
新潟県燕三条に本社を構え、飲食店の厨房設計・製造を手掛ける株式会社ハイサーブウエノ。同社は「飲食業界で働く人々を楽にしたい」という強い信念のもと、顧客との強固なアライアンスを築き、厨房の課題解決に貢献している。
代表取締役社長の小越元晴氏は、一度は別の道を歩むも、家業の危機を機に戻り、会社の立て直しに奔走。その過程で「会社を支えているのは仲間である」という大きな気づきを得た。社員の幸せを第一に掲げる同氏の哲学、そして100億円企業という壮大な目標の裏にある情熱に迫る。
父の勧めで選んだ道、ベンチャー経験が拓いた人脈
ーー社長就任までの歩みについて、もともと家業を継がれるお考えだったのでしょうか。
小越元晴:
高専で土木工学を学んでおり、卒業後は建設省への入省が決まっていました。しかし、将来的に父が経営する会社を継ぐことを考えたときに、一度公務員という安定した環境に入ってしまうと、もう抜け出せなくなるのではないかという思いがありました。両親が必死に守ってきた会社ですし、借金を抱える中小企業の事業承継は、外部の人間にはやはり難しいと感じていたんです。
そこで、以前から夢だったアメリカ留学を決意するタイミングで、「将来は会社を継ぐ」と両親に伝え、支援を受けてアメリカへ渡りました。大学では、高専時代の専門の延長で都市計画を学びたいと考えていましたが、最終的には経済学を専攻しました。
ーーアメリカから帰国された後、すぐにハイサーブウエノに入社されたのですか。
小越元晴:
帰国後すぐには入社しませんでした。父から「面白い社長のいる会社があるぞ」と勧められたのをきっかけに、まずは東京にある「テクニカ」という会社で6年半ほど経験を積みました。そこは、飲食店の店舗設計や厨房づくり、メンテナンスなどを手がけるベンチャー企業です。
将来、家業を継ぐことを見据えたとき、大手企業では全ての部署を経験するのに10年、15年とかかってしまいます。その点、あらゆる業務に携われるベンチャー企業では、短期間で経営に必要なスキルを磨けるのではないかと考えたのです。
実際にその会社ではあらゆることに取り組ませていただき、そこで得た人脈は今でも活きています。すかいらーくグループとの関係もその頃から始まり、私にとって非常に大きな財産となる経験となりました。
「仲間がほしい」社長就任時に芽生えた意識変革
ーーこれまでのキャリアの中で、最大のターニングポイントとなった出来事は何でしたか。
小越元晴:
テクニカに在籍していたときに教育係の先輩からいただいたアドバイスが、私の大きなターニングポイントです。
アメリカから帰国した当初は正直に言うと尖っていて、「俺ってすごいじゃん!」と思っていました。しかし、テクニカに入社してからは当初、「なぜ周りの人たちは動かないんだろう」と不思議に感じることが多くありました。
そのとき、「自分で『頑張っている』とアピールするだけでは誰も評価してくれない。第三者から『あの人はいいね』と言われるようになってこそ本物だ」と、その先輩に教わりました。「いい仕事を10年やり続けたら、周りは君をもっと信用する。そうなれば、営業などしなくても仕事は自然と来るようになるぞ」という言葉は、今でも私の教訓になっています。
この出来事を経て、継続することの本当の大切さを学び、世の中に対する見方も大きく変わりました。
ーー社長に就任された経緯と、そのときの思いについてお聞かせください。
小越元晴:
東日本大震災があった2011年10月、38歳のときに社長に就任しました。社長に就任して「社長として本当に欲しいものはなんだろう?」と自問したとき、真っ先に頭に浮かんだのは「仲間がほしい」という思いでした。それまでの私は、物事がうまくいかないのを他人のせいにして、仲間づくりを怠っていたと深く反省したのです。社員を「面倒を見るべき存在」から「自分を支えてくれる存在」へと、見方が大きく変わった瞬間でした。
理念は「働く人の幸せ」 競合にも工場を見せる理由

ーー経営者としての哲学や、プロフェッショナルとして大切にされている価値観を教えてください。
小越元晴:
