※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

「創味シャンタン」で広く知られる株式会社創味食品は、完全独立系の調味料メーカーとして独自の地位を確立してきた。1960年代は業務向けに開発・製造していたが、1987年に一般向けに「創味のつゆ」を発売したことを皮切りに、近年は市販用調味料の製造販売も拡充している。

こうした販路開拓をけん引してきたキーマンが、2016年に代表取締役社長に就任した山田佑樹氏だ。海外進出や調味料ジャンルの拡大など、着実に戦略を立て、いまなお目覚ましい成長を続ける同社の経営計画や展望をうかがった。

会社の要となる海外初進出と市販向け商品の開発に着手

ーーこれまでのご経歴を教えてください。

山田佑樹:
大学卒業後、協和発酵工業(現:三菱商事ライフサイエンス)に入社しました。研究開発部門に配属されたのですが、“食”を科学的に見る手法は新鮮で、実りのある学習機会でした。

その後は製造部門に異動し、食品製造の現場を経験。ここでは皆で1つの商品をつくる楽しさや小さな確認ミスが深刻な事態につながる怖さを知るなど、忘れられない経験をたくさんしましたね。

ーー貴社に入社後、どんな経験をされたのでしょうか。

山田佑樹:
弊社に入社後は北関東営業所に配属され、茨城県と東京都の一部を担当。営業職に就いたのはこのときが初めてでした。研究とはまったく方向性の異なる営業職への転身なので、当初は分からないことや戸惑うこともたくさんありましたが、結果的に楽しく仕事をさせてもらいました。

その後は商品開発セクションに移り、商品開発に携わる機会が増加。そこでは洋風ソースの先駆けとなる業務用のタルタルソースや、市販用シャンタンなどの開発を主導していました。

2013年に副社長に就任し、この頃に初の海外進出をスタートさせました。現SOMI FOODS営業責任者と2人で渡米し、ロスのお客様事務所の一角をお借りして営業拠点とし、日々奔走していました。その後もニューヨークやアムステルダムにも事務所を増設し、引き続き海外向け商品の開発に注力してきました。

ーー社長就任時の思いや、その後の取り組みをお聞かせください。

山田佑樹:
社長に就任した2016年は、市販用の「創味シャンタン」がヒットした翌年です。CMに出稿した影響もあり、認知度も売上も上がっていました。それまでは業務用調味料中心だったのですが、試行錯誤の末、市販品が大ヒット。「市販品は、一度ヒットすると売上に大きく貢献するんだ」と実感しましたね。

そして、「今後もどんどんヒット商品を作っていきたい」と考え、本格的に家庭用市場への挑戦を決意しました。この思いが、パスタソース「ハコネーゼ」、焼肉のたれ「二代目」というヒット商品の発売につながったと思います。

業務用の開発経験を生かしたクオリティで成長を継続

ーー貴社の強みについておうかがいします。

山田佑樹:
1960年代から業務用メーカーとして商品を提供してきましたが、1980年代からは市販用の売上も徐々に拡大し、市場に浸透させてきました。

市販品の売上が堅調な背景には、業務用の調味料を長年扱ってきた強みを生かした商品開発があります。結果として“少しお高いけど、やっぱり美味しい”調味料メーカーとして、国内外のプロ・一般消費者を問わず、高い評価をいただいています。

ーー調味料業界と貴社の将来性をどのように考えますか。

山田佑樹:
国内の調味料市場は人口減少によって中長期的には縮小が予想されます。さらに、原料・包材費の高騰や物流費の上昇も重なり、楽観視できない状況が続くでしょう。

しかし、この業界は中小企業が多く存在し、トップメーカーの寡占率が比較的低いという特徴があります。ですので、差別化されたクオリティの高い商品を製造することができれば、私たちが中長期的に成長を続けていくことは十分に可能だと考えています。

工場新設で拡大路線でも社員の労働環境を向上させる

ーー海外事業の現状と計画をお聞かせください。

山田佑樹:
現在、アメリカに2つのオフィスと1つの工場、欧州にはオランダにオフィスを1つ構えています。海外事業は世界的なラーメンブームを受け、大きく伸長し続けているのが現状です。米国工場の稼働が増加しているだけでなく、ラーメン関連商品は世界50か国以上への輸出実績もあります。

今後はさらに販売チャネルを開拓し、ラーメンスープ以外の商品についても売上拡大を図っていく構えです。

ーー生産面の戦略について、どのようなプランをお持ちですか?

山田佑樹:
2024年に新たに第5次中期経営計画を策定し、日米合算で2028年売上高500億円を目標に既存事業を拡充していきます。

一大プロジェクトとして、国内生産拠点である京都の2工場に加え、2026年に埼玉県羽生市へ物流倉庫を併設した敷地面積1万9000坪、建屋4500坪の新工場を竣工予定です。

新工場には省力化と効率化をテーマに生産設備を導入し、洋風調味料を強化していきます。さらに、新技術を用いた商品、精肉・鮮魚や加工ルートなど、新ジャンルの商品開発に注力することも念頭に置いています。

ーー長期的なビジョン、目指す姿を教えてください。

山田佑樹:
弊社は、事業目的として、「創味に所属する全社員の『心豊かな生活の実現のために』」を掲げています。心豊かな生活を送るためには、十分な所得、十分な休暇、やりがいのある仕事が大切だと考えています。

これら3点を踏まえた上で、社員が満足して働ける環境を整え、創味食品で働くことにプライドを持てる、真に「良い会社」を目指していきます。

編集後記

株式会社創味食品は直近50年にわたり、コロナ禍の2020年以外は1度も前年割れすることなく毎年業績を伸ばしてきたという。山田社長が「現状維持は退歩を意味すると考え、“積小為大”という社是のもと、少しずつでも成長することが与えられた役割」と話すとおり、右肩上がりの成長軌道を描いてきた同社。新工場の稼働にしたがって、ますますグローバルな活躍を予想させるインタビューとなった。

山田佑樹/2001年、協和発酵工業株式会社(現:三菱商事ライフサイエンス)に入社。2006年、同社を退社。同年4月に株式会社創味食品に入社。2011年、同社取締役に就任。2016年、同社代表取締役社長に就任。