※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

1973年に創業し、数々のプラント建設の熱絶縁工事に携わってきた株式会社三洋産業。時代の流れとともに事業のニーズが変化し、現在は既存設備のメンテナンスを総合的に手がけている。2023年に代表取締役に就任した大竹泰治郎氏に、入社の経緯や事業の強み、今後の展望についてうかがった。

大手商社で海外法人の立ち上げを経験、自らの使命と向き合い「工業」の世界へ

ーーまず、ご経歴を教えてください。

大竹泰治郎:
茨城県で生まれ育ち、大学への進学を機に上京しました。就職活動では、グローバルな仕事ができる商社を志望し、住金物産(現:日鉄物産株式会社)に入社しました。

入社後は、レディース向けアパレル部門の営業担当を経て、繊維事業のアメリカ市場開拓プロジェクトに参加しました。20代で営業戦略や採用活動にも携わり、ゼロから現地法人を立ち上げた経験は、社長となった今も非常に役立っています。

ーー貴社に入社したきっかけや、社長就任前後の流れもお聞きしたいです。

大竹泰治郎:
もともと、家業である三洋産業を継ぐ意思はなく、自分が選んだ人生を歩みたいと考えていました。しかし、家業が安定していたからこそ、中学受験をはじめとする自身のキャリア形成が実現したことも事実です。三洋産業の後継者問題に直面した時、自分には関係のない話だとはどうしても思えず、「今の自分にできることをやろう」と決意しました。

まずは業界や仕事について学ぶため現場を見て回った結果、「会社を継続させる」という使命を全うするには、時代に合わせて組織の土台を作り直す必要があると感じました。

社長就任までの約12年間で取り組んだことは、次世代を担う人材の採用や育成、属人化を防ぐ管理体制やシステム化、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの浸透など、さまざまです。社員がついてこられるスピードを保ちつつ、「できるだけ早く会社の体制を見直すこと」を心がけてきました。

「安定した操業を支える」という使命のもと、老朽化したプラントを修繕

ーー事業内容や企業の強みをお聞かせください。

大竹泰治郎:
メインとなる事業は、化学・産業系プラントのメンテナンス全般です。鹿嶋市と弊社が本社を置く神栖市にまたがる鹿島臨海工業地帯には、石油化学コンビナートがあり、たくさんの化学プラントが稼働しています。

1970年代を最後に新設されていない日本の石油化学コンビナートでは、ほとんどのプラントが老朽化しています。複数の企業や設備が集まっているコンビナートでは、1つのプラントのトラブルがコンビナート全体に影響する可能性があります。そのため、多種多様なメンテナンスが恒常的に欠かせません。そのメンテナンスを通じて安定した操業を支えることが、弊社の大きな使命となっています。

専門分野に特化した工事業者が多い中で、私たちは製造機器の付帯設備や建築・土木構造物まで総合的に手がけています。補修対象物によって劣化原因や状況、緊急度が異なるため、補修工事には決められたセオリーが存在しません。弊社が50年以上にわたって積み重ねてきた経験値こそが最大の強みであり、他の追随を許さない部分だといえるでしょう。

ーー長い歴史の中で生じた課題もお聞かせください。

大竹泰治郎:
石油化学工業は、ナフサを分解して得られるエチレンやプロピレンといった基礎素材を素に、プラスチックや合成繊維、合成ゴム、化学薬品などを生み出しています。Co2排出量の削減が課題である一方で、生活に溶け込んだ石油化学製品が世界から消え去る未来は考えにくく、今後も重要な産業であり続けることでしょう。

であるからこそ、時代の変化に合わせて、自社の技術力をアップデートしていく必要があります。弊社は長年「三洋にしかできない」と言っていただける技術力の高さを看板にしてきましたが、それらはあくまで「既存技術の組み合わせ」であり、ベテランのノウハウに依存してきました。

これからも「技術の三洋」というポジションを維持していくためには、ベテランの持つノウハウを会社全体で共有し、独自の技術開発への投資もしていくことが必須です。また同時に、これからは半導体など石油化学以外の分野での展開に目を向けていくのも重要な課題です。

社員が自分らしく成長しながら「次なる50年へ」

ーー採用活動の方針についてお話しいただけますか?

大竹泰治郎:
若手人材を確保・育成するための基盤づくりに力を入れています。経験豊富なシニア人材を即戦力として中途採用するなど、間口を広げつつ、次世代の管理職を担う新卒人材へのアプローチも進めなくてはいけません。

人手不足だから単純に人を増やすというのではなく、組織を見直した上で「全員にポジションがある」という状態であることが大切です。自分の役割を理解すれば、お互いにカバーできる部分や、育成すべきポジションも見えてくると思います。チーム内で自分が得意なことを頑張れば、必ず報われるような会社を目指したいですね。

カッコいいWebサイトやオフィス、福利厚生などで表面的に魅力をアピールしても、肝心な伝えるべき中身が無ければ効果は限定的です。多くの人に共感してもらえるために、今は私が目指す会社の形と「行動」との辻褄を合わせていき、社員が自分たちの想いを「外に発信したい」と思えるような環境を整えている段階です。

ーー今後の展望をお聞かせください。

大竹泰治郎:
私の行動原理は「50年続いた会社を1日でも長く続ける」というシンプルなものです。今後さらに50年会社を存続させるためには、「拡大」ではなく「成長」が欠かせません。会社の実体は、そこで働く人たち「全員の集合体」であり、そこに参加する者全員の成長の和がすなわち「会社の成長」となります。

社員には「自分らしく生きてほしい」と考えているため、自身で生き方を選択して仕事のモチベーションを上げるための仕組みづくりも進めています。人事評価制度や報酬体系を公開するようになってから、「自分や家族のために努力したい」という前向きな姿勢を感じています。

これからも、社員全員が健康で良い人生を送り、「この会社で働いて正解だった」と思ってもらうことが私の使命であり一番の願いです。

編集後記

会社の存続に必要なことは現状維持ではなく、成長を止めないこと。社長が目指す「成長」は、組織を構成する「社員」の幸せづくりにどこまでも直結していた。「現場に存在する人」をしっかりと見つめ、土台を固めていく姿勢は、「日本の産業を止めない」という使命のもと、工業の根幹を支えるメンテナンス事業にも通じるものがある。

大竹泰治郎/1974年、茨城県生まれ。早稲田大学商学部卒業。1996年、住金物産株式会社(現:日鉄物産株式会社)に入社し、繊維事業部にてアパレル向け営業を担当。ニューヨーク現地法人の立ち上げ、パリ駐在員事務所の設立、ヨーロッパ向け新規開拓などの海外案件を担当。2011年、株式会社三洋産業に入社。2023年、同社の代表取締役に就任。