
奈良県には、複数の製造加工分野で世界シェアNo.1をとった、「小さな巨人」と呼ぶにふさわしい会社がある。パンティーストッキングの製造機械で革新を起こし、これまでにないアイデアで発展を続ける機械製造会社、株式会社タカトリだ。なぜいくつもの分野で、新たなアイデアを生み出し続けられるのか。その背景には、代表取締役社長である増田誠氏をはじめとする、タカトリに引き継がれてきた「魂」とも呼べる考え方があった。その本質とは何か、増田社長にうかがった。
ひとつの分野に満足せず つねに未来を見据える
ーーまずは、貴社の沿革を教えてください。
増田誠:
弊社は1950年に創業した株式会社高鳥機械製作所を前身とする会社です。事業内容は、繊維機械の製造・販売や半導体製造機器、液晶製造機器、マルチワイヤーソー(新素材加工機器)、医療機器などの製造・販売です。
タカトリが有名になったのは、パンティーストッキングの生産方法に変革を起こした股上自動縫製機「ラインクローザー」の開発からです。当時は世界64ヵ国に販売し、世界レベルでシェアを独占して「小さな巨人」と称されていました。
その後、1985年ごろになると、会社の新たな柱をつくるべく、シャープ株式会社への機械納入をきっかけに半導体製造機器と液晶製造機器の分野に進出しました。
1990年からは、水晶、化合物半導体、圧電素子等、サファイアやSiC(シリコンカーバイド)といった硬くてもろい硬脆(こうぜい)性材料やシリコンインゴット(シリコンの柱)の精密切断加工ができるワイヤーソーの製造をスタートし、2014年からは医療機器も手がけています。長年培ってきた高い機械技術を、さまざまな分野で活かしています。
ーー増田社長が歩んでこられたこれまでのキャリアについてお聞かせください。
増田誠:
私は1986年に入社しました。入社前から弊社の独自技術に惹かれており、製造の現場でその真髄を学びたいと考えていたのです。しかし、配属されたのは予想外の営業部門でした。当時はパンティーストッキング市場に続く「新しい柱」を模索する、まさに方向転換の真っ只中。営業として最前線に立ち、シャープ株式会社との取り組みなどを通じて、未踏の領域を切り拓く成功体験を積むことができました。製造希望だった私ですが、現場の声を技術につなぐ営業の役割もまた、弊社の「創造と開拓」を体現する重要なピースだと気づかされました。
ーー入社当時の会社はどのような状況だったのでしょうか。
増田誠:
私が入社した当時のタカトリは、まさに大きな方向転換の真っ只中にありました。パンティーストッキングの製造機械だけでは将来的な成長が難しいと考え、新しい収益の柱を必死に探さなければならないという危機感があったのです。その重要な戦略のひとつが、シャープ株式会社との取り組みでした。液晶製造機器などの分野において、未踏の領域に共同で挑戦を続け、大きな成功を掴み取ることができました。この経験が、その後のタカトリの多角化路線の盤石な基礎となったのです。
タカトリの魂を次世代へつなぐ「第二創世記」

