1986年創業の株式会社アラミックは、今まで浴室設備のひとつにすぎなかったシャワーヘッドに着目し、節水機能や用途に合わせた水流の調整機能など、新しい視点でのものづくりで高機能シャワーヘッドというジャンルを確立させた。同社の代表取締役の佐藤宏彦氏に、ものづくりメーカーとしてどのような未来を描いているのかをうかがった。
本質的な価値を追求すれば、逆境に強い経営ができる
ーー代表就任までの経歴をお聞かせください。
佐藤宏彦:
大学卒業後、大手ハウスメーカーに入社し、3年働きました。その後、株式会社アラミック創業者の娘と結婚したことをきっかけに入社し、2018年に創業者の後を継ぐ形で代表取締役に就任しました。
ーー就任後、コロナ禍の影響を受けましたか?
佐藤宏彦:
就任した翌年の年末からコロナ禍がはじまりました。外出が制限されるなかで、日本全体の危機を感じていましたね。私たちの顧客には美容室が多く、当初は「美容室がなくなるのではないか」と危惧していたくらいです。
しかし、少しずつ美容室の客足は復活し、弊社の事業においてはコロナ禍が追い風になった部分も大きかったと感じています。
ーーなぜ、コロナ禍を追い風にすることができたのでしょうか。
佐藤宏彦:
コロナ禍における巣ごもり需要を受けて、自宅で少しでも良い時間を過ごそうというニーズから、「ちょっと良い」高機能なシャワーヘッドの販売がとても好調になりました。また、弊社では美容室専売の化粧品の輸入代行業も手がけており、オーガニックなどに対する意識が高まってきたことも追い風となっています。
コロナ禍に加えて、光熱費の高騰も大きな追い風になりました。消費者の節約志向が高まったことを受け、節水機能を備えた商品にも注目が集まっています。
ーー時代の変化を味方につける秘訣はどこにあるのでしょうか?
佐藤宏彦:
私たちが製品を提供するうえで常に念頭に置いているのは、本質的な価値がある製品をユーザーに届けることです。流行を追い求めるのではなく、本当にいいものをつくり続けてきた結果、コロナ禍すら逆手にとって追い風にできたのではないかと思っています。
高機能シャワーヘッドにとどまらない、未来を見据えた経営戦略
ーー改めて、貴社の事業内容について教えてください。
佐藤宏彦:
弊社の事業は大きく分けて3つあります。1つ目が、シャワーヘッドの製造販売事業。これが会社の中心となる事業です。2つ目が、キッチン周りの製品の製造販売事業。そして、3つ目が美容室専売の化粧品の輸入代理店事業となっています。
総じていえば、私たちは研究開発側のメーカーであると認識しています。主軸商品であるシャワーヘッドに固執してきたわけではありませんが、結果的にシャワーヘッドのメーカーとしては、日本でトップシェアを誇るメーカーに成長できました。
ーー貴社のシャワーヘッド製品の特徴は何でしょうか。
佐藤宏彦:
シャワーヘッドは、あくまでも浴室設備の部品のひとつとして捉えられ、もともとは業界的にもあまり研究開発が進んでこなかった部分です。そのような中で、私たちのつくる製品は全て自社のオリジナリティにこだわっています。長年独自の研究開発に取り組んできたことが大きな強みです。
特に大切にしている視点は、「理想のシャワーヘッド」を追い求めることです。シャワーヘッドにはどのような機能があればよいのかを考え続けています。
ーー2020年に美容室をオープンしていますね。新たな挑戦の背景にはどのような狙いがあるのでしょうか?
佐藤宏彦:
美容室を運営しているのは、弊社が輸入代理店をしているイタリアの「OWAY(オーウェイ)」というオーガニックコスメブランド製品を、普及・定着させるためです。サロンの形態にはあえてバリエーションを持たせ、どのようなビジネスモデルなら水平展開していけるかを模索しています。
ーー国民的人気アニメのキャラクターを起用したテレビCMが印象的です。どのような広報戦略をとっているのでしょうか。
佐藤宏彦:
シャワーヘッドという製品においては弊社がパイオニアだと自負しています。しかし、広告に関してはパイオニアではありません。2019年頃からずっとブランドイメージを確立するための広報戦略を打ち出したいと考えていました。
企業のブランドを少しずつでも浸透させる方法として選んだのがテレビでの露出です。国民的アニメのキャラクターを採用したCMは、想像以上に反響がありました。
ーーどのような反響があったのでしょうか?
佐藤宏彦:
製品をつくる生産現場の人たちや、製品を運ぶ運送屋さんたちからの反響が特に大きかったですね。「自分たちが携わっている製品がテレビで流れている」という意識が、確実に生産部門など、現場に携わる皆さんの中に定着しました。対消費者や対顧客だけでなく、インナーブランディングという点でも効果が出ていると実感しています。社内からも「アラミックの製品の情報をもっと発信していこう」という声が上がっています。
世代を問わず高め合い、ものづくりに邁進していく
ーー若い世代に向けたメッセージをお願いします。
佐藤宏彦:
若い世代の人たちには、いつも感心させられます。倫理観や正義感などがとてもしっかりしていて、たくましく、見習うべきことが多いと感じています。期待もしていますし、楽観的に見ています。
きっと若い方にとっては、上の世代を見て歯がゆく感じる部分もあるでしょう。世代間のギャップは、なくせるものではありません。だからこそ、お互いをよく知ろうと意識することで、よりよい仕事につなげていけるのではないかと期待しています。
ーー今後の展望についてもお聞かせください。
佐藤宏彦:
本質的な部分をしっかりと追求して、研究開発を続けていきたいですね。過去のデータではなく、未来を見据えたいと考えています。弊社は生粋のものづくりメーカーです。生活を少しでも豊かに、よくするものを生み出し続けていきたいと思っています。
編集後記
質実剛健なものづくり企業として歩んできた株式会社アラミック。シャワーヘッドという売れ筋製品に固執するのではなく、「生活を少しでも豊かに、よくすること」を常に中心に据えて考えている佐藤代表の姿勢がとても印象的だった。ものづくりをするなら、何を大切にするべきか。学ぶことが多いインタビューとなった。
佐藤宏彦/1969年東京都生まれ。1991年日本大学理工学部土木工学科を卒業。同年ミサワホーム株式会社に入社。1995年株式会社アラミックに入社。営業職などを経て、2018年代表取締役に就任。