※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

祖業は不動産であり、成長を支えたカラオケ店や飲食店、そして現在の事業の中核をなす介護分野とマルチに事業を展開する株式会社ウチヤマホールディングス。現会長に見出され、入社から2か月でカラオケ店の店長へとスピード出世した経歴を持つ、同社の代表取締役社長、山本武博氏に、企業理念や施策についてうかがった。

アルバイトから始まったキャリアジャーニー

ーーこれまでのご経歴を教えてください。

山本武博:
当時、アルバイトとして働いていた弊社運営のカラオケ店に、創業者である現会長がよく店舗チェックをするために来ていました。ある日、「うちの社員にならないか」と会長にいわれ、そのまま入社することになりました。会長から直接手ほどきを受けたことも多く、お客様第一主義の理念を学びました。

ちょうど事業を急展開していた時期だったこともあり、入社後すぐに新店舗の店長に抜擢されて、立ち上げから任されたのです。

その後、福岡の基幹店舗のオープンにも携わることになり、外部のサポートも得ながらマニュアルやルールを作成し、社内体制を整えました。結果、入社後1年未満でブロックリーダーのポジションに昇格しました。若い頃にこうした業務に携わることができたことは、今になってとても貴重な経験だったと感じています。

ーー当時は多忙な生活を送られていたと思いますが、ライフワークバランスについて現在はどのようなお考えをお持ちですか?

山本武博:
昔のように、何をおいても仕事が最優先だと部下に求めるのはナンセンスだと思っています。仕事以外にもしたいことがある人もいるし、逆に、一生懸命働いて、キャリアアップを目指したい人もいるでしょう。

個別の要望に完全に対応するのは難しいですが、社員の人生設計に合わせた働き方の選択肢は増やしていきたいと強く思っています。

生きがいづくりを支援する「ライフマップ」で独自の介護事業を展開

ーー介護事業の今後の展望をお聞かせください。

山本武博:
介護事業では、どうしても医療がベースにあり、病気による痛みの緩和や身体的な衰えをサポートするための「身体的ケア」が重視されています。しかし、自分が将来介護される立場になって考えると、高齢者の方々が真に求めていることを今の体制ではまだまだ提供しきれていないと感じます。

弊社では、カラオケ事業も展開してきたアミューズメント企業という独自の立場から、介護を受ける方が自分らしく余生を楽しむことができる介護スタイルを模索しています。

ーー貴社ならではの取り組みなどはありますか?

山本武博:
2014年頃に立ち上げた代表的な産学官連携プロジェクトが3つあります。九州工業大学とは介護現場へのデジタル導入、九州大学とは高齢者の生きがいづくり、九州歯科大学とは口腔ケアの充実による健康維持を進めています。この中で、九州大学との取り組みから生まれたのが、「ライフマップ」というアセスメントツールです。

「ライフマップ」では、人生ゲームのようなボードにさまざまなエピソードや趣味を表すマグネットを貼りながら、入居者様一人ひとりの人生を、職員が一緒になって振り返ります。このライフマップで得られた内容をもとに、施設での生活の中で生きがいづくりに結びつくような目標を定め、それに沿うようなケアプランを組み立てます。

実際に取り組んでみると、ご家族や職員も知らなかった意外な一面や、家族への感謝の言葉が出てきたりするので、ご家族にもフィードバックして、喜んでいただいています。

手芸好きで穏やかな入居者様が、余命数か月の宣告を受けたことを踏まえ、「ライフマップ」を活用した事例があります。その方は、実は元小料理屋の女将さんで、「再び店頭に立ちたい」と思っていることが分かりました。

そこで、施設の中で月1回のスナックを開き、その方にママとして切り盛りしてもらうことにしたのです。他の利用者様は客として参加して喜んでくれましたし、その方も「私の青春は今です!」と、とても喜ばれ、結果として、余命宣告から1年半ほど長生きされました。

人手不足の業界で状況打破の一手

ーー人手不足という介護業界全体の課題についてはどんな取り組みをされていますか。

山本武博:
業界では人手不足が叫ばれていますが、弊社では積極的に外国人人材の活用を行っています。法務省より登録支援機関の認証を取得し、特定技能外国人の受け入れや人材紹介事業を始めたところです。

実際に140人ほどのインドネシア人やミャンマー人に働いてもらう中で、現場の声を聞くと、施設の方からは「明るく笑顔が素晴らしい」と評判です。一方、入居者様は外国人スタッフに日本語や日本文化を教えることによって、彼らから感謝され、入居者様自身も生きがいを感じるなど、人手不足解消だけでなく良い人間関係の構築にもつながっていると感じます。

ーー働きやすい環境づくりのために工夫していることはありますか?

山本武博:
弊社では女性の施設長の多くが子育てを終えた50代以上で、子育て中の社員はキャリアアップを目指しにくい傾向がありました。そういった背景もあり、現在は介護分野のキャリア制度の抜本的な見直しを進めています。

理想としては、責任ある仕事を求める人材に平等にチャンスを与えたいと考えています。一方で、私生活を充実させていきたいという思いを持つ従業員の言葉にも、可能な限り応えていきたいと思っています。

ーー従業員サポートと教育について、どのような施策を打っていますか?

山本武博:
介護分野に限らず全事業にわたって社員教育や学びの場の提供に力を入れています。もともとホスピタリティ溢れる人材がそろっているので、より社会性を高めてほしいと願っています。

たとえば、昨年導入して好評だったのは、金融機関の方を講師に招いた社員向けの資産形成セミナーです。それ以外だと、最近ではスマホの使い方セミナーというのも行いました。職場を「業務のみを学ぶ場」とするのではなく、「広く学びがある場所」にできるように環境を整えていきたいですね。今後はさらにバリエーションを広げて学びの機会を増やしたいと思っています。

デジタルを取り入れた今後の新しい構想

ーー貴社は情報発信を強化されていますが、今後はどのような展開を考えていますか?

山本武博:
実は今、介護事業で運営しているYouTubeチャンネルで、入居者様が出演する動画配信を行っており、将来的にはそれらを収益化できるようにしたいと思っています。収益化が叶うと、出演料などを出演いただいた入居者様へお返しできるようになり、ちょっとしたお買い物やご家族へのおこづかいなど社会体験・生きがいづくりに寄与できると考えています。

この取り組みを通じて、入居者様自身が楽しみながら主体的に情報を発信できる場を設けたいと思っています。長く生きてきた経験がある方々だからこそできる、一つの社会貢献の形といえるでしょう。このようなサービスの継続的な提供を推進していきたいですね。

編集後記

学びの環境に恵まれたと振り返る山本武博社長。インタビューの回答からはもちろん、同社の電子新聞『ウチヤマタイムズ ON THE WEB』の随所に散りばめられた言葉や表現には、すべての人への感謝と成長への願いが溢れていると感じた。『ウチヤマタイムズ』の中で、同社の社員は「キラリ★一等星」の称号で紹介されている。これからも星々が放つ優しい光で世の中を照らしてほしい。

山本武博/1971年山口県生まれ。1993年北九州大学(現北九州市立大学)文学部卒業。1994年有限会社サイトウ(現株式会社ボナー)入社。2006年株式会社ボナーの持株会社として設立された株式会社ウチヤマホールディングスの専務取締役に就任。2021年株式会社ウチヤマホールディングス代表取締役社長就任。株式会社さわやか倶楽部代表取締役社長就任。2022年PT.Sawayaka Fujindo Indonesia代表コミサリス就任。