ーー社長に就任された経緯と、当時の思いをお聞かせください。
増田誠:
社長に就任したのは2016年のことです。当時、副社長だった私は、世代交代のタイミングで立候補いたしました。立候補した最大の理由は、タカトリの魂を次世代へつないでいくためです。当時、会社の「創造と開拓」というポリシーが少し弱まっているように感じ、「自分しかいない、自分が最もこの会社のことを考えている」という強い使命感を抱いたのです。私が先頭に立ち、もう一度原点回帰して、挑戦し続ける集団へと脱皮させる必要があると感じました。
ーー就任されてから、どのような組織づくりに取り組まれてきたのでしょうか。
増田誠:
私が目指したのは、創業者の意志を継承しつつも、それを超えるほどの製造業への熱意を社員とともに作り上げることです。単に過去をなぞるのではなく、今の時代に合った形で「製造業としての誇り」を再定義してきました。営業スタイルも、単に既製品を売るだけではなく、お客様とともに未知の課題を解決する伴走型へと変革させました。この10年、私は全社員に対して「超えていくもの」を掲げ、組織改革を推進してきました。過去の成功は素晴らしいものですが、それに縛られては未来はありません。
ーー社員とのコミュニケーションで大切にされていることはありますか。
増田誠:
就任当初、組織強化には10年の月日が必要だと考え、地球から月まで徒歩で向かうほどの覚悟を込めて「月までの旅」と名付けて取り組みを始めました。2026年の今、この10年間をものづくりの魂を再生させる「第二創世記」と位置づけ、まさに集大成となる節目を迎えています。
私が何より大事にしてきたのは、社員との「会話」です。どんなに多忙であっても、毎朝各部門長を集めて朝会を実施し、現場の小さな変化や熱量を感じ取るようにしてきました。その積み重ねが、次なるイノベーションの芽を育むと確信しているからです。これまでの挑戦で培った強靭な組織力こそが、新たな開拓へと向かうための最大の武器となりました。
絶え間ない挑戦で新たな価値を創造する
ーー営業の立場からどのように商品開発に関わってこられたのでしょうか。
増田誠:
技術が開発されても、それをどう市場にフィットさせるかが鍵となります。私は営業として海外へ積極的に赴き、現地の企業や技術者と直接対話を重ねてマーケティングを行ってきました。言葉の壁や文化の違いはありましたが、現地で聞いた生の課題を技術部門へフィードバックし、彼らがそれを形にして商品化してくれました。お客様の「困った」を解決したいという一心で動いた結果、現在のタカトリが持つほぼすべての商品群が組み上げられていったのです。今のラインナップは、いわばお客様との対話の結晶です。
ーーさまざまな分野に参入しているのはなぜですか。
増田誠:
複数の分野を開拓しているのは、時代の変化やニーズの減少に対応するためです。機械設備は耐用年数が長めなので、市場への浸透と共に需要が減少します。また、時間の経過と共に競合の参入が起こったり、機械の特許が切れたりといった問題も発生します。
弊社は、LEDの発光基盤に使われるサファイア切断加工機で世界トップシェアを獲得したことがあります。しかしそのときも実績に甘んじることなく、新たな可能性を模索していました。それは、LED光の波長の違いによるさまざまな効果を、既存装置にとり入れることです。
このチャレンジは、本来の目的を達成するには至りませんでしたが、医療機器に参入するきっかけになりました。参入分野は変わっても、技術はつながっていくものです。いつまでもひとつの事業で立ち止まらず、培った技術を社会に活かすため、つねに新しい道を探し続けることが大切なのです。
ーー事業を運営する上で、特に注力されているポイントはありますか。
増田誠:
技術力と同様に、経営基盤を支えるための徹底したコスト削減にも注力しています。現在は海外の生産拠点の再構築を含め、品質を維持しながらも「1円でも安く」提供することに全力を注いでいます。これはお客様への利益還元であると同時に、変化の激しい国際競争を勝ち抜くための生存戦略でもあります。技術に溺れることなく、シビアなコスト感覚を持つことが、持続可能なものづくりには不可欠です。
ーー独自の技術を活かした直近のトピックについて教えてください。
増田誠:
タカトリが目指すのは、他社には真似できない唯一無二の商品をつくることです。直近では「PLP-700」や「MWS-SiC12F」といった新製品を中国の展示会に出展いたしました。これらは次世代の半導体製造に不可欠な精密さを備えており、非常に高い注目を集め、弊社の技術力が世界で通用することを改めて示すことができたと感じています。今後も新商品を数多く世に出していく予定です。そのために、私たちは技術者の育成、そして全員が主体的に関わる組織文化の醸成を何よりも重要視しています。個人のひらめきを組織の力に変える仕組みづくりが、次の「世界初」を生むと考えています。
先駆者のいない未来へ「創造と開拓」の魂で挑む

ーー常に新たな価値を生み出す姿勢は、創業時からのDNAなのでしょうか。
増田誠:
弊社は創業当時から企業理念に「創造と開拓」を掲げています。これは、人に言われて製品をつくるのではなく、自分たちで需要を見つけ出し、自ら市場をつくり出していくということです。
この考え方は、会社が生き残っていくためにも大切です。すでに先駆者がいる分野には激しい競争がありますが、自ら開拓した分野であれば競争はありません。タカトリはそうやって独自のポジションを獲得してきました。
ーー困難な挑戦を支える、精神的な指針はありますか。
増田誠:
一見無謀に思える挑戦であっても、中国には「有志者事竟成」(志ある者は、事ついに成る)ということわざがあります。これは、「志があれば必ず成就する」という意味です。タカトリは「創造と開拓」という精神のもと、どんなに困難な壁が立ちはだかろうとも、今後も新たなチャレンジに取り組み続けます。志を失わない限り、道は拓けると確信しています。
ーー最後に、貴社がこれから向かう先のビジョンと、共に未来をつくる次世代へのメッセージをお願いします。
増田誠:
これまでの10年で組織の足場を固める「第二創世記」が集大成を迎えました。これからのタカトリは、築き上げた魂と組織力をベースに、新たな創造物を生み出し続ける未来永劫のステージに入ります。私たちが目指すのは、世界を驚かせる唯一無二の技術で未来を切り拓くことです。
このビジョンを実現し、社会に利益を提供し続けるためには、フロンティア精神から生み出される「耐性・改革・挑戦」という3つのキーワードが欠かせません。「耐性」は環境や市場の変化に耐えること、「改革」は自らを変えること、「挑戦」はひるまず取り組むことです。組織にこれらが揃っていれば、どんな逆風下でも前に進み続けられます。
これから社会人になるフロンティア精神を持った方は、ぜひタカトリで価値の創造に挑戦してもらいたいと思います。若手のうちから大きなチャンスを与え、意欲ある人にはどんどん任せる風土が整っています。社員の頑張りに応えるべく、2021年から2023年にかけての3年間で平均年収を1.36倍にまで引き上げた実績も、その姿勢の表れです。自分の手でものづくりを動かす喜びに共感し、自分の力を試してみたいという熱意を持つ人にとって、弊社は最高のキャンバスになるに違いありません。共に歩める仲間を待っています。
編集後記
トップに上り詰めただけで満足することなく、つねに未来を見据えて歩み続けるタカトリ。増田氏はまさにその魂を体現したような存在だ。「月までの旅」に始まり「第二創世記」として走り抜けた10年を経て、同氏率いるタカトリは次なるステージへと向かっている。自らを超え続ける開拓者の挑戦に、今後も注目していきたい。

増田誠/1963年奈良県生まれ。大学卒業後、1986年にタカトリに入社。執行役員営業本部長、代表取締役副社長兼経営企画本部長などを経て2016年10月、代表取締役社長に就任。