株式会社ウィズは平成元年(since1989)に設立、労働者派遣法が施行された草創期から、派遣業を営んできた。オーナー経営者の髙橋俊市氏は、現在でも第一線の現場で活躍している。35年の歴史の中で年商50億の会社をつくり出してきた背景には、独自の哲学があった。経営者として大切にしてきた思いをうかがった。
部下の思いに後押しされて人材派遣会社を起業
ーー起業することはもともと考えていたのでしょうか?
髙橋俊市:
いえ、社長になりたいという野心や夢を抱くタイプではありませんでした。私がヘッドハンティングを受けて会社を辞めようとしたとき、部下が「私も会社を辞めて、一緒の会社で働きたい」と言い出しました。
「それなら」と転職先に交渉しましたが、イエスといってくれるほど世の中は甘くありません。そこで、自分ひとりでその会社に就職するのではなく、一緒にやりたいと言ってくれる部下の気持ちを大切にしたいと思い起業することにしたのです。
起業した当時は30代で、必然的に会社をつくる流れとなりました。それ以来、35年間会社を経営しています。
あたりまえのことを積み重ね、「人」を大切にする経営
ーー貴社の特色と大切にしていることは何ですか?
髙橋俊市:
人材派遣業はまだまだ歴史が浅い業界です。大手人材派遣会社と弊社が大きく違うのは、代表の私が現場に立ち続けていることです。私はいまだにスタッフと直接会って話をしているので、派遣業のリアルな現状を誰よりも長く見てきたという自負があります。
また、「スタッフファースト」を掲げる会社が多いですが、私個人の感覚でいえば「スタッフオンリー」です。弊社の社員は、元派遣のスタッフが多く、専務もその1人です。働かなければならない、働く人を法律で守るのではなく、「人として」守らなければならないと私は考えています。
人との出会いを大切にしており、適性があると思ったら「うちで働いてよ」と声をかけることもあります。当たり前のことですが、このような声かけをしている企業はなかなかないでしょう。
ーー年商50億円規模の会社に成長させた秘訣は何でしょうか?
髙橋俊市:
ただ、当たり前のことをやってきただけです。たとえば、最近話題になっている一度退職した社員を再雇用する出戻り制度は、新しい考え方のように思われるかもしれませんが、弊社では昔から出戻り社員を再雇用することがありました。こちらからアプローチしたわけではなく、辞めた社員が退職後もよく会社に遊びに来ていたので、自然と再雇用につながってくるわけです。
ーー離職率が高い業界ですが、貴社は離職率も低そうですね。
髙橋俊市:
確かにこの業界の離職率は高いです。だからこそ、まず自社社員が辞めない組織をつくることを一番に意識しました。そうでなければ派遣のスタッフに対して「辞めないでください。」とは言えない、それが至極自然な形だと思います。
現在、社員の8割以上は紹介や、過去に私が関わった人達です。人手が足りないから採用を考えるのではなく、どこかで知り合って「入りたい」と言ってもらったときに採用しているという点はユニークかもしれません。先に人ありきだからこそ「いい人を採用したいけど、なかなかいない」という状況とは無縁なのです。
ーー事業戦略についてはどのような考えをお持ちでしょうか。
髙橋俊市:
これまでエリアや業界を戦略的に選んだことはありません。各支店に関しても「この土地でやりたい」という社員がいた場所で事業を始めています。戦略とは、本来、何をやるか、どうやるかを考えるものですが、あくまでもそれを実行するのは人。戦略よりも「この事業に心を傾けてやりたい」という人間がいるかどうかが成功につながるのだと思っています。
弊社の事業である派遣ビジネスでもそれは同じです。仕事は世の中にいくらでも溢れています。スタッフの派遣先を探すよりも「働きたい」というスタッフを見つけることが人材派遣業の大切な基本姿勢です。その中で、私たちはスタッフを一番大切な存在だと思ってやってきているのです。
経営を退いても存続し続ける会社にするために
ーー今後の展望についてお聞かせください。
髙橋俊市:
弊社の事業は人材派遣業ですが、あえて名刺に今「人材派遣」という言葉を入れていません。というのも、人材派遣業自体、決していい業界になっていないと思っているからです。弊社でやっていることは派遣業ですが、これから私たちが目指すのは派遣のスタッフの方々に福利厚生を提供する会社です。
派遣という働き方は、同じ会社で働き続けたくても、働けないのが現実です。だからこそ、仕事のない期間がないようにしつつ、仮に仕事のない期間があったとしてもそれを補填できる福利厚生的なサポートを提供するべきだと考えています。派遣先の企業ではなく、スタッフからの声を聞いて改善していくことを考え続けています。
私は5年後に75歳になります。5年後に今のような仕事の仕方はできないでしょう。私がいなくなっても、ずっと残っていく会社にするためには、組織の正義・会社の正義・業界の正義をいかに貫けるかどうかが重要です。世の中に本当の意味で貢献することを考えていくことが大切でしょう。
編集後記
経営者として戦略論や合理的な思考に決断を委ねるのではなく、人として当たり前のことをやり続けてきた結果、人が集まり事業を成長させた髙橋社長。インタビューからも、人望を集めるその人柄が伝わってきた。少子高齢化や人材不足が叫ばれる今。働き手がいかに自分らしく、自然体で働けるか。こうした視点を持っている人材派遣会社が次の時代をつくっていくと確信したインタビューだった。
髙橋俊市/大学卒業後、土木関連会社に就職。その後、飲食業やアルバイト、人材派遣業などを経て30代で株式会社ウィズを起業。内勤社員100人を率いる経営者にもかかわらず、派遣スタッフと日々会いながら、前線に立ち続けている。