※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

世の中が便利になり、人と人とのコミュニケーションが希薄になりつつある現代。しかしそのような中、人への思いやりを欠かさず、親密なコミュニケーションを武器にゼロから起業した若き経営者がいた。

13年前、彼がたった一人で始めたアトム・ロジスティックス株式会社は「窓口はひとつ 梱包から通関、輸送、現地配送まで一貫物流サービスもできる通関会社(乙仲)」として、現在、40名弱の社員が集まるまでに成長している。今回は同社代表取締役の厳原弘樹氏に、起業から今に至るまでの取り組みや顧客や、社員との向き合い方についてうかがった。

「頼まれごとは試されごと」お客様の求めるサービスで選ばれる企業へ

ーー起業のきっかけをを教えてください。

厳原弘樹:
もともとは通関会社で営業の仕事をしていました。はじめは先輩の仕事を引き継いでいましたが、新規の仕事をとるようになるにつれて、お客様が何を求めているかが見えてきました。そこでお客様が求めていることに焦点を合わせた営業に変えると、新規顧客がどんどん獲得できるようになりました。結果、社内の年間売上ナンバーワンという業績をつくることができたので、起業を決意しました。

起業してからは基本的にゼロからのスタートでしたが、会社員時代と同じようにお客様が何を望んでいるかを考えながら営業することで、新しくアトムのお客様を開拓でき、今に至っています。

ーー貴社の強みや、他社との差別化を図るうえで大切にしていることはなんでしょうか?

厳原弘樹:
弊社は輸出入の手続きを代行する通関業社ですが、通関だけではなく梱包のサービスも加え、一貫して任せていただけるような仕組みにしています。

たとえば「車を輸出しよう」というお客様がいた場合、税関への代理申告や、車をコンテナの中に入れる作業やターミナルに運ぶ作業、ブッキング予約など、多くの工程が必要になりますが、その全てを一貫して請け負っています。

貿易の世界では、「お客様は人につく」という特徴があります。お客様をどれだけ思って行動できるかが大切だと考えているので、依頼されたものについては断りません。「頼まれごとは試されごと(中村文昭氏の言葉)」です。期待を超えるサービスを提供できるよう、常に意識しています。

会社立ち上げで感じた社員の存在感

ーー会社を立ち上げるときに大変だったことは何ですか?

厳原弘樹:
会社を立ち上げた時は1人からのスタートだったので、「振り向いてくれたお客様をどう喜ばせようか」と、そのことだけ日々考えていました。

そのため、組織的な苦労はありませんでしたが、1人でやる大変さを実感しました。人手が足りなくなったので社員を雇うことになりましたが、当時の社員には本当によく助けていただきました。自分1人でやっていた時の大変さが分かっているので、「やはり人の力は大きい」と感じました。

ーー社員をマネジメントする上で心がけていることを教えてください。

厳原弘樹:
私の原動力は人なので、社員が大好きです。よく「社長は甘い」と言われますが、みんなに助けてもらっているので仕方ありません。社員が「アトムで働いていてよかった」と思えるような人生にしてあげたいと思っているので、仕事の楽しみを分かってもらえるような接し方をするように心がけています。

そのため、私はこれまで頭ごなしに怒ったことは一度もありません。たとえば小さなミスで5万円の損失を出してしまった社員がいた場合、「50万円じゃなくてよかったな。500万円じゃなくてよかったな。でも小さなミスで5万円損したのはもったいないな」と、5万円の損失の悔しさを分かってもらうように話すと成長してくれます。

梱包工場の立ち上げで社員からスキルを学び、絆を深める

ーー2022年に梱包工場を立ち上げた経緯を教えてください。

厳原弘樹:
もともと梱包は別の会社にお願いしていましたが、2022年の5月に、そこの社長が急逝して会社が倒産してしまいました。その時に、「なんとか職人たちをアトムへ入社させてくれないか」と打診されました。

すぐに返事はできなかったのですが、その工場は設備も立地も職人も素晴らしかったので受け入れることに決めました。それが梱包工場を始めるきっかけでした。

ーー他社の社員を受け入れ、梱包工場を始めたなかで、とくに心に残っているエピソードを教えてください。

厳原弘樹:
梱包の知識はなかったので、私も初日から作業服を着てフォークリフトの免許をとりに行ったり、クレーンの免許をとりに行ったり、職人たちと現場に出て仕事を教わりました。梱包の仕事をやって初めて分かったのですが、本当に奥が深くて頭も体も使うので、職人たちのすごさを肌で感じることができました。

また、スキルも身につき、本当の意味で梱包業を理解できたので、私にとってとても良い経験でした。社員と同じ目線で働くことで自然と距離が縮まり、お互い自然体で接することができたことも良かったと思います。

「人の強さ」を信じる

ーー今後の事業拡大の戦略についてお聞かせください。

厳原弘樹:
通関業務に2022年からはじめた梱包工場での業務も合わせ、今後は相乗効果で今までとれなかった仕事もとれ、軌道に乗ると考えています。

また、引き続き初心を忘れず、社員一丸となってお客様の期待を超えるサービスを提供していくことも、事業を拡大する上で大切な要素の一つだと思っています。

ーー読者の皆様にメッセージをお願いします。

厳原弘樹:
弊社はお客様に喜んでいただくための本質的な仕事ができる会社です。未経験から時間をかけてプロになれる良さもあります。

そして、人間同士ならではのコミュニケーションを大切にしているので、社員は温かい人ばかりです。素直さや誠実さのある人であれば成長できるはずなので、そのような人たちとぜひ一緒にお仕事をしたいと思います。

編集後記


「原子のように安定した強い会社、強い物流を作りたい」と力強く語った厳原社長。社員一丸となり、顧客のために奔走するアトム・ロジスティックスに、今後も注目していきたい。

厳原弘樹/1993年、大阪の中堅の通関業社へ入社し、通関業務並びに貿易業務を学ぶ。2011年、通関業社アトム・ロジスティックス株式会社を設立、代表取締役社長に就任。2023年、大型貨物が扱える梱包業も開始する。座右の銘は「負けて勝つ」。