※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

工場の安全を見守る回転灯・信号灯から緊急車両の警告灯まで、私たちの生活や産業を縁の下で支えている「シグナリングデバイス」(※)。その業界で、国内シェア70%、海外シェア25%を誇るのが株式会社パトライトだ。1947年の創業以来、高い品質と技術力で顧客の信頼を勝ちとってきた同社。近年は海外市場でのシェア拡大を目指し、インド進出や地域特化型製品の開発など、グローバル戦略を加速させている。

一方で、「従業員の幸せ」を経営の中心に据え、ボトムアップ型の組織づくりや新事業の創造にも力を入れている。その舵をとり、品質と技術力で世界に挑戦し続ける同社の代表取締役社長の山田裕稔氏に、経営哲学や将来のビジョンについてうかがった。

(※)シグナリングデバイス:光・音・音声などで特定の情報や警告を直感的に伝達する機器

挫折を糧に、金融から製造業へ

ーー貴社に入社されるまでの経緯をお聞かせください。

山田裕稔:
大学時代は金融系のゼミに所属し、大手証券会社に入社しましたが、入社3年後に会社が自主廃業するという出来事に見舞われました。当時は大きな挫折でしたが、今振り返ると貴重な経験だったと感じています。

そのときに学んだことが、その後のキャリアに大きな影響を与えました。大きい組織で働くことで「鶏口となるも牛後となるなかれ」という言葉の意味を身をもって理解したのです。そして、大きな組織の末端にいるよりも、小さい組織でも自分の裁量で仕事ができる環境の方が向いているのではないかと考えるようになり、パトライトに入社することとなります。

ーー貴社への入社を決めた理由は何だったのでしょうか?

山田裕稔:
父が消防士だったこともあり、幼い頃から消防車や警告灯に親しみがありました。弊社の製品を見たとき、何か縁を感じたのです。もちろん、会社の安定性など一般的な理由もありましたが、直感的な部分が大きかったですね。

入社後は、営業、営業企画、新事業立ち上げ、海外赴任など、さまざまな経験をさせてもらいました。特にタイでの勤務は、私の考え方を大きく変えるきっかけとなりました。タイに赴任してすぐ、現地の方が軽く見られていると感じることがありました。それもあって「その国の文化や風土に敬意を表して、私はタイで働かせてもらっている」という意識をもって海外で働こうと決めました。

異文化に触れながら仕事をする中で、人の意見を聞いたり、人と協力したりすることの重要性を学びました。これは「ボトムアップの組織をつくりたい」という私の経営スタイルにも大きく影響しています。

高い技術力と品質、徹底した品質管理で世界に挑む

ーー貴社の主な事業内容と強みについてお聞かせください。

山田裕稔:
弊社の主力事業は、大きく分けて2つあります。1つは工場向けのファクトリーオートメーション事業です。主に工場内の安心、安全、効率化を実現する製品を提供しています。具体的には、設備の稼働状況を可視化する表示灯や、異常を知らせる警告灯などですね。

もう1つは車両向け製品事業です。ここではパトカーや消防車などの緊急車両に使用される警告灯やサイレンアンプを製造しています。これらの製品は、緊急時の安全確保に重要な役割を果たしています。

最大の強みは、高い品質です。弊社の製品は工場や緊急車両など、安全に直結する場面で使用されます。火事の現場で消防車の警告灯が機能しないことがあってはなりません。そのため、品質管理には特に力を入れているのです。

現在、国内シェアは70%、海外シェアは25%程度ですが、さらなる成長を目指しており、特に海外市場での拡大に注力しています。2030年までに、海外売上比率を40%から50%まで引き上げることが目標ですね。

ーー海外展開の戦略について詳しくお聞かせください。

山田裕稔:
まず前提として、主力製品を高収益化する取り組みです。製品の種類を集約し、部品の種類を減らすことで製品1台あたりの利益をしっかり確保できるようにしていきました。この利益を海外展開や新製品開発などの成長領域への投資に回すことで、持続的な成長を目指しています。

海外展開の具体的な戦略としては、各地域の特性に合わせた製品開発も進めています。これまでは日本でつくった製品を世界中に出荷していました。しかし、インド市場開拓のために現地を視察したときに、エリアによって需要が異なると感じたのです。今後はそれぞれの地域に合わせて製品をローカライズすることによって、海外市場の売り上げを伸長させたいと思います。

信頼と成長が育む、幸せな組織

ーー貴社の将来のビジョンについてお聞かせください。

山田裕稔:
私が目指しているのは、従業員が幸せになれる会社です。利益を上げることは重要ですが、それ以上に従業員の幸福度を高めることが、経営者としての使命だと考えています。そのためには、従業員との信頼関係が不可欠だと考えています。

キャリアパスの可視化やチャレンジの機会を提供するなど、従業員が中長期にわたり意欲的に働き続けるような環境づくりに注力していきます。5年後、10年後には、パトライトが「従業員にとって最も幸せな会社」として認知され、従業員一人ひとりが自分の仕事に誇りをもち、やりがいを感じることができる環境を整えたいですね。そして、従業員たちが、世界中の工場や街の安全と安心を支えていると誇りに思う。そんな会社をつくり上げていきたいと思っています。

編集後記

山田社長の語る「従業員の幸せ」という言葉に、深く感銘を受けた。大企業の倒産という苦い経験から、人と組織の在り方を学んだ山田氏。また、自らが営業や開発の第一線で奮闘してきた経験も、従業員を大切にする経営につながっているのだろう。世界を相手に挑戦を続ける同社の姿に、日本のものづくりの明るい未来を見ることができる。

山田裕稔/1971年兵庫県生まれ、大阪府立大学(現大阪公立大学)卒。1995年金融機関に入社。1998年株式会社パトライトに入社。タイ、アメリカ、開発部門の責任者を経て、2023年に代表取締役社長に就任。