※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

「転職の時代」と言われる現代。働く人にとっても、企業にとっても良い選択とは何だろう。企業はより深く知るために応募者を分析するが、求職者も企業を分析することが当たり前になった。採用における「決める側」と「決められる側」という構図は、もはや存在しないのではないだろうか。

株式会社ミツカリは、幸せに働く人を増やすために人と組織のマッチングの精度を向上すべく、企業の人事に関わる問題解決をサポートしている。「社会全体の適材適所」をミッションに事業展開している同社は、どのように組織課題に取り組んでいるのか。代表取締役社長CEOの表孝憲氏に、事業内容やHR(人材)業界の未来像について聞いた。

徹底的な自己分析で確信した「楽しい組織づくり」への思い

ーー起業しようと思ったきっかけは何ですか。

表孝憲:
きっかけのひとつは、起業家の方と話したことですね。「大変そうでも、楽しそうな人生だな」と思ったのです。特に、「組織」というものに興味を抱き、その中に入って人の力を引き出せるような仕事がしたいと思いました。

ーー人事に関わる事業に行き着いた経緯を教えてください。

表孝憲:
何か大事な決断をする時に、人と組織は「楽しい」という理由があれば力を発揮できることを実感しました。そのことから、人と組織に関わる事業を始めて楽しさを味わうお手伝いができれば、きっと自分も幸せになるだろうなと思ったのです。

この考えを追求するために、自分の過去や大切な場面で行ってきた意思決定について細かく振り返って自己分析をしました。その結果、自分の考えは間違っていないと判明し、自分の思いを実現するために人事領域に関わる事業がしたいと、自信を持って決断することができました。

足を使う地道な販路開拓が築き上げた信頼

ーーどのように販路を開拓したのですか。

表孝憲:
最初は、あまりお金をかけずにできることをやっていきました。WEBマーケティングで効率的な手法を見つけて実践していきました。また、最新のHRテックに関心の高い人が集まる場所に参加して、勉強もしました。新しい考え方を取り入れて人事の領域を変えたいと思っている人に会えるチャンスを積極的につくって、実績を積み上げていきました。

ーーその努力が、大手企業との取引につながったのでしょうか。

表孝憲:
はい。信頼を築くために、足を使った地道な販路開拓に努めてデータを蓄積した結果、大手企業との取引も可能になりました。さらに、会社を設立したばかりで売上がほとんどない時にはプライバシーマークを取得したり、最近ではISOも取得したりして、セキュリティにも投資しています。

働く人の「顔」を知ることが真の組織課題の解決につながる

ーー貴社の事業展開について教えて下さい。

表孝憲:
弊社は、「社会全体の適材適所」をミッションに事業を行っています。企業が抱えている課題は、離職率の増加だけでなく、従業員の仕事に対するモチベーションや適合性などのさまざまな悩みまで含まれます。

そのため、弊社では適性検査やエンゲージメント(働きがい)を測定するツールを開発し運営しています。通常のエンゲージメントサーベイでは、得られた結果を対策につなげにくいことが欠点ですが、弊社はミスマッチを防ぐために適性検査を補完した新しいサービスを提供しています。

ーー取引先にはどのような企業が多いですか?

表孝憲:
お客様の属性は多岐にわたりますが、多拠点をもつ事業体系の企業が多いです。たとえば、工場では1人の人事担当者がいくつもの拠点を担当しているため、社員の顔が見えづらいという悩みがあります。

また、働いてくれる人のことを単なる労働力と捉えて効率的に運営したいというよりも、社員を大事な資産と捉えて、より良い環境で長く働いてほしいと願う経営者が多い印象です。そのような企業にこそ、弊社のサービスは貢献できると自負しています。

ーー他の競合サービスと違う点はどこでしょうか。

表孝憲:
ミツカリのサービスは適性検査から始まったのですが、他のサービスとの違いは、求職者ではなく、現在働いている社員が受けることが前提である点ですね。つまり、働く人の適合性を判断し、より良い職場環境を構築して働きがいを高め、離職問題を解決に導くために、社員のデータを活用するのです。同様のサービスは、2018、19年頃から競合が出現し始めました。

ーー貴社のサービスが普及した理由は何だと思いますか。

表孝憲:
世の中では、データ収集を重要視する流れになっていることが挙げられるでしょう。さらに、労働力の減少も大きな要因ですよね。企業への応募者が減っているため、「今働いてくれている人をより深く理解して大事にしよう」という考えが、資本主義的な観点でも主流になってきているのではないでしょうか。

新たな可能性を切り拓くために、適所適材のために働く人を可視化するシステムを活用

ーー今後は、どのような分野に力を入れていきたいですか。

表孝憲:
新技術の開発に注力していきます。具体的には、人と企業のミスマッチを測るシステムや採用記事の作成、エンゲージメントサーベイの実施などですね。これらのツールを実際に活用して離職率を減少させると同時に、簡単に結果を可視化できる技術を開発したいと考えています。

本当の適材適所というのは、性格などの一面だけでは判断できません。履歴書に書かれていることだけではなく、その過程を深堀りすることでミスマッチが防げると考えています。

ーー今後のHR業界について、どのような展望を持っていらっしゃいますか。

表孝憲:
弊社のツールを使うこと自体が目的ではなく、相手の性格や感情などをデータ化して理解することが当たり前の世界になると良いと思っています。働く人のことをよく知って、数値として可視化して、それらを活用することが次世代の常識になるでしょう。

編集後記

「人と組織」の力を引き出したい。その思いに迷いはないと語る表社長。自身もこれまでの人生で重要な決断をする時は徹底的に自己分析を行ってきた。

ミツカリの顧客には、従業員を大事な資産と考える企業が多いそうだが、表社長の人に対する思いや考え方が引き寄せた結果だろうと感じた。

人生の多くの時間を過ごす職場。健全な組織を長期的に運営していくために、同社が提供するサービスは欠かせないものになるだろう。

表孝憲/京都大学法学部卒業。モルガン・スタンレー証券株式会社に入社し、債券統括本部でトップセールス賞を11期連続で受賞。入社後7年ほどリクルーティングコミッティリーダーとして採用面接も務める。退社後、カリフォルニア大学バークレー校にてMBAを取得。在学中の2015年に株式会社ミライセルフ(現:株式会社ミツカリ)を設立し、代表取締役社長CEOに就任。東京医科歯科大学非常勤講師、高知大学医学部非常勤講師。