私が最も大切にしているのは、当社の理念である『我々は、額に汗して一所懸命働く人間が幸せになる手本となり、世の中に幸せを分け与え続ける。』という言葉です。何よりもまず社員を第一に考えています。会社の最も重要な役割は、社員に経済的な安定を提供することです。幸せの半分は経済的なもので、残りの半分は、それぞれが自分自身で見つけていくものだと考えています。幸せな社員を育てることが、巡り巡って社会の役に立つことだと信じています。
ーー社員の方々が生き生きと働けるように、特に大切にされている企業文化や制度はありますか。
小越元晴:
ビジネスが軌道に乗ってきたことで、ようやく社員に還元できるようになってきました。去年、初めて決算賞与を支給できたのは本当に嬉しかったですね。社員にはもっと稼いでもらい、会社としてもしっかりと還元していきたいです。もちろん、将来のための投資も並行して行います。その他にも、社員旅行や会社主催の納涼会などを企画しています。社員本人だけでなく、その家族まで大切にしたいと考えており、定着率もさらに高めていきたいです。
「飲食業界を楽にしたい」広告をかけない事業戦略
ーー競合他社も多い中で、貴社の強みや独自の取り組みはどのような点にあるのでしょうか。
小越元晴:
私たちの強みは、「飲食業界で働く人々を楽にしたい」という強い思いです。特に中小規模の飲食店の現場は、本当に大変な状況にあります。私たちは、飲食店のキッチンを少しでも改善し、より安全な環境を提供することに全力を注いでいます。そのため、宣伝広告費もほとんどかけていません。新たなクライアントを増やすというよりは、共に課題を解決していけるアライアンスパートナーを増やしていきたいという考え方です。
ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
小越元晴:
今期の売上は前期比130%と伸長していますが、10年後には100億円企業になることを目指しています。アメリカのH&Kという会社をベンチマークしており、いつか彼らと対等に戦えるようになりたいですね。その目標を達成するため、毎年15%の成長を目指します。経常利益は8%以上を目標とし、社員還元をしっかりしていく計画です。
100億円企業へ 未来を担う人材と制度づくり
ーー100億円企業という目標に向けて、現在、課題となっている点は何でしょうか。
小越元晴:
やはり、人材不足ですね。長期的には、国外への挑戦も視野に入れています。そのためにも、幹部の育成が急務だと感じています。東京のオフィスは現在15名体制ですが、今後30名に増員し、それに合わせて第4工場の稼働も計画しています。新潟の製造拠点を強化しつつ、東京でしっかりと利益を残せる体制を構築したいです。
ーー最後に、現在、特に注力されているテーマについて教えてください。
小越元晴:
特に注力しているテーマは、大きく三つあります。
一つ目は「人事評価制度の構築」です。これまで明確な制度がなかったので、社員が納得し、やる気につながるような評価制度を来期からテスト導入します。
二つ目は「工場の生産・品質改善」です。DXやロボットの導入を進めて生産性を高め、お客様の期待を超える品質を実現できる製造体制を強化していきます。
そして三つ目は、「顧客への提案力強化」です。ただご要望に応えるだけでなく、私たち製造側の視点からコスト削減や効率化につながる提案を積極的に行い、お客様のビジネスにさらに貢献したいと考えています。
これらの取り組みを確実に実行することが、会社の成長、ひいては社員一人ひとりの幸せに直結すると信じています。社員とお客様、双方にとって価値のある会社であり続けるために、これからも挑戦を続けていきたいですね。
編集後記
「額に汗して働く人間が幸せになる手本となる」。小越社長が語る理念は、かつて自らが「仲間」の存在に救われた経験から生まれた、揺るぎない信念である。100億円企業という目標も、単なる事業拡大ではなく、社員と、疲弊する飲食業界全体を幸せにするための道筋にほかならない。厳しい現実を見据えながらも、常に温かい眼差しで人と向き合う同社の挑戦は、多くのビジネスパーソンにとって、働くことの原点を見つめ直すきっかけとなるのではないだろうか。今後の飛躍が楽しみだ。

小越元晴/1973年新潟県三条市生まれ。国立長岡高専、米国の大学を卒業後、東京で大手飲食チェーンの企画設計、施工を行う会社に就職し7年間勤務。2005年両親が営む株式会社ハイサーブウエノへ入社し、2011年代表取締役社長に就任。