※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

JF外食産業市場動向調査(※)によると、業務用食品卸の主要販売先である外食企業の売上高は2022年、コロナ後のリバウンドで前年比13.3%増となったが、居酒屋全体としては2019年の半分以下と戻りが弱い状況だ。
※2024年1月度「外食産業市場動向調査結果報告」(日本フードサービス協会)より

食品卸業界は全体として市場の再編が進んでいるため、生き残りをかけた競争が一段と激化するとみられている。

株式会社麻生(1947年創業、神奈川県平塚市)は、製麺をコア事業とする業務用の食品卸会社。現社長に交代してから業容の拡大と多角経営を進め、家族経営を脱却して従業員を70名に増やすなど飛躍的な成長を遂げてきた。

20代から総指揮を執る同社の代表取締役社長である麻生政雄氏の人物像に迫るため、プロフィールや経営戦略について話を聞いた。

社員を幸せにする方法を考えるのが経営者

ーー貴社の発祥と入社までのいきさつをお聞かせください。

麻生政雄:
母が終戦期に配給された小麦粉を還元するべく、ご近所から口銭(手数料)をもらってうどんをつくったのが弊社の始まりです。

私は高校時代の夢で、関西の大学を出て仕事がしたいと思っていたのですが、母に強く反対され、高校卒業後に家業に入ることになりました。

ーーその頃の社員数はどのくらいでしたか?

麻生政雄:
身内だけで構成された、6〜7人の会社でした。規模が小さいので私がなんとかしないといけないと、常に奮起していた気がします。

父は私が25歳の頃からほとんど会社に出なくなっていたため、名目だけ社長の父と常務の母、そして自分も入れて3人分働くプレッシャーと闘っていましたね。

ーー家族経営から会社が大きくなって気を配ったことは何ですか?

麻生政雄:
仕事が増えて1人でも社員を増やしたときには、「どうやってその人を幸せにできるか」を考えて行動してきました。

かつて平塚市役所の近くに営業をかけたいお店があったのですが、最初は怖くて中に入れませんでした。お店の前で、4、5回行き来を繰り返し、躊躇したあと、ようやく「こんにちは!」と大きい声で挨拶したのを今でも覚えています。

もともと人前で話すことが得意なタイプではないため、それを「克服しなければいけない、社員を幸せにするために自分が営業しなければ」と必死に取り組んだ結果です。

何十年も経営してきましたが、原点はそこにあり、その連続でいつの間にか現在に至っていると感じます。

顧客へのソリューションを長年にわたり追求

ーー商材の売上構成比を教えてください。

麻生政雄:
麺類が25%で、75%がその他の調理向けの業務用食材です。主力の麺については利益の確保を優先するために、今後は30%まで高めたいと思います。

麺類以外は顧客の要望を聞いているうちにどんどんアイテム数が増えて、今では4000種類以上になりました。たとえば、ラーメンに入れるもやしも、自社で調達するルートを開拓しました。それが発展して現在は、全国からとれたての新鮮な野菜を集めて販売するまでになったというわけです。

ーー主な販路先はどこですか?

麻生政雄:
ラーメン店がメインで、その他は飲食業を幅広く網羅しています。スーパーなど小売店にも卸していますが、大手になると極端に利幅が落ちるため、働いた分が残る範囲で頑張って対応していきたいと思います。

ーー貴社のセールスポイントはなんでしょうか?

麻生政雄:
極端な言い方をすると、外食業を始めたいお客様が「明日から商売したい」といえば即対応でき、「どうぞオープンしてください」と言えるぐらいの体制でサポートできることです。

さらに、お客様が悩んでいることに対して相談に乗り、「こういうものが流行っていますよ」とか「この食材がマッチしますよ」などと提案しています。

この40年間、お客様が困っていることをサポートするソリューションを提供することに重点的に取り組んでいます。

М&Aで成長路線を敷く中短期の計画

ーー人事面での考え方についてお聞かせください。

麻生政雄:
戦国武将、武田信玄の家臣のうちでも有能な24人をたたえた「武田二十四将」が好きで、時代は違えど弊社の幹部にも同じように大きく育ってほしいと考えています。現在部長5名、課長4名で構成される彼らに、それぞれの「城」を持ってもらうことが理想です。

ーー今後の展望をお聞かせください。

麻生政雄:
大まかな目標としては、3年後に迎える創業80周年には売上高40億円の達成を目指しています。具体的には2024年中に足場を固め、来年からМ&Aを進めていく計画です。

現状、製麺業界でも従業員12人以下の零細企業は相次いで倒産しています。私たちもこのままでは潰れるか大きくするかしかない。潰れるのは嫌だから他社を吸収して会社を大きくしていくほかないわけです。

十分な給料を社員に約束でき、彼らから喜ばれる企業にしたいと思っています。ですから今後とも年商40億円、50億円を目指してどん欲に成長を図っていく方針です。

編集後記

「社員に、私と一緒に仕事をして良かったと思ってほしい」と話した麻生社長。耳を傾けていると、社員を自分の子供のように思いやる優しさが言葉の節々に感じられた。

今でも調理用帽子をかぶりエプロンをして現場で汗を流すという麻生社長。「社長室にいれば楽だけどね」と苦笑いしながらも、次の目標に向けて会社と社員の成長のために励み続ける。

麻生政雄/1947年生まれ。神奈川県出身。1966年に神奈川県立江南高校卒業後に実家が営む製麺会社である株式会社麻生に入社。1988年に代表取締役社長に就任(現任)。