
自動車部品大国アメリカのフォード・モーターから独立し、現在はコックピット周辺の電装部品と電動化関連製品に特化した事業を展開するビステオン。グローバルで培った先進的な技術を武器に、日本の自動車メーカーからも高い評価を得ている。
日産自動車で28年にわたり購買や海外事業を率い、その後、部品メーカーで経営の要職を歴任してきた藤井拓二氏は、2024年2月に同社の日本法人、ビステオン・ジャパン株式会社の代表取締役に就任した。これまでの豊富な経験を基に、日本の自動車業界へいかに貢献しようとしているのか。その軌跡と未来への展望を聞いた。
日産自動車で培ったグローバルな視点と責任感
ーー藤井社長のこれまでのキャリアを教えてください。
藤井拓二:
大学卒業後、日産自動車に入社したのが私のキャリアの最初で、それからずっと自動車業界に携わっています。日産には28年ほど在籍し、その3分の2くらいは購買部門にいました。自動車は多くの部品で成り立っており、一つの部品が欠けてもつくれません。自分の担当部品が切れると車の生産が止まってしまうので、ミスをせず、必ず調達し切るというのは若手のときから常に意識していましたね。
その後アメリカに駐在し、海外の組織の中で仕事をする機会を得ました。上司はアメリカ人、部下はメキシコ人で、考え方や仕事の進め方が違う中、互いに意見をぶつけ合いながら良い方向性を見出していく、今でいうダイバーシティを経験できたことが、その後の私のキャリアに大きな影響を与えました。日本にいては分からなかったダイバーシティの重要性や、そこから生まれる相乗効果に初めて気づかされた貴重な経験です。
また、その後欧州日産の本部では経営企画、製品企画などに携わった後、ロシアの販売会社の責任者を務めました。ロシアでは現地のマーケットのニーズを吸い上げ、欧州本社や日本の製品企画にフィードバックする唯一の窓口として、非常に責任とやりがいを感じながら仕事をしていましたね。
ーー新しい環境へ挑戦しようと決断した背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
藤井拓二:
海外での経営に近い仕事をしたことで、自分が事業責任者として仕事がしたいと考えていたところ、ご縁があってニデックに移りました。ちょうどニデックの車載事業がグローバルに展開していく時期で、私はそのビジネスをより強固にする役割を担当しました。
2年目からは北米の事業責任者としてデトロイトの拠点を、同時にメキシコの工場の責任者も兼任しました。工場のオペレーション立て直しに奔走し、製造についても経験できたことは、私のキャリアの幅を大きく広げてくれたといえるでしょう。
ーー貴社へ入社した経緯についてお聞かせください。
藤井拓二:
ビステオン・ジャパンの社長職としてお声がけをいただき、ビステオンについて調べてみました。ビステオンの製品は、電動化やデジタル化、SDV(Software Defined Vehicle)といった、これからの自動車業界の中心になる技術トレンドを見据えたビジネスに特化しています。自分のキャリアの最後に、こうした先行技術を日本の自動車メーカーに提供することが業界への恩返しになるのではと考え、お引き受けしたのです。
世界基準の「先進性」で日本の自動車開発をリードする技術力
ーー改めて、ビステオン・ジャパンの事業内容を教えてください。
藤井拓二:
弊社は25年前にフォード・モーターの部品事業部が独立してできた会社です。事業の選択と集中を経て、現在は運転席のメーターやセンターディスプレイ、そしてそれらを制御するコントロールユニットといった、コックピット周りの電装部品の事業が中心となっています。そして、もう一つの柱が、電動化という大きな流れに対応する製品群です。
ーー貴社の強みは何ですか。
藤井拓二:
間違いなく「先進性」です。弊社はグローバルに事業を展開しているため、世界の技術トレンドをいち早く取り込み、成長領域へ戦略的に投資しています。そうした先行技術をお客様に提案できる点が、日本の自動車メーカーからもご評価いただいています。また、開発から製造まで、お客様とのインターフェースを日本でしっかり取れる手厚い体制も、弊社の優位性になっていると思います。
人と環境への投資が未来を拓く。持続可能な組織への挑戦

ーー今後の事業拡大に向けて、どのような取り組みを考えていますか。
藤井拓二:
これまでは特定のお客様や製品に売上が集中していましたが、そのビジネスモデルには脆弱性があります。今後は顧客基盤と製品ラインナップの多様性を広げることが目標です。幸い、日本の主要な自動車メーカーの大半と、これから取引を始めさせていただける環境が整いつつあります。弊社の強みである先行開発分野でお客様と共に製品化を進めるという軸はぶらさずに、ビジネスを拡大していきたいです。
ーー組織づくりにおいては、どのようなビジョンをお持ちですか。
藤井拓二:
外資系企業は中途採用が中心のため、従業員の年齢構成が中間層に偏る「樽型」になりがちです。組織の持続可能性を考えると、より若い人材に投資し、下の層を厚くしていくことが不可欠です。会社の活気にもつながるでしょう。今後は、新卒やセカンドキャリアの採用を通じて、ロイヤリティの高い人材を育てる文化をつくりたいと考えています。
ーー最後に、どのような方に仲間になってほしいですか。
藤井拓二:
当社のオフィスは、日本人比率が7割ほどで、日常的に多様な文化に触れられる環境です。専門知識の有無にかかわらず、「大きな会社の歯車ではなく、自分で何かを成し遂げたい」という強いモチベーションがある方にぜひ来てほしいですね。その思いがあれば、力を発揮できる場所は入社してから一緒に考えていけます。
編集後記
日産自動車で培った購買の視点とグローバルなビジネス感覚。ニデックで体得した、ものづくりの現場力。そしてミネベアミツミで磨いた経営戦略。藤井社長のキャリアは、自動車産業の川上から川下までを深く理解する道のりであった。その集大成として選んだ舞台がビステオンだ。藤井社長が語る、顧客のニーズに柔軟に応える「緩衝材」としての役割は、外資系企業の論理と日本のものづくりの文化を融合させるという強い意志の表れである。先進技術と人材への投資を両輪に、ビステオン・ジャパンは新たな成長軌道を描き始めた。

藤井拓二/大学卒業後、日産自動車株式会社に入社。購買部門を中心に28年間勤務し、その間、米国や欧州、ロシアでの海外駐在を経験。海外事業企画やロシア・ウクライナの販売拠点責任者などを歴任する。その後、ニデック株式会社に副本部長として入社し、北米事業やメキシコ工場の責任者を務めた。ミネベアミツミ株式会社では役員として事業統合戦略などに携わる。2024年、ビステオン・ジャパン株式会社の代表取締役に就任。