※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

保育の現場では「待機児童」や「保育士の人材不足」といった従来の課題に加え、最近は出生率の低下により「保育の需給逆転」「保育児の定員割れ」という難題も浮上している。

より選ばれる保育園に向けて体質強化が求められているのが現状だ。

株式会社ライフらび(2015年設立、横浜市)は小規模保育事業と不動産事業の2つを営み、地域社会に貢献するユニークな企業である。3つの直営保育園のほか、保育園運営の支援も手がけている。並行して保育士や栄養士の人財紹介事業も行うなど、いずれも相乗効果を得られるのが特徴的だ。

同社を創業し、現在は労働環境の整備に注力する代表取締役社長の小澤純平氏に、経歴や運営方針について話を聞いた。

最初の不動産会社で出会った仲間と3人で独立開業

ーー学生時代はどんな活動をされていましたか?

小澤純平:
小学校からずっと野球をしていたのですが、入った高校はもともと女子校で私の代から男女共学になったため、男子が入るような部活がまったくありませんでした。私はどうしても野球を続けたかったので、学校にかけ合って野球部を創設しました。

最初のキャプテンに就任して立ち上げたところまでは良かったのですが、設備もグラウンドも全然そろっていない状況です。そのため河川敷のスペースを借りたり、日替わりで場所を変えたりして練習していました。みんなでアルバイトして資金を工面したり困難はありながらも3年間、なんとか最後まで全うすることができました。

ーー大学時代から起業するまでの経緯や、起業を決意した理由をお聞かせください。

小澤純平:
大学では経済学部に入り、専門知識を学びました。中でも経営には当時から関心が高く、現在にもつながる実のある学びの機会となりました。

卒業後に就職したのは大手の不動産仲介会社です。営業担当として10年ほど勤めたところで転機が訪れました。

その会社では様々な方との出会いがございましたが、その中でも過去に保育士をされていた方、現役で保育士をされている方と出会う機会があり、保育園での労働環境を知りました。具体的には長時間労働、サービス残業、ギリギリの配置人数、持ち帰り残業、有給未消化などが常態化している業界全体で抱えているであろう課題です。

それらの課題に対し、自身が会社を立ち上げる事によって、現状を改善させ、「業界を変えたい」「ロールモデルとなり、子ども達にとってより良い環境で過ごして欲しい」という思いが強くなり、起業に至りました。

ーー保育業を選んだきっかけを教えてください。

小澤純平:
かつて私の母が児童福祉施設に従事していた頃に、「将来、一緒に保育園を運営できたらいいね」と話していたことが大きなきっかけです。幼少の頃から身近だった保育事業に、いつか携わりたいと思っていました。

仲間の1人は保育に対して特に熱心で、保育士資格も取得していました。前職で培った知見もあることから、保育業と不動産業の両輪でいくことを3人で決めました。

ーー開業までの経緯をお聞かせください。

小澤純平:
保育園は認可事業なので体制が整っても、最終的に行政の認可が下りなければできません。弊社の場合はそれを1年目からクリアできたのは幸いでした。

合わせて、場所の確保も重要です。「保育園に使う」と言っただけで土地の所有者に断られるケースが多い中、その点もクリアし認可と場所がタイミングよく決まったことで、会社としての第一歩を踏み出すことができました。

子どもたちの自主性を尊重した保育運営を実践する

ーー貴社の保育理念として大事にしていることは何ですか。

小澤純平:
一番大事にしているのは、心にゆとりを持てる大人になれるよう、子どもたちの自主性を尊重した保育運営です。そして最近見過ごせないのが、世間で取りざたされる不適切保育の問題です。主な原因は労働環境にあるのではないかと思います。私たちはスタッフに働きやすい環境を提供することが、結果的に子どもたちにとって良い保育環境に結びつくと考え、それを実践しています。

ーー具体的にはどのような方策をとっているのでしょうか?

小澤純平:
たとえば保育士の配置については、1所あたり通常の1.5〜1.8倍の人員配置体制を敷いています。それによって通常よりきめ細かな対応ができるのが注力ポイントであり、強みです。

また、女性がメインの仕事場なので、人員を増やすことで有給を取得しやすいように配慮しています。加えて週休3日制も8年前から導入し、ワークライフバランスを重視しています。

保育に合った人事評価制度を構築する

ーー人事評価制度の改善を課題とされていますが、それについてお聞かせください。

小澤純平:
基本的には人事評価制度により等級を決め、それにもとづいてキャリアアップを図り、役職への昇進などを判定しています。最終的に給与にも反映される評価制度です。内容は大きく分けて「人間力」と「仕事力」の2つで、各5項目ずつ全10項目のスコアリング制です。私は、仕事や保育を行っていく上で、人間力が一番重要な要素であると考えているため、「人間力」を重視しています。

現在は、保育の質についても評価ポイントにするべく見直しを進めています。保育士の先生にはベテランの方もいれば経験が浅い方もいます。頑張った方にはプラスアルファの昇給をするなど、より実態に見合った制度に改善していきたいと思います。

編集後記

小澤社長は若い世代へのメッセージとして「失敗を恐れずにトライすることが大事。若いうちは失敗してもいくらでも取り返せるので、何ごとにも積極的にチャレンジしてほしい」とコメント。

同氏は高校時代に野球部をゼロから立ち上げた経歴の持ち主。筋金入りの行動派だけに、社会貢献度の高い会社をけん引して発展し続けていくに違いない。

小澤純平/1983年、神奈川県鎌倉市出身。2005年、千葉経済大学経済学部卒業後、株式会社センチュリー21に入社。営業主任などを経験する。2015年に株式会社ライフらびを設立し、代表取締役社長に就任。