
1925年、トイレットペーパーなど家庭用紙製品の小売業からスタートした株式会社ユアサは今年で創業101年を迎える老舗企業だ。「蛇口をひねれば水が出るように、生活必需品をなめらかに人々に届けたい」と語る同社代表の湯浅賢治氏は、ECサイト「湯浅紙店」を立ち上げ販路拡大へと乗り出した。そして2024年5月、代表取締役社長に就任した。近年は卸売業の枠を超え、ECを次なる事業の柱に据えて独自の「構造的に安く流通する仕組み」を構築している。そこで培った自動化や効率化のノウハウを武器に、2026年1月からは地域の中小企業向けにクラウド型DX支援サービスも開始した。事業と採用を一体化させ、次世代リーダーの育成にも注力する湯浅氏。今回は、キャリア選択の指標となる考え方や社長就任後のビジョン、プロフェッショナルになるための秘訣などをうかがった。
「自分の好き」を突き詰めNECへ入社 金融機関向けクラウドサービスを事業化
ーー大学卒業後にNEC(日本電気株式会社)に入社された経緯をお聞かせください。
湯浅賢治:
大学時代は教師を目指して教員免許を取得しました。しかし、就職活動の時期に友人がみんな企業への就職を志望していたので、企業で働くとはどういうことだろうと軽い気持ちで民間企業のインターンシップに参加しました。そこでの体験で「効率的な仕事を考えるって面白い!」と感じたのです。
また、同時に自分が教師を志した気持ちの根底には、「人に何かを教えることが好き」という思いがあることに気づきました。そこから、「どんな仕事でも教育的な要素はある」と捉えなおして企業に就職する方向へ転換し、ご縁あってNECに入社しました。
ーーNECでの印象的なエピソードを教えてください。
湯浅賢治:
NECでは金融機関向けに営業をしていましたが、異動をきっかけにあるクラウドサービス事業をつくる仕事のリーダーを任されました。当時はクラウドの概念自体がまだ一般的ではなく不安もありましたが、「レアな経験ができるかもしれない」と発想転換して取り組みました。
周囲の方々の協力もあり、クラウドサービスは順調に拡大し、サービス開始から3年で黒字化、6年後には会社から表彰されるまでになりました。このとき、記念パーティーに40人ほどが集まって喜び合った際、事業をつくることのやりがいを強く感じました。
生活必需品をなめらかに人々に届けたい
ーー会社を継ぎ、社長へ就任された際に抱いた思いをお聞かせください。
湯浅賢治:
36歳で結婚した時に「今後の人生を何のために働くか?」と考える時間を持ちました。私は、お客様や家族など身近な人からダイレクトに「ありがとう」と言ってもらいたいタイプの人間で、これが最も実現できる場所はどこかと考えたのです。そのとき、家業である会社を継ぐことで、家族や両親、地元の皆様の役に立てると同時に、子どもたちに何かインパクトを与える仕事ができるのではないかと思いました。
ーー貴社の事業内容と独自の強みを教えてください。
湯浅賢治:
トイレットペーパー、ティッシュペーパー、ポリ袋などの卸売、小売、配送や加工など、日用消耗品に関するさまざまなサービスを提供しています。弊社で取り扱う商品は、生活になくてはならない必需品だからこそ、なめらかに多くのお客様にお届けしたいと思っています。そのため、オンライン注文や定期便、置き配などのサービスをご用意し、購入者の調達の手間を削減して商品をお届けすることに力を入れています。
また、商品の販売は「箱売り」に特化し、繰り返し使われる商品にアイテムを絞ることで、高品質な商品を安く提供できる構造的な強みを持っています。
卸売の縮小を見据えたEC転換と構造的に勝てる仕組みの構築

ーー卸売業からEC事業へと本格的に参入した背景をお聞かせください。
湯浅賢治:
弊社のメイン事業である卸売業は、地域の量販店様に商品を納入しています。しかし、人口減少やネットショッピングの普及により、お客様が実店舗で大きな日用品を買って持ち帰るという行動自体が減っています。加えて、量販店様も利益率の高い食品や惣菜の売り場面積を広げ、雑貨のスペースを縮小して棚効率を維持する傾向にあります。このままでは卸売の売上高が右肩下がりになるという強い危機感がありました。
そこで、この先を見据え、ECを次の柱にしようと立ち上げたのです。弊社はこれまで卸売業者として企業様に営業活動をしてきたため、法人のお客様のニーズが分かります。その知見を活かし、ECでも買いやすい仕組みを盛り込んでいきました。現在では、事業をスタートしてから1〜2年で、卸売業で減少していく売上高をECで伸びる金額が上回る状態をつくることができました。
