※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

自動車業界では、電気自動車(EV)の普及が促進されている。日本政府は2035年までに新車販売で電動車100%を実現すると宣言し、2050年までに自動車の生産、利用、廃棄を通じたCO₂ゼロを目指すと目標を掲げている。

そんな中、協業パートナーとともに電気自動車や自動運転機能を搭載した車の製造・開発を行っているのが、株式会社トノックスだ。

同社はパトカーや消防車などの特装車の架装や、車体製造を行っている会社で、ジャパンモビリティショー2023では、他社と共同開発した「ランクル60コンバージョンEV」と、超小型ユーティリティビークル「クロスケ(XK)」が注目を集めた。

一般車両の製造から特殊車両の製造へ踏み切った経緯や、さまざまな企業と共同開発を進める殿内常務の思いを聞いた。

協力会社の撤退をきっかけに特殊車両の生産へ転換

※現在、新たな取り組みとして製造を行なっている自動運転EVバス

ーーまずは貴社の概要や主な事業についてご説明いただけますか。

殿内崇生:
株式会社トノックスは車体の製造と、緊急車両を含む特装車の製造を行っている会社です。本社がある神奈川県平塚市を拠点に、横浜市と静岡県の工場でも生産を行っています。

もともとは日産自動車様の協力会社として、日産自動車様が販売していた初代シルビアや、初期型のフェアレディ(現:フェアレディZ)の製造に携わっていました。

その後、キャラバン・サファリの生産に携わっておりましたが、今から10年ほど前に、大口のお取引先様が弊社にて行っていた仕事の生産拠点を移されたため、特殊車両の生産に注力するようになりました。今では売り上げのおよそ7割は警察庁や消防庁、防衛省といった官公庁が占めております。

ーー他社と比較したときに貴社の強みとなる部分をお教えいただけますか。

殿内崇生:
弊社は小型車と大型車両の両方の製造を行っているのが特徴です。多くの企業はどちらか一方を専門に行っているので、両方製造が可能なのは弊社ならではの強みです。

ーー先代であるお父様から会社を引き継がれたわけですが、以前から家業を継ぐことを意識されていたのでしょうか。

殿内崇生:
自分が会社を継ごうとは特に考えていませんでした。そのため最初に就職した会社も、自動車とは関係のない電気部品のプリント基板の製造会社を選びました。

その後1年ほど自動車会社の部品メーカーで働いて、社会人になって5〜6年経ち、ある程度経験を積んだ今がベストのタイミングかなと思い、トノックスに入社を決めました。

ーーご入社されてからはどのような仕事に携わられたのですか。

殿内崇生:
まずはどのように製造しているのか理解するため、製造現場からスタートしました。それから5年ほど、営業などあらゆる部署の仕事を経験しました。

こうして会社全体を俯瞰して見られるようになったうえで、グループ会社のヤナセテック株式会社の常務を経て、トノックスの常務取締役とヤナセテックの代表取締役社長に就任し、今に至ります。

協業パートナーと立ち上げた新プロジェクトについて

ーー近年ではさまざまな企業との共同開発を進められていますが、他社との協業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

殿内崇生:
弊社も多くの中小企業と同じように、これまで下請け業をメインに行ってきました。ただ、人口減少や車離れが進んでいる中、今ある仕事をこなすだけでいいのかという危機感を持ちました。

そこで、自分たちで考え自主的に動く機会を作るためにも、若手社員にアイデアを出し合ってもらい、他社と組んで新プロジェクトを次々と立ち上げました。

そのうちフレックス株式会社さんと共同で電気自動車版のランクル「ランクル60コンバージョンEV」を製作し、超小型EV技術研究組合(METAx)さんと超小型ユーティリティビークルの「クロスケ(XK)」の生産技術検討協力を結びました。

これは即売り上げや利益につながる仕事というわけではありませんが、このようなプロジェクトを通し、自分たちでイチから新しいものを作り出すことを習慣化していければと思っています。

このように試行錯誤しながら、これまでトップダウンでやってきた体制から、自ら考え自発的に動けるように意識改革をしているところです。

ーー共同で開発・製造をされた2車種を出展したジャパンモビリティショー2023では大きな反響を集めていましたね。

殿内崇生:
私たちがプロジェクトを立ち上げたのは、あくまでEVの技術習得と若手社員の育成のためでした。しかし、これが結果として高い評価を受け、社員たちの努力が認められた良い機会になりました。

