のコミュニケーションを大切に
ーー今後はどのような会社をめざしているか、そのために現在取り組んでいることなどについてお聞かせください。
長谷川裕永:
私は売り上げを伸ばすことばかりに囚われず、従業員の皆さんにいかに働きやすい環境を提供できるか、それを一番に考えています。選んでもらえる会社、残ってもらえるような会社を作る、強い組織を作るということに注力しており、それが自ずと会社が伸びることに繋がっていくと思いますし、結果として従業員の幸福感が上がることが一番嬉しいです。
一例を挙げますと、週休2日制の導入は、建設業界ではどこの会社も負担が増えるために躊躇する傾向がありますが、やはり休みが充実していないと仕事にも影響が出るので、弊社ではいち早く導入しました。
また、地域とのつながりも重視していきたいと思っておりまして、湘南ひらつか七夕まつりの準備やそれに伴う市内清掃なども行っています。中でも地域貢献の一環として、エス・ケイ・ディと協力会が中心になって毎月開催している「パンの日」があります。平塚にある『障がい者支援施設』の皆さんが作ってくださっているパンを弊社にまとめて納品してもらい、グループ会社や協力会社の人が購入しに来るのです。パンを購入することで、少しでも施設で働く方の助けになれば、またそれを通じて平塚市が元気になれば、と考えております。
会社の福利厚生としては、社内行事として毎年社員旅行があり、2年に1度は海外旅行に行きます。今年は65周年のイベントもあります。他には協力会社とのバーベキュー大会や、それぞれの現場で催す慰労会のようなものがあります。
普段は効率を考えて現場に直行直帰ですから、社員同士のコミュニケーションを取れるような場を会社が積極的に提供していきたいと思っています。今は人付き合いが希薄になっている時代ですので、会社ではなんでも話せる環境であるようにしたいと願っています。
編集後記
売り上げを伸ばすよりも共に働く人々を一番に大事にしたいと語る長谷川常務。会社を支える社員たちが働きやすい環境を整え、地域社会とつながることで、建設業界を人の集まる魅力的な業界に変えてゆきたいという強い思いを感じた。
業界の深刻な問題の克服に挑戦する株式会社エス・ケイ・ディに、今後も注目していきたい。
長谷川裕永(はせがわ・ひろなが)/1978年神奈川県生まれ。エス・ケイ・ディの前身である、湘南機械土木株式会社を創業した長谷川家に生をうける。専門学校(土木科)卒業後、同社のグループ会社に就職。その後、他業種での経験を経た後の2013年、父が社長であるエス・ケイ・ディに入社し、2018年には常務取締役に就任。次期社長の役割も視野に入れて同社の社内改革などに取り組んでいる。