ーー短期間でEC事業を軌道に乗せることができた要因は何ですか。
湯浅賢治:
各プラットフォームで選ばれるためのルールを徹底的に研究し、「構造的に安く流通する仕組み」を構築できたことです。Amazonや楽天など、サイトによってお客様に見てもらい、買ってもらうための方法は少しずつ異なります。そこで社員と協力し、どうすれば勝てるのかを調べ上げました。その結果わかったのは、私たちが扱う生活必需品は価格で選ばれる側面が非常に大きく、他社よりも安く提供できなければ勝てないという事実です。
私たちが扱っている商品のコストは、大きく分けて商品原価、物流費、そして事務処理コストの3点に分類されます。1点目の商品原価については、卸売業としてメーカー様から量を仕入れるため、競争力のある価格で調達できるという強みが活きています。2点目の物流費については、仕組みを大きく見直しました。以前はすべて自社倉庫で商品を仕入れ、そこから全国へ発送していました。しかし、ネットで買い物をするお客様の多くは関東にいらっしゃいます。一番売れている商品の製造工場も静岡県にあるため、静岡から兵庫の自社倉庫に商品を一度仕入れてから、再び東京へ送るのは非効率だと考えました。そこで、静岡にいる同業者に声をかけ、協力を仰いだのです。弊社でECの受注を受け、東京からの注文であれば静岡の協力会社から直接出荷していただく仕組みに切り替えました。これにより物流費の大幅な削減に成功しています。
ーーでは、3点目の事務処理コストについてはどのように削減を図ったのですか。
湯浅賢治:
徹底的な自動化、つまりDXの推進です。手作業をシステム化することで、手間をかけずにコストダウンを図っています。たとえば、ネットで注文が入った後の発送通知メールの処理です。以前は、運送会社のシステムから送り状番号を取得し、その番号をコピーしてメールのフォームに貼り付け、お客様にお送りするという作業をしていました。しかしこの作業は、1日500件もの処理が必要になる日もあります。そこで、運送会社のシステムから出力されたデータを自動で処理し、勝手にメールを作成して送信するところまでを行ってくれるシステムを構築しました。これにより、1日500件の手作業がゼロになりました。
自社で培ったDXノウハウを展開し地域の中小企業を支援
ーー他社向けのDX支援サービスを開始した経緯を教えてください。
湯浅賢治:
卸売業界には古い体質が残っており、未だに手作業でやっている業務が山のようにあります。多くの方々がDXをやらなければならないと分かりつつも、どう使えばいいか分からないと悩んでいらっしゃるのです。そうした方々がDXを進めようとしたとき、いきなり知らないコンサルタントにお願いするのはハードルが高いと思います。
しかし、同じ業界や同じ地域にいる私たちであれば、悩みも似ていますし、声をかけやすいはずです。実際に自分たちが直面し、解決してきた事例があるからこそお役に立てる部分があります。全国に広めるというよりは、近い業界やエリアの企業様に事例を紹介しながら貢献できればという思いでスタートしました。
ーー自社で実践しているDXの具体的な活用事例を教えてください。
湯浅賢治:
社内の規定やマニュアルの検索を、生成AIであるNotebookLMを活用して瞬時に回答できるようにした事例があります。たとえば、各種申請や社内手続きに関する問い合わせが来た際も、過去の規定をAIに入れておけば、質問に対して「このURLから申請してください」と数秒で答えを出してくれるのです。
また、過去の顧客データをAIに読み込ませることで、営業に行く前にこのお客様から過去にどんなクレームがあったかを瞬時に検索できるようにもなりました。既存のシステムを使わなくても、驚くほどスピーディーに業務が進むようになっています。
事業と採用を一体化し次世代リーダーを育成

ーー貴社が求める人材像をお聞かせください。
湯浅賢治:
弊社では、年齢に関係なく活躍できる環境があります。私たちは、事業戦略と採用活動は一体であると考えています。若い方々を採用しようとしたとき、従来のような営業職だけでは人が集まりにくいのが現実です。しかし、ECやDX、マーケティングの仕事がしたいという方はたくさんいらっしゃいます。だからこそ、人が集まる魅力的な領域へと事業を伸ばしていく必要があるのです。
求めているのは、年齢を問わず、日常から「こうなったらいいな」と気づける感度の高い方です。プライベートでもAIを使ってみたり、ネットで買い物をしたときに届いた箱がボコボコで不快だったなと感じたりする感覚です。仕事の時だけでなく、生活者として心地よい状態をイメージしながら働ける方とご一緒したいですね。
