※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

近年、日本の製造業は深刻な人手不足に直面し、熟練工の高齢化が進んでいる。一方で、若手人材の確保・育成が難しくなっているため、技術の継承が大きな課題だ。また、グローバル競争が激化して、高品質のみならず低コストな製品の供給が求められるようになり、生産性向上と効率化への取り組みが欠かせない状況である。

こうした中で、創業50年を迎える精密加工メーカーの株式会社須藤精密は、積極投資による微細加工を強みに、ベテランから若手への技能伝承にも力を入れ、職人の技と最先端設備を融合させることで他社との差別化を図る。同社が目指す未来像を代表取締役社長の八幡直幸氏にうかがった。

機械好きの研究者が経営の道へ

ーー社長就任までのエピソードをお話しください。

八幡直幸:
幼少の頃からプラモデルや図画工作などが大好きで、家の電化製品を分解して遊んでいました。そんなものづくりへの興味関心の延長で大学は機械工学科を選び、卒業後は工業用ミシンメーカーに入社しました。配属先の研究開発部門での主な担当は、半導体製造装置の要素技術の研究でした。

部門の重要なミッションは、設計や実験を繰り返しながら、まだ世の中にない新しい技術を開発することと、それらの知的財産を特許として権利化することでした。自分が好きで選んだ仕事でしたし、在籍時には特許の出願件数やその開発内容について多くの表彰をいただき、今でも自分の大きな財産となっています。

その後結婚が決まり、義父が社長を務めていた弊社に入社して後を継ぐことになりました。入社早々、会長から直に営業スキルを学んだり、現場の仕事に携わったりと、次期社長としての修業期間だったように思います。その一環として、信用金庫と立教大学が共催する勉強会に参加して経営を学ぶ機会があり、プログラムの修了時に同大学の教授から「継続して勉強しないか」と声をかけてもらいました。

当時は仕事が忙しく、落ち着いてからと考えていたのですが、会長から「行きたいと思っているのであれば、すぐに行きなさい」と背中を押してもらったのです。仕事と学業の両立は想像以上に大変ではありましたが、大学院に2年間通い、MBA(経営学修士)を取得することができ、今でも本当に感謝しています。

ニッチなニーズにも対応できる設備や職人の技術力で他社と差別化

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

八幡直幸:
弊社は創業以来、主に半導体製造関連の治工具や精密機械部品の製造を手掛けてきました。超精密治工具から大物金型部品まで、常に高品質な製品をお客様にお届けしています。

長年にわたり少量多品種の試作部品加工で培ってきた技術力をもとに、近年ではより精度の高い部品がつくれる恒温工場を新設しました。直径0.1㎜以下の微細な穴加工やチタンなどの難削材加工にも注力し、半導体業界の進化に合わせて技術領域を拡大し続けています。

高い技術力と迅速な対応力が弊社の持ち味で、多品種少量生産には自信があります。精密微細加工の分野においても、他社に負けない技術力を誇ります。最先端の加工機を積極的に導入する一方、機械では難しい領域は、職人の技を発揮できる勝負どころだといえるでしょう。

マシンと職人技の融合こそが弊社の強みの源泉だと考えています。お客様からは「須藤精密は精度が高く、仕事が早い」との評価をいただき、これからもその期待に応え続けたいと思います。

ここ数年、半導体の微細化や高集積化が加速度的に進み、精密微細加工へのニーズは確実に高まっています。弊社への引き合いも増えており、特に精密微細穴加工への期待は高まっています。

一方、軽量化や耐熱性の向上を図るために、材料面では鉄やアルミニウムだけでなく、高機能なエンジニアリングプラスチックや、チタンなどの難削材を加工してほしいという依頼も増えてきました。加工精度を維持するには高度な技術が必要ですが、この分野にも先行投資し、他社との差別化を図っています。

設備投資と技術の継承が鍵。2代目社長が描く経営ビジョン

ーー今後の具体的な経営戦略をお聞かせください。

八幡直幸:
異業種への展開も視野に入れていますが、まずは既存のお客様との取引をしっかり深耕していくことに注力します。半導体業界は長期的に成長が見込まれるため、設備投資を進めて着実に仕事を受注していきたいですね。

もう一つは人材育成で、ベテラン社員の高齢化が進んでいるため、技術の継承が重要なテーマです。若手を育てるために、改善を提案する場などを設けてデジタル化も推進しながら、業務の効率化と品質向上の両立を目指していきます。継続した設備投資によって精密微細加工に特化した専用機を多数所有しているため、それらをフル活用して、高精度の加工技術をさらに追求していきたいと思います。

また、創業者である会長は、社員のことを本当の家族のように大切にしている方です。経営者とはどうあるべきかという心構えについて、社員とその家族の生活を守ることを何よりも大事にする会長の姿勢から、学ばせてもらっています。何があっても従業員を守り抜くという会長の思いを、私も2代目として受け継いでいきたいと思います。

編集後記

インタビューを通して印象的だったのは、創業者である会長への尊敬の念を語る言葉である。「何があっても従業員を守り抜く」という会長の思いを受け継ぐことは、人材確保や定着率の面でも強みになる。時代の変化に柔軟に対応しながら、株式会社須藤精密が50年にわたって培ってきた強みを活かす八幡社長。次の50年も挑戦者であり続けるだろう2代目社長の動向にこれからも注目したい。

八幡直幸/1975年、千葉県生まれ。明治大学理工学部機械工学科を卒業後、JUKI株式会社の研究開発部門にて機械設計を担当。2007年、株式会社須藤精密に入社。2015年に立教大学大学院にてMBA取得。2017年、須藤精密の代表取締役社長に就任。趣味はドラム演奏。