これからは自動運転が本格化し、交通事故が減少することで、弊社の売り上げの主体である特殊車両の出荷件数も減っていくでしょう。

今後も社員たちのアイデアを生み出す力を養うためにこうした取り組みを続け、新たな事業を見出していきたいと思っています。

ーー殿内常務が新たに始められた取り組みなどはございますか。

殿内崇生:
今は顧客数の増加に注力しています。というのもお取引先様の生産拠点の移転を経験した事で1社に依存してしまうと業績への影響が大きかったため、ここ3年ほどは、新規開拓に力を入れています。

取引先を増やすにあたり、自動車メーカーだけでは限界があると思い、移動販売車や緊急車両の製造にも着手し、これまでとは違う分野にも積極的に挑戦してきました。特に今力を入れているのが、自動運転の分野です。

弊社は車体の製造や塗装は得意なのですが、自動運転システムのノウハウはないので、自動運転OSの開発を行っている株式会社ティアフォーさんとタッグを組み、レベル4の自動運転機能に対応した商用車両の生産を進めています。

また、ティアフォーさんと組んだことが話題となり、さまざまなところからお声がかかるようになってきたので、この流れに乗ってさらに顧客数を増やしていこうと考えております。

採用の強化と今後の注力テーマについて

ーー採用についてはいかがでしょうか。

殿内崇生:
弊社の社員数はおよそ400人なのですが、そのうち半分を50〜70歳が占めており、社内の高齢化が進んでいる状況です。そこで近年始めたのが、ベトナム人の技能実習生の採用です。

彼らができる業務の範囲は限られてはいるのですが、真面目に働いてくれていて、今では30名ほどにまで増えました。

技能実習生の採用に関しては私たちが直接出向くこともあるのですが、現地の送り出し機関の方に紹介していただき、その中から気になる人材をピックアップしています。

また、これまでは神奈川県内の高校へ募集をかけていたのですが、最近では範囲を広げ、東北地方など遠方の高校に通う学生さんも採用しています。

その結果、今年度は新入社員を15名採用できました。今後もこのペースで人材を獲得し続ける予定です。

ーー貴社が求める人物像についてお聞かせください。

殿内崇生:
弊社は工場での作業がメインなので、夏場は暑く冬場は寒い、体力的にもきつい、油などで汚れる、いわゆる3Kといわれる仕事です。それでも車が好きな人にとっては、やりがいを持って働ける職場だと思います。

また、弊社の場合はただラインに流れてくるものを組み立てるという仕事ではないので、単純作業を求める方には合わないかなと思いますね。

ただ、弊社で働いている社員は、毎日同じ作業の繰り返しではなく、日々新しい発見があるので楽しいと言っていますね。このように変化をいとわず、どんどん新しいことにチャレンジしていきたいという方を求めています。

ーー最後に今後の注力テーマについてお聞かせください。

殿内崇生:
日本では自動車産業が成熟してきていますが、それぞれの企業が力を合わせて新たな領域を開拓していけば、まだまだ市場の余地はあると思うのですよね。

1社だけではできることに限界があるので、企業同士がそれぞれの得意分野を活かし、協業して利益を生み出す協力関係を結んでいければと思っています。

弊社でも今回のように、お互いのメリットを活かして優れたものを開発するため、協業パートナーを求めています。

また、弊社はこれまで自動車分野に特化していたのですが、新設備の導入により、内製化が増加したため、これを機に新たな分野にも進出していきたいと考えています。

編集後記

売り上げの大部分を占めていた自動車メーカーが生産拠点を変えたことで、下請け会社として大打撃を受けたと語る殿内常務。それから方向転換を図り、特殊車両の生産へ踏み切ったという。

会社存続の危機に直面したときの教訓を活かし、電気自動車や自動運転の開発・製造に力を入れるトノックスは、今後も新たな分野を切り拓いていくことだろう。

殿内崇生(とのうち・たかお)/1977年神奈川県生まれ。日本大学卒業。2001年株式会社大昌電子に入社し5年間営業を経験。河西工業株式会社にて海外勤務を1年間経験し、2007年ヤナセテック株式会社、株式会社トノックスに入社。ヤナセテック株式会社で代表取締役社長、株式会社トノックスで常務取締役として現任。