ーー次世代のリーダーを育成するためにどのような取り組みを行っていますか。
湯浅賢治:
AIやDXの領域は変化が激しく、半年前に書かれた本がもう通用しないこともあります。研修を受けるだけでなく、どんどん手を動かして試行錯誤し、こんなこともできるんだという気づきを得ていく実践が何よりの育成になるのです。
そのため、社内にAIやDXを推進するプロジェクトチームを発足させました。選抜メンバーや希望者を集め、半年間ほどの期間で自社のどの課題をどう解決していくかという具体的な要件定義から取り組んでもらっています。こうした実践を通じて、リーダーシップを発揮できる人材を育てていきたいと考えていますし、AI開発の経験がある方にもぜひ加わっていただき、一緒にDXを加速させていきたいですね。
ーー今後の長期的な事業構想とビジョンをお聞かせください。
湯浅賢治:
商品も配送エリアも拡大し、より多くの人に商品を届けたいと考えています。現在は、置き配などを自社配送できる京阪神エリア限定でサービス提供していますが、今後は全国の運送会社との協業関係を強化し、対応エリアを拡大したいと思っています。
根本にあるのは、購買体験におけるなめらかさの追求です。これまではお客様からFAXで注文を受けていましたが、FAXの使い方が分からない方にとってはそれがストレスになっていました。オンライン化すれば、何を何個注文したかがひと目で分かります。また、毎週40件消費する企業様が都度発注するのも手間ですので、定期便をご提案しています。本当に付加価値の高い状態とは何かを追求し、無駄なく負担なくお客様に届く仕組みをつくりたいのです。
ゆくゆくは、売上高100億円規模を目指したいと考えています。私たちが目指すのはデジタルドミナント戦略です。お客様がAmazonや楽天など、どのサイトで買い物をしても、その裏側にあるインフラは私たちが担ってお客様に届けている状態です。生活必需品の流通において、見えないところで社会を支えるインフラ企業へと進化していくことが私たちの未来のビジョンです。
ーー最後に、就職活動中の学生や転職希望者へメッセージをお願いします。
湯浅賢治:
自分がやりたいと思うことを正直にやってほしいです。「やりたいことがない」と思っている人も多いのですが、誰でも楽しいと思う瞬間が必ずあります。最初はわかりにくいのですが「これかな」と思って、その楽しさを仕事の中で実現できる方法を探してみましょう。はじめは小さく取り組んでみるのがコツです。
よく、やりたいことを見つけたといって、起業や転職をする人がいますが、いきなり今の会社を辞めてしまうのではなく、まずは今の会社で働きながら試せないか考えてみましょう。もし試せれば、またそこから自分のやりたいことの方向性が見えてくる。そうして思考と行動を繰り返していくうちに、自分なりのプロフェッショナルが見えてくると思います。
また、これからの事業展開を見据え、私たちは多様な方々と繋がりたいと考えています。弊社で一緒に働きたい方はもちろん、業務委託などで力を貸してくださる方、あるいは弊社の事例を参考にDXを推進したい企業様も大歓迎です。「ちょっとアドバイスがほしい」「事例を聞かせてほしい」といった気軽なご相談でも構いません。同じ志を持つ仲間として、共に新しい流通のインフラを築いていける繋がりが生まれることを心から楽しみにしています。
編集後記
創業100年を超える老舗卸売企業でありながら、EC事業への参入やDXの推進など、変化を恐れず挑戦を続ける株式会社ユアサ。湯浅氏の言葉からは、コスト削減や効率化の徹底はもちろん、その先にある「なめらかな流通インフラの構築」という明確なビジョンが感じられた。古い体質が残る業界に新風を吹き込み、自社のノウハウを地域に惜しみなく還元しようとする同社のオープンな姿勢は、多くの企業に勇気を与えるだろう。次世代のリーダーたちと共に、生活必需品の流通をどう進化させていくのか、同社のさらなる飛躍に期待したい。

湯浅賢治/1981年生まれ、同志社大卒、早稲田大学MBA修了。NEC(日本電気株式会社)で金融機関向けクラウド事業を牽引後、株式会社マザーハウスでジュエリー事業の立上げと販売責任者を経験。2019年に家業のユアサへ入社し、2023年にECサイト「湯浅紙店」を開設。ECを第二の柱に据えるべく奮闘する傍ら、運営で培った自動化・効率化ノウハウを武器に、2026年1月からはクラウド型DX支援サービスも展開中。2024年5月に代表取締役社長に就任し事業承継。