株式会社NOTEは2016年5月の設立以来、NIPPONIA事業を通して数多くのエリア開発事業を手掛けてきた。全国各地の文化資産に新たな価値や魅力を生み出し続ける「真の願い」は何か。代表取締役、藤原岳史氏に話をうかがった。
人生の転機――上場企業を辞めてから現在に至るまで
ーー経営者を目指したきっかけや、現在の思いについてお聞かせください。
藤原岳史:
まちづくり業界に関わり出す前は複数のITベンチャー企業に勤めていました。私が34歳となった2007年に勤務先の上場に寄与できたことで、自分の中の1つの目標が達成されたのです。人生における次の目標として、「地元のためになにか貢献したい」と思い、チャレンジに至りました。
現在は、歴史的建築物の活用を起点に、その土地の歴史的文化資産を尊重した持続可能なエリアマネジメントを行うNIPPONIA事業を展開していますが、さまざまな取り組みを通して、その奥深さを強く実感しています。
ーー奥深さとはどういった部分でしょうか?
藤原岳史:
弊社の事業は、暮らし・文化・歴史といった地域資源を魅力的な観光資源に変えるまちづくりです。地域の歴史が深いほど多彩なストーリーがあり、お客様に感動を提供できることもあれば、地方ならではの保守的な領域に踏み込んでいく難しさに直面することもあります。
とてもポジティブな面もあれば困難な面もあり、私が想像していた以上に日本には深い歴史があることを知りました。「シビックプライド」(地域の人が持つ誇りや愛着)をポジティブに変換する試みをしながら、全国の地域資源に光を当てています。
創業者が直面したIT社会と地方文化の壁
ーー困難に直面した具体的なエピソードがあればお聞かせください。
藤原岳史:
前職がIT関係だったものですから、まちづくりに参画した当初は「ITを使えば場所を問わずにサービスを届けられる」という考えがありました。少子高齢化が進む日本の地方を元気にできるのではないか、と思っていたのです。
しかし、地域の方にとっては馴染みのないITは運用のハードルが高く、地域課題の解決という点では歯が立ちませんでした。実際には、ITサービスの導入を検討する前に、その使用方法を教えるところから始まることがほとんどです。
たとえば、空き古民家を宿に再生することで地域に雇用を生み、地域に新しい人の流れをつくるビジネスモデルを考えても、地元にはネット予約システムを管理できる人がいません。また、クレジットカード決済のシステムを導入することが不安というケースもありました。
地方が生まれ変わる11の事業スキーム
ーー事業で感じた手応えや現在の強みを教えていただければと思います。
藤原岳史:
創業当時は、古民家再生プロジェクトが事業として成り立つのか定かでないところがありました。一般的に地域のまちづくり事業は、ボランティアやNPOが取り組んできた分野であるからです。
そのような状況下で事業をスタートし、私が高校時代まで暮らした兵庫県丹波篠山から始まり、実績を重ねていく中で、周りの市町からもお声をかけていただけるようになったのです。現在では、全国の地域からご相談をいただいています。
表面上はただ古民家を再生している、という風に見えるかもしれませんが、たとえばこういう業者が入っている、こういう客層である、ファイナンスの仕方、など実は裏側では一つひとつ違っています。トライ・アンド・エラーを繰り返すうちに地域の状況に合わせて11パターンの事業スキームを組めるようになり、地域に合わせて柔軟に事業スキームを構築できるようになりました。そのため、物件の属性に応じた提案をするノウハウや、蓄えた知見は弊社の強みと呼べるでしょう。
大手企業を巻き込んだ地方創生プラン
ーー今後の展望がありましたらお教えください。
藤原岳史:
私たちは地域の暮らしと文化がこれからの地域活性化で重要だと考えています。田舎には里山の雰囲気があるように、土地に合った生活様式は数百年前から存在していて、いずれも先人が暮らしの中で必然化してきたものです。
地域の宝そのものである「暮らし・文化」をもう一度信じて、世の中にその価値を広めていく必要があります。それによって「次の50年、100年後の日本へつなげられるものがある」とお伝えしていきたいと思っています。
ーー現状の注力テーマを教えてください。
藤原岳史:
弊社の事業は全国31ヶ所に展開しているのですが、この規模になると社会からの反応にも変化が見られます。今までは地域の自治体様からの依頼が多かったところ、最近は大手企業様から「一緒にまちづくりに取り組みたい」というお問い合わせが増えてきています。
地方創生やSDGsといった社会貢献事業に挑む企業様は多いものの、収益面の壁などがあり形に残せていないケースは少なくありません。日本のさまざまな企業がそれぞれの得意分野を活かして地方創生に参画するようになれば、一大産業にもなりうると思っています。
まちづくり事業の可能性を市場に問うことが今までのステージだとすると、弊社の次のステップでは現在展開しているNIPPONIA事業を単なる開発事業で終わらせず、より地域のちからとなるような人材育成やコンテンツ造成等にも注力していくことを目指します。
編集後記
人口減少が進む地方都市を中心に、全国的な問題となっている空き家や文化財保護。長いスパンで物事を見据える藤原社長は、次世代を託せる人材の育成にも意欲的だ。
明るい未来のためのまちづくり事業は、自治体や異業界を巻き込みながら、さらに大きな展開を見せてくれるだろう。
藤原岳史(ふじわら・たけし)/1974年、兵庫県丹波篠山市に生まれる。外食企業での勤務を経てアメリカのIT企業にインターン。帰国後、数社のIT企業勤務を経てシナジーマーケティング株式会社に入社、上場メンバーとして寄与。その後、故郷の活性化に取り組むためUターン。2010年に一般社団法人ノオト代表理事就任。2016年5月に株式会社NOTEを設立、代表取締役に就任。現在は、古民家等の地域資源を活用した地域活性化事業である「NIPPONIA」を全国で展開中。