※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

2009年、自由が丘でひとつの保育園が開園した。「キッズガーデン自由が丘」。当時認可外保育園だった同施設を立ち上げたのは、博報堂出身という異例の経歴を持つ人物。それからわずか15年、いまや80施設を運営する大企業へと成長を遂げた株式会社Kids Smile Holdings。

代表取締役社長中西正文氏に創業の経緯と成長の過程、そして大きな支持を得ている独自の教育プログラムについて話を聞いた。

40歳を過ぎての挑戦。異色の経歴で保育業界へ

ーー早稲田大学法学部を卒業された後に博報堂へ入社という華やかな経歴をお持ちですが、その後保育事業を立ち上げた経緯について教えてください。

中西正文:
30歳を過ぎた頃から漠然と「自分で何か事業をやりたい」と思っていました。大きな組織によくあることですが、自分の望まない仕事が増え、出世競争に巻き込まれるようになり、「これは違う」と感じるようになりました。

そんな時、「ガイアの夜明け」というテレビ番組で保育園に関する特集を拝見しました。当時は2006年で、待機児童問題が取り上げられていた頃でした。私はそれを見て、保育・幼児教育業界の可能性を感じ、保育業界に興味を持ちました。

そして、東京都の福祉保健局(当時)に認可外保育施設を運営したい人向けの説明会があると知り、話を聞きに行き、その後物件を探して銀行から融資を受け、最初の保育園を立ち上げました。

100人いたら100人が「やめておけ」と言われた。それでも進んだ理由とは。

ーー起業に関して、周りの方々の反応はどうでしたか?

中西正文:
私が「保育園をやる」と言ったとき、100人中100人に「やめたほうがいいよ」と言われました。経験もネットワークもなかったので、「上手くいくはずがない」と思われていたのです。

しかし、200人、300人に話しをきいていくと、少しだけですが「いいね」と言ってくれる人が出てくるようになりました。そういう人たちが出資をしてくれたり、一緒に働いてくれたりして、ずいぶんと助けられました。その経験から「やりたいと思って行動すれば道は開ける」ということを実感として会得することができました。

民間企業だからこそ見えた、子どもと教育に対する需要の変容

ーー多くの企業が苦戦する中、貴社はなぜこのスピードで成長できたと考えますか?

中西正文:
認可保育園の園児集客は行政が行い、また当時は待機児童が多かったので、どの事業者も安定して運営することが出来ていました。ただその分、「利用者の立場に立って運営をする」という視点に課題が多くあったようにも見受けられました。

私たちは「認可保育園」ではなく「認可外保育施設」からのスタートでした。「認可外保育施設」は自分たちで集客を行う必要があるので、その工夫は創業時から今に至るまで努力を重ねています。コロナ後になって待機児童問題が急速に解消していきました。地域によっては集客も厳しくなってきていますが、集客のノウハウをもたない事業者にとって、今は厳しい環境にあると思います。

よく話すのですが、民間企業では、研究開発部門が良いと思って開発した商品と、営業やマーケティング部門が「売れる」と考える商品に違いが生じるケースが起きます。「お客様が何を求めているのかを知り、開発したものとマッチングさせて世の中に出す」という方程式が重要です。

教育業界は保育士さんでも幼稚園の先生でも、皆さん何年も勉強して国家資格を取得し、資格を取ってからも日々研究をしながら現場で実践しています。

現在は少子化が進み、施設数よりも園児数が少なくなってきていますので、幼児教育の分野でも「お客様が何を欲しているか」「どのようにしたらこの商品の良さが伝わるか」といったマーケティングのコミュニケーションが必要になります。私は教育の専門家ではなく、マーケティングやコミュニケーションのプロフェッショナルです。会社には別に教育の専門家がいて、お互いの力を合わせて教育サービスを開発し提供しています。これが弊社の特徴であり、これからもその方法で勝負していくつもりです。

非認知能力を伸ばす、独自の教育プログラム

ーー貴社が行っている「キッズプレッププログラム」について、具体的な内容を教えてください。

中西正文:
大学卒業までの教育の期間と考えると20年あまりがその期間となります。その間、教育学的には大人が側につくことができる9歳までの期間と、大人が側にいる必要がない、側にいたくてもいられない10歳以降の期間に分けてアプローチを行っていく必要があるとされています。

大事なのは10歳以降の時期に、自ら「これをしたい」「やってみたい」という意思が持てるようになることです。これは最近良く耳にする「非認知能力」の中の重要な要素です。私達はこういった非認知能力を伸ばすことを大切にしています。

弊社のプログラムの1つに、「決まった正解がない課題を用意して、答えを教えるのではなく、自分なりに工夫して答えが出せるような経験を積む」というものがあります。「これは重要だから覚えてね」という方法ではなく、これまでの知識や経験を活用し、自分で答えをみつけていくためのプログラムです。

たとえば、子どもに鉛筆で海と山と砂浜の下地だけを書いた大きな画用紙を渡し、「今から自由に色を塗りましょう」と言うと、青い海、青い空、白い砂浜で色を塗る子もいれば、夕焼けのオレンジを使う子もいたり、夜の星空の色を使う子もいます。決まった答えはなく、どれも正解です。子どもが自分で答えを出し、同時に他人の答えを受け入れる経験を積んでいきます。この「お互いを受け入れあう」という感覚が今の時代では大事だと思っています。

その他にも、「自らやってみたい」と思える好奇心や探求心、そして友達と協力したり自分の気持ちを伝えたりするためのコミュニケーション能力などもとても大切だと考えています。

提供するのは「教育サービス」ではなく「パーソナルサービス」

ーー会社が求める人物像について教えてください。

中西正文:
私たちは教育サービスというより、パーソナルサービスを提供している会社だと思っています。「お客様が何を求めていて、それにどう応えていったら良いのか」を考えていくことが私たちの使命です。すると、カリキュラムも自然とそれぞれの子どもに合わせた内容になっていき、「1つ1つの家庭にどう対応していくのが良いか」を日々模索していくことになります。

「自分がやりたいことは教育じゃない」とか「自分がやりたいことは教育だから」という観点で私たちの会社を見るのではなく、日本で最上級のパーソナルサービスを提供している会社と認識していただきたく思います。

「社会貢献をしたいので、教育の世界に行きたいです」という方も採用の場面でよく出会います。社会貢献や社会課題の解決は非常に重要です。同時に上場企業の一員として、会社の成長にもコミットできる人材を私たちは必要としています。

マーケティングを1つの主軸にし、お客様に喜んでもらえる究極のサービスを探求しながら成長を続けていきたいと考えています。今後も新しい事業をどんどん展開していきたいと思います。

編集後記

今、教育業界は新たに「非認知能力を育てる」という新しいフェーズに入り始めた。その最先端を走るのは、独自の経営スタイルと教育プログラムを有する株式会社Kids Smile Holdings。

自らの事業を「最上級のパーソナルサービス」と呼ぶことから、中西氏が一人ひとりの顧客に真摯に向き合っていることが伝わる。同氏の今後の活躍に注目していきたい。

中西正文(なかにし・まさぶみ)/早稲田大学法学部卒業後、1995年に博報堂入社。2008年に株式会社Kids Smile Projectを設立。2018年に株式会社Kids Smile Holdingsを設立し、代表取締役社長就任。2023年より株式会社Kids Smile Project代表取締役会長。