2020年に始まったコロナ禍により多くの企業が苦境に立たされる中、この状況をプラスに変えたのが時計・宝飾品の卸・小売会社、株式会社ホッタだ。
同社の取締役社長、堀田峰明氏は「コロナ禍は絶好のチャンス」として、世の中の動きが止まったタイミングを活用して会社を変革させた。
祖業である時計卸売業に留まっているだけでは生き残ることができないため、先代社長が時計小売業に進出するという決断を行った。そして、小売事業を拡大するミッションを帯びて20年前に就任し、事業を拡大してきたのが今回お話をうかがう堀田社長だ。同社はどのようにして時代の波に乗り続けているのか。その挑戦とコロナ禍での取り組みを聞いた。
「卸から小売へ」をテーマに会社を変革
ーー卸売業から小売業へ舵を切ったときの話を詳しく聞かせていただけますか。
堀田峰明:
弊社は、戦後長らく国産時計メーカーや海外時計ブランドの代理店を務めるなど、商流における「川中」となる「卸」の立ち位置でビジネスをしてまいりました。
しかし、大きなメーカーは徐々に小売店と直接取引を始めるようになり、強いブランドは現地法人を設立し、小売店と取引をするようになりました。このまま卸売業だけを続けていても、今後生き残ることが難しいのは明らかでした。そのため、自ら小売を手掛けるようにしなければならないと小売店舗を一店舗銀座に出店し、それをさらに名古屋、大阪へと拡大して行こうというタイミングで私が社長のバトンを受けました。
――社長就任後にぶつかった壁や苦労したことについて教えてください。
堀田峰明:
弊社はもともと卸がメインビジネスであった時期が長いため、自社で小売店舗を構えることはお得意様のライバルをつくるということでもあります。当然お得意先からは批判が上がり、卸部門の社員からは不満が噴出してしまい、簡単な道ではありませんでした。
社内に向けては、「自社小売店舗は卸部門やお得意先にとってのショールームである。自分たちで小売に取り組むことで、商品の販売方法を開発できるため、営業のノウハウも蓄積できる。したがって、小売部門を持つことは卸部門にとっても武器になる」と説明しましたが、なかなか受け入れてもらうことはできず、部門間の不協和音には苦しみました。
――現在、貴社の卸と小売の売上の割合はどのくらいですか。
堀田峰明:
私が社長に就任したときは卸が9割で小売が1割でしたが、現在は比率がほぼ逆転しています。弊社は老舗の会社である一方、主たるビジネスが卸から小売に代わってまだ10年余りです。毎年毎年新しいチャレンジをしている新しい会社ともいえます。
苦境と思われたコロナ禍も、見方を変えてチャンスに
――コロナ禍で苦労された企業も多いですが、貴社はいかがでしたか。
堀田峰明:
苦難も多かった一方で、プラスに働いた側面もありました。コロナ禍の前は、弊社の理想の姿を、ミッション・ビジョン・バリューの形に整理したい、そして掲げた理念を体現することを評価する人事評価制度をつくりたい、といった思いはありましたが、忙しさにかまけて腰を据えて取り組むことができずにおりました。
ところが、コロナ禍で通勤や移動、会食などあらゆることができなくなり、急に多くの時間が生まれ、物事をじっくりと考えることができたのです。結果、この時期に時間をかけて言葉を紡ぎ出し、磨き上げ、制度を設計し、2021年に新経営理念を制定。さらに、それを体現する人の育成を目的とした、新人事評価制度を作ることができました。
また、コロナ禍の影響で多くの企業が採用を見送る中、弊社は採用強化に踏み込みました。経営理念や理想の人財像を明文化し、発信したことで、弊社の理念に共感する、組織親和性の高い人財が多数仲間に加わってくれました。
――そのほかに、コロナ禍だったからこそできた、ということはありますか。
堀田峰明:
通常であれば絶対に空くことが無いような好立地の物件が、コロナ禍で次々に空くことになり、「ここは!」という物件を押さえ、店舗網を拡大することができました。
――昨今、企業にサステナビリティへの取り組みが求められていますが、貴社はどのようにお考えですか。
堀田峰明:
サステナビリティと言うと、環境保護への取り組みやエネルギー消費についてなどに言及される場合が多いかと思いますが、私自身、弊社が最も社会のサステナビリティに貢献できるのは、「真っ当な仕事をつくること」だと考えています。
新しい経営理念のビジョンやミッションで謳っておりますように、私どもの仕事は「記憶に残る感動を、ともに」「最高の質のサービスを通じ、お客様の人生を豊かで活力あるものに」を日々実現していく仕事です。感動を生み出し、お客様の人生を豊かにすることができ、日々の仕事の中に感動を覚え、深いやりがいを感じ、それが生業(なりわい)となる。こういう社員を一人でも多く増やしていくことが、最も社会の永続性、サステナビリティにつながる活動だと思っています。
昨今はAIの導入などが進んでいますが、感情を読み取り、感動を生み出す仕事ができるのは人間だけです。人間にしかできない人間らしい仕事で感謝を生み続けることができれば、世の中はもっと明るくなるのではないでしょうか。
編集後記
取材の最後、堀田社長は「自分が幼い頃から大切にしていることや、何をしているときに満足感を得られるのかを探求することが大切。自分らしさを深掘りしていくと、社会でも成功する確率が高くなるのではないでしょうか」と、20〜30代の若手人財へメッセージを送った。
多くの企業が苦境に立たされたコロナ禍に飛躍した株式会社ホッタからは、どんなピンチでも見方を変えればチャンスに変えられることを学んだ。
堀田峰明(ほった・みねあき)/1976年東京生まれ。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒。大学在学中より音楽家として活動するも、先代である父の病をきっかけに2004年家業である株式会社ホッタの取締役社長に就任。祖業の卸中心から小売中心への変革を行うほか、(一社)日本時計輸入協会にてウオッチコーディネーター資格検定制度の創設に初代委員長として携わり、小売部門の本店を構える銀座の街づくり活動にも注力している。