※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

医療の地域格差をなくそうと、遠隔画像診断を独自の仕組みでサポートしている企業がある。ViewSend ICT株式会社は、患者が日本全国どこにいても高水準の医療が受けられるようにすることを目指している。同社の代表取締役、嗣江建栄氏に、事業に対する思いや展望についてうかがった。

マイナスからのスタートでも諦めず、チャンスを掴む

ーー大学を卒業してから現在の職に就くまでの経緯を聞かせてください。

嗣江建栄:
大学卒業後、外資系企業にて、遠隔通信システムの研究開発に携わりました。戦闘地後方支援システムを、医療に特化したシステムに開発し直して、取り組みが承認されたものです。日本でも代理店によって販売され、防衛省の病院などで使用されてきました。

しかし、日本ではまだインフラが整っておらず、日本の代理店の撤退と同時に2004年7月、KLT TELECOM社(アメリカの遠隔医療ベンチャー)を買収しました。そして、2010年2月に事業化のめどが立ったのでViewSend ICT株式会社を設立し、事業を継承しました。

ーーその過程で苦労したことを教えてください。

嗣江建栄:
私自身、経営が初めてだったので、ゼロからのスタートでした。しかし、とある病院グループの事務長からの問い合わせの電話を受けた後、国立がん研究センターの先生方とつないでいただいたことが大きな転機になりました。

もともと国立がん研究センターの先生方も独自で遠隔診療の実現を目指す研究開発を進めていたこともあり、米軍で活用されていた高いセキュリティを確保する弊社のシステムが受け入れられました。国立がん研究センターとの取り組みは双方にとって非常にメリットのあるものとなったのです。

検査画像の遠隔診断支援サービスで、全国に高いレベルの医療を提供

ーー貴社の事業内容について教えてください。

嗣江建栄:
弊社は、CTやMRIの検査画像を画像検査病院から画像診断支援病院にデータとして送付し、画像診断支援の専門医が遠隔で読影するサービスを提供しています。

日本は平均寿命が長い国と言われていますが、その理由の一つはCTやMRIなどの検査機器が普及しており、国民の4人に1人が一度はこれらの検査を受けるほど数が多く、早期発見と早期治療につながりやすいことにあります。

しかし、専門医の不足という現実もあります。画像診断ができる専門医は都心の大病院や大学病院に集中しています。そこで、地方の病院で行った検査画像を大学病院などに送信する弊社のサービスを活用します。そして、翌診療日までに専門医が画像診断を行い、その結果を地方病院に送信するため、医療の均てん化(※)が図ることができます。これは地方に住む患者様にとって、大きな安心につながるものです。

(※)全国どこでも標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること。

ーー他社との違いや強みはどういったところにあるのでしょうか。

嗣江建栄:
セキュリティと仕組みが強みです。

セキュリティについては、もともと米軍で開発されたシステムなので、その強固さには自信があります。これまでの17年間で50万件のデータが集積されており、この実績からも日本の病院で信頼して使用されていることがおわかりいただけると思います。

また、弊社のシステムは全国に140カ所ある国立病院機構からスタートしており、「国に認められている」という強みを持っています。

日本では、もともと対面診療が基本でしたが、新型コロナウイルスの流行もあり、対面診療が原則の上で一定の要件を満たすことを前提に遠隔医療でも保険が使えるようになったことも、前進だと感じています。

しかし、全国では年間3500万件もの検査データがあるのに、専門医が少なく、実際には50%程度しか画像診断管理加算を算定していません。今後、遠隔医療の普及により、日本医療のプラットホーム化が進むように取り組んでいきます。

ーーすばらしい取り組みですが、病院の新規開拓はどのようにしているのですか。

嗣江建栄:
弊社ホームページにも問い合わせは届きますが、毎日病院に通っている医薬品ルートセールスの会社などが、代理店となってチラシを配ってくれていることが大きいですね。また私自身、毎年論文を書いて発表しており、医師の先生方へもアピールしています。

未来を見据えた医療サポート強化で、業界に新しい風を

ーー3〜5年後の展望について思いを聞かせてください。

嗣江建栄:
先ほどもお伝えした通り、日本では年間3500万件の検査データが存在するにもかかわらず、専門医の不足により、その50%しか活用できていないのが現状です。現時点で、弊社はそのうちの1%程度しか支援できていませんが、3年後の2027年までに、当社のサービスによって5%の検査データが専門医によって診断されるよう、サポート体制を強化していこうと考えています。

また、海外の大病院と日本の大病院をセミナーなどを通じてつなげる取り組みを始めています。これにより、海外からの患者さんを日本で診察できるようにしたり、その逆もできたりするような流れをつくっていきます。弊社の使命は、画像を通じた遠隔医療のパイオニアとして、その役割を果たすことです。

ーー今後、注力していきたい課題を教えてください。

嗣江建栄:
新規取引先の開拓、営業部門の強化、経営幹部の育成の3つだと考えています。

特に営業部門の強化では、中小病院に対しても弊社の仕組みの認知度をアップさせ、導入を促進していきたいと思っています。そのために、クラウドファンディングなど、さまざまな機会をとらえ、販売代理店も増やすなど、活動を行っています。

また経営幹部の育成に関して、今後はこの事業に共感してくれる若手人材を集めたいと考えています。求める人物像としては、リーダーシップを持ち、自分自身で考えて行動できる人、そして責任感がある人です。毎週、社員には「自分のためではなく、相手のために頑張ることができる人になろう」と伝えていますが、そのような人材を幹部候補として育成していきたいと考えています。

編集後記

新型コロナウイルスの流行をきっかけに遠隔医療がスポットを浴びたが、それより20年近く前から遠隔医療のサービスを日本に浸透させようと奮闘していたのが嗣江氏である。物流のインフラや仕事のオンライン化などにより、日本全国どこにいても変わらない生活が送れるようになってきたが、スピーディな遠隔診療も、より「当たり前」になることだろう。同社のこれからの展開が医療格差をなくす一筋の光となることを願っている。

嗣江建栄/1964年、中国広東省生まれ。1988年、来日。1996年、千葉大学大学院修士課程を修了後、半導体材料の開発に関する研究所に勤務。発明特許2報。2004年KLT TELECOM社(アメリカの遠隔医療ベンチャー)を買収。2010年、ViewSend ICT株式会社を設立し、代表取締役に就任。特許協力条約(PCT)特許:「医療支援システムおよびその方法」(日本、アメリカ、中国、ベトナム、タイ)。政府遠隔医療関連プロジェクトへの参加多数。遠隔医療論文も多数執筆。