※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

一人の医師が革新的なアプローチで地域医療の課題に立ち向かっている。株式会社Vitaarsの代表取締役社長を務める中西智之医師は、その豊富な経験と独自の視点から、地域医療の質の向上および均てん化を目指し、遠隔集中治療の分野でこの問題の新たな道を切り開く。今回は、中西社長に会社の設立背景、事業内容や今後の展望について話をうかがった。

医師になって感じた集中治療体制の大きな課題

ーー医療現場で、とくに印象に残ったこと、起業の契機となった出来事はありますか?

中西智之:
医師としてのキャリアを重ねていくなかで、大学病院のように設備も人材もそろっている大規模病院と、設備があっても人材が不足している地方の中核病院との間に大きな格差があることに気づきました。この気づきが、遠隔集中治療のシステムを使って、医療従事者を支援したいと強く思ったきっかけとなりましたね。

私が救急外来で勤務していた頃、診断に苦慮する患者さんがいる時には、私は以前勤めていた救命センターの医師に相談していました。しかし、これは珍しいことだと思います。同じようにしている先生はほとんどいらっしゃらず、そもそも他院に支援を求められる仕組みがありません。私は、医師がいつでも質の担保されたアドバイスを、気軽に受けられることが重要だと考えるようになりました。

遠隔集中治療の必要性を理解してもらえず困難なスタートを切る

ーー創業当時の組織体制や、印象に残っているエピソードをお聞かせください。

中西智之:
2016年に創業した当初は、まず医療機器メーカーの協力を得ながら、遠隔集中治療を支援するシステムを構築しました。初期では、知り合いの医師や看護師に、遠隔集中治療に興味を持ってくれそうな病院を紹介してもらいました。また、システムを使った支援に協力してくださる専門医や看護師の方とのネットワークも広げていきました。

印象に残っていることとしてあげられるのは、資金調達面で苦労したことです。創業当初は、投資家だけでなく医療従事者でも、遠隔集中治療に対する理解が足りない状況でした。

社員数名の小規模な会社でしたが、それでも十分な資金を集めることは難しい状況でした。資金調達の重要性と難しさを痛感した、苦い思い出です。

ーー貴社のメイン事業である遠隔集中治療支援システムについて詳しく教えてください。

中西智之:
私たちの遠隔集中治療支援システムには、ふたつの大きな特徴があります。ひとつは、システム自体の設計です。日本の医療ガイドラインに沿った設計であることはもちろん、それ以上に、実際に集中治療の現場での臨床経験がある専門の医師、看護師が開発に関わって開発しているので、病院にスムーズに導入でき、現場目線で使いやすい仕様です。

もうひとつは、システムを使って、ベッドサイドの医療従事者を支援する専門医や看護師のネットワークを構築することです。夜間や休日など、人材が手薄になる時間帯でも、専門医や認定看護師が遠隔からリアルタイムで病院にアドバイスを提供できる体制を整えています。この適切なシステムと、運用体制がそろうことで、専門医や看護師が不足している地域でも、適切な医療を届けることができます。

テクノロジーを活用することで医療DXを加速させ、医療の底上げを目指す

ーー今後のビジョンや計画についてお聞かせください。

中西智之:
私たちは、『世界中の人々に最高の医療を Anywhere, we care.』をミッションとして掲げ、日本国内だけでなく、海外にもサービスを展開していきたいと考えています。具体的には、医療の効率性と安全性を高めるために、テクノロジーを活用することを重視しています。

私たちのミッションは、必ずしも遠隔集中治療に限定されているわけではありません。医療全体の質を向上させることを目指しており、その手段のひとつとして遠隔集中治療を活用しているのです。今後はより幅広いテクノロジーの活用を視野に入れています。

ーー具体的にはどのような取り組みを進めていく予定ですか?

中西智之:
具体的には、急性期医療を中心に、さらに進化を遂げたいと考えています。必要な医療が届けられていない患者に対して、適切なタイミングで適切な医療を提供するシステムを開発し、実装していく予定です。

例えば、入院前から退院まで、患者に合わせて治療全体を適正化するためには、まだ満たされていないニーズがあると考えています。救急病棟への入院が必要かどうか適切に判断するシステムや、入院期間を最適化するための仕組みを導入し、無駄のない医療提供を目指す必要があります。

今後はさらに医療業界全体で、「医療の質の向上および均てん化」「医療従事者の負担軽減」「医療費の削減」のバランスを目指すことが重要だと考えます。弊社の遠隔集中治療支援を始め、多くのソリューションを医療界に提供できるよう、今後とも模索し続けます。

編集後記

中西社長が持つビジョンとその熱量に感銘を受けた。医師ならではの厳しい現場を知る視点で、今後の地域医療の課題を深く理解し、それに対して現場の医療者目線の新たな発想とテクノロジーで具体的な解決策を考えている取り組みは、今後の日本、ひいては世界の医療界に革新を起こす違いない。今後の同社の展開に注目したい。

中西智之/2001年、京都府立医科大学医学部を卒業。心臓血管外科に6年、麻酔科に5年、救急・集中治療に8年携わる。2016年に株式会社T-ICUを設立。医療における新たな領域への展開も見据え、2023年に株式会社Vitaarsと社名を改めた。