
株式会社イベント21は、イベントの企画・運営、物品レンタル、会場の設営やデザイン制作などを手がける企業だ。Great Place to Work Institute Japanが主催する日本における「働きがいのある会社ランキング2024」では、女性・若手・近畿地域ランキングの3部門で1位を獲得し、アジアでは60位にランクインしている。
代表取締役社長の中野愛一郎氏に、父の思いを引き継ぎ、債務超過の会社を立て直したエピソードや、社員がやりがいを感じられる組織のつくり方など、話をうかがった。
父の思いと自分の夢を叶えるため、事業継承を決意
ーーまずは中野社長のこれまでの経歴からお聞かせください。
中野愛一郎:
会社を継ぐ前は世界放浪の旅に出て、合計で35ヶ国を周りました。発展途上国では街中にガリガリにやせ細った子どもたちがあふれ、過酷な現状を目の当たりにしました。「何でこんな状況を放置しているんだ」と強い憤りを感じながら、目の前で苦しむ子供たちを救えない自分の無力さを痛感しましたね。
その後、日本に帰国すると、父から会社を継いでほしいと打診されました。しかし、父の会社は16年連続で債務超過しており、そんな赤字続きの会社を継ぐ気はありませんでした。
そんな中、父が病に倒れ、余命1ヶ月半と宣告されます。病院に見舞いに行くと、もう一度会社を継いでほしいと懇願されたのです。そのときに父が会社にかける強い思いを知り、「父の人生を否定したくない」と思い、事業を引き継ぐことを決意しました。
ただ、ニューヨークで仕事がしたいという自分の夢もあきらめたくなかったため、会社を大きくしてニューヨーク支店をつくると宣言しました。世の中に影響を与えるほどの大企業になれば、かつて出会った子どもたちも救えるかもしれないと考えたのです。
そこで一念発起し、後継者としてイベント21に入社しました。
赤字続きの会社を立て直し、応募者が後を絶たない人気企業へ
ーー赤字続きの事業をどのように立て直していったのですか。
中野愛一郎:
弊社はイベント事業を行っている会社ですが、父のときはトンネルの貫通式がメインと、ニーズがかなり限られていました。そこで、イベント事業について再定義し、「人と人が出会い、絆を深める場」をつくることに行き着いたのです。そこからは結婚式や企業の内定式など、あらゆるイベントの運営を請け負うようになり、事業領域を拡大していきました。
そして、収益を得るために集客力を高めようと、独学でWebの知識を習得し、自社サイトを構築しました。その結果、多くの方が弊社のサイトにアクセスし、1日最大でおよそ240件もの問い合わせをいただけるようになったのです。
こうして仕事を獲得できるようになったため、次は組織づくりに力を入れました。多くの方に選ばれる企業にするために注力したのが、企業文化づくりです。まずは理念とビジョンを決め、組織の方向性を明確にしました。
組織の行動を綱引きにたとえると、どれだけ力の強いプレイヤーを集めても、綱を引く方向がバラバラだと十分に力を発揮できません。そのため全員が同じ方向を向き、団結して力を合わせる組織を目指しました。
なお、仕事をする上で手段や方法については社員一人ひとりに任せ、自分の力を最大限発揮できる環境づくりを心がけました。その結果、世間では人材不足が深刻な中、現在では25卒は22名採用でき、採用予定人数を大幅に上回る数の方から900名を超えるエントリーをいただいています。
一人ひとりが主体的に動くティール組織へ。仕事だけではなく人間性も養ってほしい

ーー組織運営についてはいかがですか。
中野愛一郎:
これまでは社員の個性を大切にする「グリーン組織」を目指してきました。ただ、コロナ禍でイベントが軒並み中止となり、私が率先して指揮を執らなければと思い、上からの指示で動く「オレンジ組織」に戻しました。
そして状況が落ち着いた後、またグリーン組織に戻しても、今回のような非常事態が起きたときに対応できないだろうと思ったのです。そこで、社員が各自で判断して動く「ティール組織」にしようと考えました。
そこからは企業のビジョンについても社員たちからアイデアを募り、経営方針発表会で発表しています。また、採用に関しても全部署の社員が関わり、どういった人材が適しているか、どのようなスキルを持った人なら活躍できるかを話し合い、候補者を決めています。
そうすることで、社員一人ひとりの「自分たちがこの会社を良くしていこう」という士気が高まりましたね。
また、一部の優秀な人間がフィーチャーされるのではなく、全員が活躍できる組織を目指しています。苦手な部分は別の社員がフォローし、それぞれの強みを活かすことで、パフォ-マンスを向上させたいと考えています。
ーー中野社長が社員の方に求めることを教えてください。
中野愛一郎:
私は社員一人ひとりが社会の問題と向き合い、世の中を変える主体者になってほしいと願っています。その一環として、弊社では売上の一部を毎月2つの団体に寄付する「you happy, we happy!」支援を行っています。
私たちは生活する上でさまざまなコミュニティに属し、お互い助け合いながら日常を送っています。社員たちには積極的に社会貢献活動に参加してもらい、職場だけではなく日頃から人のために動ける人間であってほしいですね。
自分に合った仕事の見つけ方とは。人々に希望を与える存在でありたい
ーー多くの就職希望者が集まる企業の経営者として、転職・就職活動中の方々に対して中野社長のお考えを教えていただけますか。
中野愛一郎:
就職活動する際、多くの人が仕事選びの基準を見誤っていると感じています。就職先を車にたとえると、大半の人がかっこいい高級車に乗りたい、いわゆる大手企業に就職しなければと考えていますよね。
ただ高級車だから良いわけではなく、街乗りするには小回りがきく軽自動車、アウトドアを楽しむならキャンピングカーの方が適しています。このように、大切なのは自分が何をしたいのか、そのためにどの車(企業)を選べばいいのかが重要なのです。
会社の規模や労働条件ではなく、自分はどんな人間になり、どんな人生を歩みたいのかを考え、自分に合った企業と出合ってほしいですね。
ーー最後に今後の展望をお聞かせください。
中野愛一郎:
弊社の10年ビジョンは「圧倒的に面白くて強くて良い会社を創って、夢と希望でこの世界を鼓舞する」です。日本は希望を持てず、「自分が頑張っても世の中は変わらない」と考えている人が多いように思います。
そこで、弊社が世の中に影響力を持つ会社になることで、多くの人に希望を与えられる存在でありたいと考えています。
これからもイベントを通して、人とのつながりの大切さや一緒に楽しさを分かち合うことで、多くの人を幸せにしたいと思っています。そして「この世界を捨てたもんじゃないな」「自分ももう少し頑張ってみよう」と思っていただけたら嬉しいですね。
編集後記
「出会いの場や交流の場が増えていったら、世の中もっとハッピーになる」という思いから、イベント事業を拡大させてきた中野社長。人同士が接触する機会が減り、他社との関係が疎遠になっている現代で、同社は世の中を明るい方向へと変えている。株式会社イベント21はイベントを通じて人と人との輪をつなげ、幸せの輪をどんどん広げていくことだろう。

中野愛一郎/1980年生まれ。世界35ヶ国を放浪した後、父親の急逝で株式会社イベント21を26歳で承継。そこから売上高は21倍の21億、グループ5社に拡大。代表取締役社長として現在に至る。