「子どもの笑顔を増やしたい」という想いから「子供のそばで働ける世の中をあたりまえに」を企業理念に、独自のビジネスモデルで働く母親たちに新たな可能性を提供し続ける株式会社ママスクエア。親子カフェから始まり、”託児付ワーキングスペース”の運営をメインに、BPO、保育事業や、行政との連携事業など、企業の人材不足解消、地域経済の活性化、少子化対策にも大きな役割を果たしている。同社の代表取締役である藤代聡氏に、事業への思いと今後の展望についてうかがった。
人生の意味を追求して決意した起業家という道
ーー起業しようと思ったきっかけをお聞かせください。
藤代聡:
大学生の時に「この先どのように生きるか」を真剣に考えました。そのとき、「人は誰しも死ぬ」という真理が頭をよぎったのです。背景には、幼少期の忘れられない経験があります。
幼稚園の頃、仲の良かった友達が交通事故で亡くなりました。その悲しみは、今でも鮮明に覚えています。この経験から、子どもながらに「生きた証を残したい」という思いを持ち続けるようになったのです。
世の中に足跡を残す方法は、スポーツや芸術など、さまざまです。その中で、私が選択したのが事業でした。事業であれば、努力によって成功を引き寄せられると考えたのです。
ーー実際に起業するまでは、どのような道を歩んだのですか?
藤代聡:
大学卒業後、株式会社リクルートフロムエー(現・株式会社リクルート)に入社しました。求人広告を通じて多くの企業と取引するリクルートの業務は、起業のためにビジネスを学びたいと考えていた私にとって、とても魅力的でした。
10年間の在職中、約3500社のクライアントを担当し、多種多様な企業を見る機会に恵まれました。そして、多くの企業から得た学びを活かし、2004年にママスクエアの原型となる「親子カフェ」を立ち上げたのです。
働く母親たちの新たな可能性を見出したママスクエアの誕生
ーー親子カフェのアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?
藤代聡:
当時、幼児虐待や子育て放棄など、悲しいニュースが増えていました。それらの報道を目にして、「子どもたちが笑顔で健全に育ち、お母さんたちも楽しく子育てができないだろうか」と考えたのです。
私自身、3人の子どもの父親として、子育ての大変さを身近に感じていました。そして、妻の苦労を間近で見て、「子育てをするお母さんたちには、息抜きの時間と場所が必要だ」と感じたのです。子どもが笑顔で健全に育つためには、お母さんが心身ともに健康であることが大切です。そこで思いついたのが、子どもたちが遊ぶスペースとカフェスペースを併設する「親子カフェ」という業態でした。
私がリクルートにいた頃、成功する企業には共通する3つの特徴があることに気づきました。それは「世の中から必要とされていること」「女性向けのサービスであること」「現金商売であること」です。親子カフェは、これらの要素が3つともそろっていたのです。
ーー親子カフェ設立後、どのような経緯で創業に至ったのですか。
藤代聡:
親子カフェを始めた当初は、主婦、学生、フリーターを均等にスタッフとして採用していました。リクルート時代の経験から、これが最も安定するだろうと考えていたのです。
しかし、実際に運営を始めてみると、当時の環境では学生やフリーターは欠勤率が高かったのです。そのとき、欠員が出たシフトを埋めてくれたのが主婦の方々でした。
彼女たちは優秀で、一生懸命働き、とても真面目でした。この経験から、女性、特に主婦の比率を徐々に増やし、店長も女性を採用するようになり、その結果、店舗の運営が非常にスムーズになったのです。
あるとき、採用面接中に応募者が泣き出したことがありました。理由を聞くと、「他の会社では、子育て中であることを理由に、面接すらしてもらえなかった」と言うのです。
