※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

コロナ禍が落ち着き、飲食店に客足が戻った一方、働き手不足により閉店の危機に陥っている店舗も少なくない。帝国データバンクによると、2023年における飲食店の倒産件数は768件で前年の7割増。人手不足だけでなく、利益率の低いコスト構造など多くの課題が残されている。

そんな中、飲食業の慢性的な人手不足やコスト構造の問題を解消すべく、調理ロボットの開発・提供を行っているのがTECHMAGIC株式会社だ。

同社の調理ロボットが、どのように日本の食の未来を変えるのか。代表取締役社長の白木裕士氏に詳しい話を聞いた。

料理ができなくなった祖母との原体験から起業を決意

ーー事業内容と起業の経緯を教えてください。

白木裕士:
弊社は、調理ロボットと業務ロボットを開発している会社です。調理ロボットは厨房調理の自動化、業務ロボットは工場などで行われる繰り返し作業の自動化を行っており、食産業に特化した事業を展開しています。

事業をしていた祖父から 「世のため人のためになる道が最高の道だ」と 物心つく頃から 教えられて育ったこともあり、私も起業をして人類の発展に貢献したいと思い起業家の道を歩もうと思うようになりました。

最初の起業は、私がカナダに留学していた高校2年生のときです。このときに、家庭教師派遣のオンラインサービスをつくりました。

その後、ライフラインのサポートに関する事業を立ち上げ、最終的にその事業は譲渡して日本へ帰国。帰国後はボストンコンサルティンググループで働いた後、弊社を創業しました。

ーーなぜロボット事業で起業したのでしょうか。

白木裕士:
私は起業をする際に、5つの条件を掲げていました。1つ目が万人のためのサービスであること、2つ目が大きな社会課題があること、3つ目がその課題を解決する技術があること、4つ目が人類の進化につながるサービスであること。

そして5つ目が、自分の人生をかけられる事業であることです。特に、いかに大きな社会課題を解決するかという点を重視しており、これらの条件にロボット事業が当てはまると考えました。

そのほかにも理由があります。それは祖母との思い出です。祖母はもともと料理が大好きで、私が遊びに行くたびに料理をしてくれました。しかし、体調面などの理由から、料理ができなくなってしまったのです。

このときに食における課題を感じたことから、ボタンを押すだけで栄養管理をしながら好きな料理を好きな時に作ってくれる調理ロボットの構想を抱くようになり、開発に興味を持ち始めました。

顧客の要求を第一に考えた開発環境

ーーほかの調理ロボット開発企業と貴社の違いはどういった点にありますか。

白木裕士:
弊社の大きな特徴として、ハードウェアとソフトウェアを高度に融合させたロボット開発を行っています。世界にはアームロボットを活用したソフトウェア中心の調理ロボット開発会社が多数存在しますが、ハードウェアの開発も手掛けることにより、お客様の具体的な要求から開発をスタートできます。

これは「あるべき技術」を起点にした開発ではなく、「お客様の要求」を直接的に満たすことを目指しています。特に飲食店の厨房にロボットを導入する際は、自動化の範囲、サイズ、時間あたりの生産数、導入費用など、多くの課題がありますが、お客様の要望を詳細に把握し、お客様のオペレーションに適したロボットをゼロから開発することが弊社の強みです。これにより高い導入実績とお客様に満足いただける唯一無二の製品作りに取り組むことができます。

ーー今後はどういったことに挑戦したいですか。

白木裕士:
海外への展開です。パナソニックやソニー、トヨタ自動車などの老舗メーカーを見てもわかるように、日本には素晴らしいものづくり技術があります。

また、日本の食文化は世界に自慢できるものですし、この食文化とものづくり技術を組み合わせた調理ロボットは、海外で戦える日本ならではのユニークで画期的な領域だと思います。

日本のロボット産業を輝かせるために「食」の分野で勝ちにいく

ーー最後に、貴社の魅力と今後の展望を教えてください。

白木裕士:
弊社では、世の中にない製品のみを開発する方針を掲げています。そのため「今までにない世界をつくりたい」や「今までにない新規事業をつくりたい」という方にとっては、非常にワクワクする会社だと思います。

日本はロボットが主人公の漫画などの理由で、どの国よりもロボットが身近にある国だと思います。しかし、配送ロボットや物流ロボットなどの分野は、中国やアメリカなどグローバルにおいて遅れをとっています。

ただ、ロボット分野で海外から遅れをとっているとはいっても、私は調理ロボット分野には日本が勝てる望みがあると考えています。そして、日本のロボット産業をこれからも輝かしいものにするために、私たちが食の分野で挑戦していきたいという思いがあります。

弊社が海外で挑戦して、海外でのプレゼンスを高めることが、中長期的に見て食領域で日本がロボット分野で輝ける道だと考えています。

編集後記

飲食業の人手不足問題だけでなく、日本のものづくり技術の未来まで考えて事業を運営している白木社長。同社の調理ロボットは大阪王将などの有名飲食店にも導入され、着実に日本の飲食業界を明るいものに変えている。

「ロボットテクノロジーで人類の幸せの質を高めていく」をミッションに掲げる同社の挑戦は始まったばかりだ。

白木裕士/ボストンコンサルティンググループで通信・製造業を中心に、新規事業、グローバル戦略、組織改革など幅広いプロジェクトに参画。DXやAl・ロボットによる生産性改善に知見をもつ。高校・大学はカナダに単身留学し、ハーバード大学院COReを修了。大学時代に起業、Exit実績を持つ。2018年TECHMAGIC株式会社を創業。