株式会社ダイナック(1958年創業、東京都港区)は設立当初から、飲料大手のサントリーホールディングス株式会社のグループ企業としてレストラン事業を手がけてきた。
現在までに、街場のバー・レストランやパーティーのケータリング事業、ゴルフ場レストランの受託や道の駅の運営など、さまざまな事業に活動の輪を広げている。
コロナ禍で落ち込んだ業績の巻き返しを図るべく、親会社であるサントリー社のプロパー社員として数々の経験を積んだ綾野喜之氏が、2023年にダイナックの代表取締役社長に就任。それ以来、変革の動きは勢いを増している。
2024年、1月1日からホールディングス体制を廃止してダイナックグループ3社を1つに統合するなど組織の組み替えを行い、さらに経営理念も刷新した。相次ぐ改革の仕掛け人である綾野社長に、注力する人事や経営方針について話を聞いた。
業績の回復を誓って経営改革を実行
ーーダイナックの社長に就任するまでの経緯を教えてください。
綾野喜之:
1986年にサントリーに入社し、業務用酒販店様や大手外食チェーンの本部を担当し、営業としてサントリー製品の拡売に取り組んできました。
同社での営業時代に、今では東証プライムに上場しグローバルに展開しているワタミさん(当時ワタミフードサービス)を担当させていただき、居食屋「和民」の1号店から、株式を上場するまでの成長過程に携わってきたことがとてもいい刺激になりました。
その後はダイナックに出向となり、営業部門や経営企画等を担当し、2010年から別のサントリーグループの外食企業の役員を務め、再び弊社に戻ってきたというわけです。
ーー営業で苦労されたことをお聞かせください。
綾野喜之:
サントリー製品専売で取り扱って頂いた飲食店が開店から半年で閉店したことがあります。飲食店は一見流行っているように見えてもそう簡単なものではなく、実態は違うこともあるわけです。当時は、債権の回収に翻弄されましたが、若いうちに苦い経験を積んだのはいい糧になったと思います。
弊社に初めて出向したときも、外食業界で働く人材の採用と教育や、不採算店の閉店などで多くのスクラップ&ビルドを経験しました。そのように経営に近いことを早い段階で勉強させてもらったおかげで、今の立場があると思います。
ーー社長就任時はどのような心境でしたか?
綾野喜之:
ダイナックに常務として再度出向したときは新型コロナの渦中で、業績も厳しい時期でした。かなりのプレッシャーでしたが、自身が40代の時に一生懸命エネルギーをかけた会社ですから愛着も感じていました。
「経営を引き継ぐ以上は業績を回復させ、持続可能な企業体に変えていくのが私の役割」だと、身の引き締まる思いでした。
若者向けの業態を開拓し、幅広い年齢層の客を獲得
ーー貴社の強みはどんなところでしょうか?
綾野喜之:
レストラン以外にもゴルフ場、道の駅、サービスエリアの飲食店経営と、パーティーのケータリングも行っています。多業態・多店舗展開でありながら、飲食の提供という共通点を持ち、相互にリンクできることが大きな強みだと考えています。
ーー3年後、5年後の中長期的な展望について教えてください。
綾野喜之:
弊社の出店エリアは、千代田区、中央区のようなオフィス街を中心に展開してきたため、若者向けの業態が取り込めていませんでした。
そのため今後は、もんじゃ焼き店や若者向けの焼き鳥店など、20代後半から40代前半のミレニアル世代を中心とした層への業態も増やしていく方針です。
若年層を取り込みながらメインのサラリーマン世代も拡充し、年配層もつかむという流れで、これから出店戦略を組んでいきたいと思います。
業績だけでなく人にもフォーカスした経営を実践
ーー人材育成を強化するとお聞きしました。
綾野喜之:
人の育成に力を入れるために、現場ではアルバイトも巻き込んだチームビルディングに取り組みます。
コロナ禍で業績が落ち込んだこともあり、コロナ後は新しいダイナックとして、みんなで1つになって頑張っていこうという思いから、新たに理念体系を刷新しました。
「感動を調理して食の価値を広げていく」をパーパスとして掲げ、ビジョンの実現に向けて、自分の領域の専門性を磨き、人間性を高め、時代の変化に対応する考動を身に着ける事で、個の力を強くし、最終的にダイナック全体の力を引き上げて競争力を高めていけると信じています。
ーー人事評価制度についてお聞かせください。
綾野喜之:
人事評価はどうしても業績に左右される側面があり、また業績は商環境に左右されます。以前は業績の評価度が高かったのですが、それは「プロセスができているから業績もよいのだろう」との考え方が根底にあったためです。
しかしこれだけ世の中が複雑になったことを踏まえて、「プロセスをしっかり評価すべき」との考えにシフトしました。現在は業績以外の人間性も重視するよう評価制度を見直しています。
ーー人事面での独自の取り組みを教えてください。
綾野喜之:
組織風土を変えていく取組みの1つとして「さん付け運動」を進めています。私も社長ではなく「綾野さん」と呼んでもらっています。また上司も部下のメンバーにはさん付けで呼ぶようにしています。ピラミッド型だとモノをいいづらい雰囲気になりますので、フラットな組織にして、アイデアを現場からどんどん吸い上げていきたいと思います。
何が起こるかわからない不確実性の時代において常にトップが何かを決めるというのではなく、自立した現場の社員・アルバイトの方からも遠慮なく意見が出せるような、組織風土を醸成していきたいと思います。
編集後記
「起業や独立を目指す方は、飲食店の店長経験をおすすめします。人事面や経費関係、損益計算などが瞬時にわかるようになります。若い年代で普通のサラリーマンでは経験できない実践的な勉強ができて、きっと面白いですよ」。綾野社長は新卒世代に向けてこのように飲食業の魅力を語った。
経営理念を刷新し、組織改革、人事制度の見直しと、矢継ぎ早に策を打ち出す綾野社長はフレッシュでありアクティブ。決して守りに入らないその姿をこれからも追っていきたい。
綾野喜之(あやの・よしゆき)/1962年岡山県生まれ。1986年サントリー株式会社入社。大手外食チェーン店本部の営業を担当し、ワタミフードサービス(現:ワタミ株式会社)の居食屋「和民」の立上げに携わる。1999年、株式会社ダイナックへ出向。2010年、株式会社プロントコーポレーション常務取締役として、営業・店舗開発・経営企画などを担当。2021年、株式会社ダイナックホールディングス(現:株式会社ダイナック)の取締役常務執行役員を経て、2023年に株式会社ダイナックの代表取締役社長に就任。