主婦や母親というだけで、優秀な人材が働けない社会はおかしい。そう考えていた矢先、リクルートから新規事業の相談を受け、親子カフェの概念を発展させたアイデアを提案したのです。「キッズスペースの隣にオフィスがあれば、子育てをしながら働けるのではないか」というのが、私の案でした。
このアイデアが認められ、託児付ワーキングスペース「ママスクエア」が誕生しました。
子どもたちが笑顔でいられる社会を実現させるために
ーー貴社の強みや特徴は、どのようなところにありますか。
藤代聡:
2014年に立ち上げたママスクエアですが、今では約1500人のママが働いており、女性管理職の割合は83%となりました。子連れ勤務はもちろん、ママ同士、仕事の調整がしやすいこともあり、仕事と育児が両立できる環境を整えています。
子連れ出社したママは、子どもをキッズスペースのキッズスタッフに預け、ワーキングスペースでBPO業務を担当します。ママスクエアのBPO業務は、クライアントから大変評価が高く、女性ならではの細やかな対応や丁寧さが特長です。
以前、大手食品メーカー様が扱う、お歳暮用商品の詰め合わせセットのご案内を担当させていただいたことがありました。ご案内をしていく中で断られても、弊社のスタッフは単に電話を切るのではなく、「寒くなってきましたので、暖かくしてお過ごしください」と一言添えて電話を終えるのです。
すると驚いたことに、お客様の方から食品メーカーに直接連絡があり、「感動した。やっぱり買います」とおっしゃっていただいたのです。本来であれば、スクリプト(台本)外の言葉は控えるべきなのですが、お年寄りのお客様だとわかっていたこともあり、スタッフの機転の利いた対応が功を奏しました。
このように、当社の強みは単にマニュアル通りではなく、お客様一人ひとりに寄り添った、きめ細やかな対応ができる点にあると自負しています。ママ達は働けることの喜びや、子どもがそばにいる安心感から、意欲的であり、女性ならではの視点や感性を活かし、臨機応変に対応することで、お客様の心に響くサービスを提供できると考えています。
ーー今後について、どのような考えをお持ちですか。
藤代聡:
私たちの活動の根底にあるのは、常に「子どもの笑顔を増やしたい」という思いです。親子カフェの時代から一貫して、この思いを叶える活動を追求してきました。そして、子どもの笑顔を増やすためには、お母さんが心身ともに健康であることが不可欠です。
最初は親子カフェでお母さんたちにゆっくりしてもらう場所を提供し、次にママスクエアで子どものそばで安心して働ける環境を作りました。しかし、これは女性のライフサイクルの一部分に過ぎません。たとえば、子育てが終わった後には親の介護が待っているかもしれません。私は、ママスクエアの仕組みをベースに、こうした課題にも対応できる新しい仕組みがつくれるのではないかと考えています。
現在、ママスクエアはBPO事業、事業所内保育事業、行政との連携事業、FC事業など、幅広く事業を展開しています。これらの取り組みは、働きたいママへ活躍の場を与えるだけでなく、人手不足で悩む企業の支援や地域経済の活性化にもつながっています。そして、この先にも、まだまだ可能性があると確信しています。
「子どもの笑顔を増やす」「女性の活躍を支援する」という原点を忘れずに、社会のニーズに応える新しい仕組みづくりに挑戦し続けます。
編集後記
子育て中の女性の支援、企業の人材不足解消、地域経済の活性化、少子化対策を同時に実現する同社の取り組みは、まさに新発想で社会課題を解決する新しい形のビジネスの先駆といえるだろう。さらなる可能性を追求し続ける株式会社ママスクエアに、今後も注目していきたい。
藤代聡/1966年、東京都生まれ。1989年、株式会社リクルートフロムエー(現・株式会社リクルート)に入社。2004年、ママスクエアの原型となる親子カフェを立ち上げる。2014年、株式会社ママスクエアを設立し、代表取締役に就任。子育て世代の女性に合わせた勤務スタイルや執務環境を提供し、「子どもと一緒に働ける」マザーズギグワーク事業を全国55拠点で展開。EY Innovative Startup 2018を受賞。