
化粧品や健康食品、医薬品といった分野の製造現場で、多品種・小ロット生産を支える装置づくりに取り組むナミックス。同社は単なる機械メーカーにとどまらず、現場視点から生まれる使いやすさと柔軟性を強みに、課題解決型の製品を提案している。
その背景には、製品の精度だけでなく、届け方や働き方までを含めたものが企業価値であると捉える姿勢があった。製造業の可能性を広げるために、どのような戦略で挑んでいるのか。代表取締役の長井剛敏氏に話をうかがった。
製造現場から経営の視点へ。経験を重ねてたどり着いた「会社のかたち」とその支え方
ーー前職やナミックス入社の経緯を含めて、これまでの経歴を教えてください。
長井剛敏:
ものづくりの世界に入ったのは、お菓子をつくる機械メーカーの株式会社マスダック(旧新日本機械工業)で働き始めたことがきっかけです。同社では、約5年間現場スタッフとして働きました。
その後、ナミックスに入社したのは、前社長である父から強いオファーを受けたことがきっかけです。入社後はまず機械の組み立てから調整、納品までを一通り経験し、次に営業を経験して会社の理解を進め、そこから少しずつ経営に携わるようになっていきました。
当時の弊社は社員が4人だけで、今思えば薄利でリスクの高い仕事をしていたと思います。私も音を上げそうになったことがありますが、いつかは自分が継ぐのだと思うと、なんとか会社を好転させたいという気持ちが自然と湧いてきましたね。
こうして少しずつ経営の視点を身につけ、2012年には父から社長を引き継ぎました。それ以降、自分なりの視点で会社の強みを伸ばす方法を模索しながら、事業成長に注力しています。
ーー社長に就任してから、どのような社内改革を行いましたか?
長井剛敏:
まず取り組んだのは、利益率を高めるための製品ラインの絞り込みです。入社した当時は来る依頼すべてを受けざるを得ない状態が当たり前になっており、深夜作業も頻繁に起こっていました。私はこの状態をなんとか変えようと、「やらないことを決める」という改革に取り掛かったのです。
この改革は、その後の弊社の方向性を決定づけたといっても過言ではありません。製品を絞って開発と製造を重ねることで、品質のばらつきが減り、精度も格段に向上し、利益率の改善につながりました。
そして業務の集中度が高まったことで作業効率も改善し、少しずつ定時で帰れる日も増えていったのです。
この経験を通じて実感したのは、「いいものを」だけでは企業の価値は決まらないということです。どれだけ精度の高い製品でも、それをどう伝え、どう届け、どんな働き方で支えていくかまで考え抜いてこそ、選ばれる会社として信頼されるのだと思います。
使いやすさこそが価値になる。現場と向き合うことで見えてきた製品開発の本質

ーー貴社の事業内容と独自の強みを教えてください。
長井剛敏:
主な事業は、化粧品・製薬・健康食品といった分野の工場で使う機械の設計・製造・販売です。特に、液体を容器に注入する「充填」やキャップを締める「キャッピング」、そして箱詰めを行う「カートニング」の3工程を得意としています。
弊社の強みは、これらの工程において求められる、細やかな制御と作業者が使いやすい設計を両立できることです。
たとえば、製造現場では製品や容器のサイズ変更に応じた調整作業が頻繁に発生しますが、弊社の機械は、その都度の切り替え作業を短時間かつ少ない手順で完了できるよう設計されています。また、精度の高い動作と安定した稼働性能も強みで、製品の品質保持や人手不足の現場でも生産性を維持しやすい点も高く評価されています。
このように現場目線で考え抜かれた機械設計こそが、私たちのものづくりの核となっているのです。おかげさまで、導入企業から喜びの声をいただくことも多くありますね。
変化の波を乗り越えるために、自らが変わり、業界を変える
ーー今後注力したいテーマは何でしょうか?
長井剛敏:
いま特に注力しているのは、営業体制の見直しです。
化粧品業界では、少子化や国内市場の縮小、インバウンド需要の低下といった変化が進んでおり、かつてのように良いものをつくれば売れる時代ではなくなりました。この難局を乗り切るには、お客様の課題に応じて製品の価値を正しく伝えられるだけの販売力の再構築が必要です。営業パーソンそのものが減っている今の時代だからこそ、今後は、営業を育てることが重要になってくると考えています。
また、化粧品業界の縮小というリスクに対応するために、新たな業界の開拓も進めていきます。具体的なターゲットはまだ決まっていませんが、調味料や化学薬品といった製品単価が高い業界へ広げていければと思っています。
加えて、次世代へのバトンタッチを見据えた後継者の育成も重要事項です。私は現在50歳ですが、経営交代は早いほうがいいと考えています。自分が社長になってから気づけたことの多さを思えば、若いうちから経験を積むことで得られるものの価値は計り知れません。新たなリーダーを確実に育てるためにも、計画的な世代交代を検討していきます。
私たちが求めているのは、技術を面白いと思える人、そして、製品をつくるだけでなく良さを伝えようとする意思を持っている人です。技術に対する熱意と、相手に価値を届けたいという気持ち。その両方を備えた人と、これからのナミックスをつくっていきたいと考えています。
ーー業界への発信や組織づくりに対する考え方をお聞かせください。
長井剛敏:
私は、日本の製造業を多くのファンがつくような、もっと魅力ある業界にしたいと思っています。その実現に向けて、弊社では「機械をつくる」だけにとどまらず、業界の価値そのものを高めるような取り組みにも力を入れています。
たとえば、SDGsの視点を取り入れた活動や、自社のノウハウや気づきを共有する情報発信も必要です。弊社が発行している情報誌「ナミクル」では、製造業に限らず他業界にも共通する、人を軸にした経営課題をテーマに取り上げ、具体的な取り組みを発信しています。
ーー社長が大事にしている考えについても教えてください。
長井剛敏:
私が大事にしているのは「一貫性」です。人が信頼するのは、思っていること、考えていること、言っていることややっていることのすべて一致している「一貫性」がある人だと思うのです。
それは個人でも法人でも同じです。そして、この一貫性というのは言動に限らず、服装や空間にも当てはまるものだと思います。そのため、私たちはユニフォームから社内の備品に至るまで一貫性を大切にし、発明と創造を大切にする弊社の理念が自然に伝わるよう心がけています。
弊社の理念に触れた方から、この会社と一緒に仕事をしたいと思ってもらえたら最高です。仕事に対する姿勢で理念を伝え、共感する仲間を増やすことこそが、弊社が目指す「選ばれる製造業」の姿です。
編集後記
ナミックスの強みは、機械づくりの根底にある徹底した現場視点と、それを伝える力にある。製品の精度だけでなく、営業や採用まで一貫した視座で組織を動かす姿勢は、変化の激しい製造業において強い説得力を持つ。「どう働き、どう届けるか」まで含めて企業価値を考えるその在り方は、業界のこれからに一石を投じるものだと感じた。

長井剛敏/青山設計製図専門学校卒業後、食品機械メーカーにて現場技術を磨く。機械の組立から納品、現地での調整や研修までを一貫して担い、「つくること」の本質を現場で学ぶ。2000年、家業であるナミックスに入社。現場と営業の両軸で組織運営に関わり、2012年に代表取締役に就任。