※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

歯科技工士(※)が在籍する全国の技工所と歯科関連企業をマッチングし、高品質な歯科技工物を提供している株式会社成田デンタル。

同社は奨学金の貸与や最先端のデジタル技工機器の寄付などを行い、技工士の育成にも力を入れている。

歯科に関わる仕事の楽しさや、地元・大分への思いなどについて、代表取締役社長の堤大輔氏にうかがった。

※歯科技工士:歯科医師からの指示に従って、入れ歯、歯の被せ物や詰め物、矯正器具といった歯科技工物の作成や加工、修理やメンテナンスを行う専門職

歯科技工士の魅力、歯科に関わる仕事の楽しさを伝えたい

ーー貴社の事業内容や特徴をご説明いただけますか。

堤大輔:
弊社の主な事業は、入れ歯やマウスピース、矯正器具などの歯科技工物、器具洗浄剤などの周辺商品の販売です。さらに、約6000件の歯科医院と取引をしてきたなかで培ったノウハウを活かし、歯科医療事業所に対するコンサルティングも行っています。

歯科技工所や歯科医院は個人経営のところが多く、外部からの情報が入りづらいのがデメリットです。そこで弊社の営業スタッフが情報を提供し、経営上の次の一手を打つためのお手伝いをさせていただいています。

このように技工物の販売だけでなく、周辺のサポートも行っているところが、多くの先生方から支持されている理由だと思います。

ーー貴社の仕事の魅力を教えてください。

堤大輔:
歯科技工物は一人ひとりに合わせてつくるものなので、一からつくる楽しさがあります。また、歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士の方と連携し、パートナーとして技工物の作成に携われるのも魅力です。

経験を重ねるうちに「留め金はこちらに付けた方がいいのではないでしょうか」と、こちらから提案できるようになります。自分の意見が反映された器具を実際に患者さんが使用するので、とてもやりがいを感じられる仕事です。

なお、オーダーメイドでつくる歯科技工物の場合は、商品の価値を高めることで、適正な価格設定ができます。無理な値下げをしなくても、自社の商品に誇りを持って販売できるのも魅力だと思います。

ーー今後の目標をお聞かせください。

堤大輔:
歯科技工士はニッチな職業であり、離職率が高いのが大きな課題です。そのため歯科技工士の魅力を伝え、認知度を高めていくのが私の目標です。

私は31歳のときに歯科技工士を養成する専門学校に通い始めたのですが、技工所に就職しても、短期間で辞める仲間が多かったんですね。

歯科技工士が働く技工所は少人数で回すため、一人の負担が大きくなってしまうんです。就職したばかりで高いレベルを求められるので、ついていけなくなり、仕事を辞めてしまう方が後を絶ちません。

ただ、歯科技工士は目立たない仕事ですが、虫歯で困っている方や歯をきれいにしたいという方は多く、欠かせない存在です。そこで私たちがこの仕事の楽しさを伝えていき、業界を盛り立てていきたいと思っています。

歯科技工士を増やし、大分に小さな産業をつくる

ーー2022年の社長就任までの経緯を教えてください。

堤大輔:
成田デンタルに就職し、10年ほど営業の仕事に携わっていました。それから父が亡くなったのをきっかけに、父が経営していた大分の有限会社ピーエムラボという技工所を引き継ぎました。

経営が安定したところで兼任で成田デンタルの取締役となり、副社長を経て、社長に就任したのがこれまでの経緯です。

ーー千葉県と大分県で会社を経営しているわけですが、両県の違いはありますか。

堤大輔:
東京圏である千葉県はいろいろな仕事を選べますが、大分県は仕事の選択肢が少ないんですよね。職業の幅が狭いなかで、歯科技工士が一つの選択肢になるよう、小さな産業をつくれたらと思っています。

入れ歯やインプラント、矯正器具などをつくる職人の仕事に誇りを持てる人たちを増やしたいですね。

ーー歯科技工士の数を増やすためにどんな取り組みをしていますか。

堤大輔:
歯科技工士を養成する専門学校の入学希望者は減少傾向にあり、相次いで閉校しています。その結果、20年前は約70校あったところから、今は47校ほどまでに減っています。

学校が少なくなることで卒業生の数も減り、就職希望者も減るという悪循環に陥っているのです。

この現状を打破するため、私自ら大分県内の高校を回り、歯科技工士の仕事の魅力を伝えてきました。また、学校の先生たちも卒業生が活躍している様子を見て、生徒たちに専門学校への進学をすすめてくださっています。

こうした働きかけの甲斐があり、少しずつ大分県内の専門学校の入学者数が増えてきているんですよ。これにともない、新しく2校が開校され、両校合わせると毎年50人ほどが歯科技工士として一歩を踏み出しています。

さらに、歯科技工士の認知度を高めるため、大分県歯科技工士育成会の主催で「大分県高校生彫刻コンテスト~歯っぴぃ Art Award〜」を開催しています。石膏を使った創作活動を通し、歯科技工士の仕事に興味を持ってもらえるよう、周知活動を続けていきたいですね。

思いを込めることが品質の高さにつながる

ーー社員教育ではどのようなことを意識していますか。

堤大輔:
歯科医師や歯科技工士を相手にする仕事なので、専門用語が多く、最初は理解するのが大変です。そのため、入社前に座学を受けてもらい、現場に出てからは先輩社員が同行してフォローするようにしています。

わからないことを質問すれば、所長をはじめ、先輩方が相談に乗ってくれますし、先輩と後輩との距離がとても近い職場だと思います。

また、歯科技工士は患者さんと直接会う機会がないため、ただ指示されたとおりにつくればいいというマインドになりがちです。そこで私は「自分がつくったものを親が使うとイメージしながら作業してください」と言い続けています。

使う人のことを思い浮かべながら作業にあたれば、もうちょっときれいに磨いておこうという気になりますよね。こうしたひと手間が品質につながってくるので、思いを込めることを意識づけしています。

ーー堤社長が求める人物像をお聞かせください。

堤大輔:
とにかく素直で明るい人がいいですね。

入社する前は「本当にこの業界を選んでよかったのか」「この会社でやっていけるのか」と不安を抱えることでしょう。それに関しては、入社後に私たちが仕事の魅力を教えますので、働きながら感じてみてください。

弊社で経験を積み、「歯科に関わる仕事が好きだ」と思っていただける方を増やし、業界の成長につなげたいと思っています。

編集後記

「業界をより良くしたいという思いで、ただ愚直に進んできた」と話す堤社長。歯科技工物をつくる楽しさを伝え、「この仕事の魅力を多くの人に知ってほしい」と語る姿からも、熱量の高さが伝わってきた。技工物の質にこだわり、歯科医院をトータルで支える株式会社成田デンタルは、歯科業界に欠かせない存在であり続けることだろう。

堤大輔/1977年生まれ、大分市出身。福岡大学を卒業後、株式会社成田デンタルに入社。有限会社ピーエムラボの社長だった父が病に倒れ、大分市に帰郷して会社を引き継ぐ。専門学校に通い、歯科技工士の国家資格を取得。2022年、株式会社成田デンタルの代表取締役社長に就任。