※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

膨大な情報の処理と活用をソフトウェアで可能にしたエッジAIプラットフォーム「Actcast」を開発・展開するスタートアップ企業、Idein(イデイン)株式会社。グローバルな舞台を視野に入れ、挑戦を続ける同社の代表取締役 / CEO中村晃一氏に、今後の課題と展望について詳しくうかがった。

アカデミアからテクノロジー企業へと、社会貢献を目指して転身

ーー学生時代から起業に至るまでの過程について、お聞かせください。

中村晃一:
東京大学在学中は、物理学者を目指して天文学を学んでいましたが、研究を進める中でスーパーコンピューターに惹かれ、次第にCPUやソフトウェアの研究に専念。当初は大学教授職を志望していたのですが、AIを活用してデータをソフトウェアで扱う技術を通じて社会に貢献したいという思いが強まり、博士課程を中退して起業に踏み切りました。

ーー起業後に直面した困難や、印象に残っている出来事は何ですか。

中村晃一:
弊社は、2020年にエッジAIプラットフォーム「Actcast」をローンチしました。これは、さまざまな物理空間でデータを収集・分析することで、社会課題を解決するサービスです。しかし、ローンチ直後に発令された新型コロナウイルス対策としての緊急事態宣言により、人々の活動が急減し、プロジェクトが中止に追い込まれました。その上、各社が投資を控える中、資金繰りも厳しい状況に陥りましたが、この困難を乗り越えました。

さまざまなデータを収集・可視化して、社会課題を解決するプラットフォーム

ーー事業内容について、詳しく教えてください。

中村晃一:
「Actcast」は、ソフトウェアを活用し、連携させることで膨大な情報を手軽に扱えるようにするものです。これにより、工場や鉄道、交通、店舗、オフィスなど、多様な場面でデータを収集し、問題を可視化して解決することが可能となります。

たとえば小売業界では、AIカメラを使った顧客の行動分析や入店者の属性の検知を行い、マーケティングを推進し、店舗業務の効率化を図っています。また、運送業では乗客数データを可視化し、建設現場やセキュリティー分野、物流業界では、AIカメラを用いた監視や異常検知が実現されているのです。

日本では労働人口の減少が進んでおり、従来は人間の目や耳で行っていた業務をAIに置き換えることで、人材不足の問題解決にも寄与しています。さらに、エッジAI側でデータ処理を行うため、リアルタイムでのデータ分析が可能で、通信コストの削減やプライバシー保護の観点からも優れた技術です。

導入例として、大手コンビニチェーンでは、AIによる来店者行動分析やデジタルサイネージを活用した店舗のメディア化で収益増加を図っており、すでに2,000店舗以上で利用、また、AIマイクも携帯ショップ2,000店舗以上で導入されています。

成長に向けた課題とグローバルシェアNo.1を目指す戦略

ーー今後の成長に向けて、特に注力したい課題は何ですか?

中村晃一:
今後は、人材採用が重要な課題です。特に、ハイタレント人材の採用に注力したいと考えています。弊社はプラットフォームを提供しているため、パートナー企業と協力してビジネスを展開し、価値を創出するビズディブ(新規事業創出、領域拡大)の推進を目指します。

開発したプラットフォームの上にさまざまな事業が立ち上がることで、最先端のテクノロジーを活用し、AIや半導体を駆使して課題解決に取り組む経験は、スタートアップであるからこそ得られる貴重な財産になるでしょう。もちろん、失敗や困難はつきものですが、それを乗り越えたときの達成感は格別です。私たちとともに成長を追求し、不確実性を楽しむ気概のある方にぜひ参加していただきたいと考えています。

ーーその他に、課題と感じていることはありますか?

中村晃一:
弊社は、パートナーエコシステムによるビジネスモデルを展開しており、深い専門知識と高度な技術を提供することで、企業に価値を生み出してもらい、連携を通じてともに変化を目指しています。ただ、現段階では、提案したプランを一緒に進めるケースが多く、プラットフォームを使ってパートナー企業が自ら仕事を創出する機会はまだ少ないです。

今後エッジAIプラットフォームが普及し、その活用方法や理解が進むことで、新しい事業が次々に生まれると確信しており、今後の課題は、パートナーとともにいかに価値の高い事業を生み出し、成功体験を重ねていけるかにあります。また、海外市場の開拓も重要な課題です。将来的には、取引の8割を海外市場に依存する形にしていきたいと考えており、プロダクトは既に海外で利用可能で、英語対応も整備されています。つまり現在は、日本でのシェア率向上だけでなく、海外市場開拓に向けた動きもしております。

グローバルシェアNo.1を目指し、ともに成長するハングリーな人材を求めて

ーー5年後に向けた展望についてお聞かせください。

中村晃一:
5年以内にプラットフォーム事業において、グローバルシェアNo.1を達成することを目標にしていて、そこまで普及が進めば、弊社の知名度も上がり、日本を支えるIT企業としての地位を確立できると考えています。

弊社は、深い専門知識と高度な技術力をもとにパートナー企業と新しい価値を創造し、0から事業を立ち上げていきます。この経験は、他では得られない貴重なものです。社風はオープンで、社長と社員の距離が近く、風通しの良い環境となっています。9割がリモート勤務ですが、毎週金曜日には社内で集まり、ビールを飲みながらコミュニケーションを図る機会も設けています。

難易度の高い課題に挑戦し続ける意欲を持つ方とともに、最先端のAI技術を駆使して、さまざまな社会課題を解決する未来に向かって挑戦を続けていきたいと思います。

編集後記

学生時代に専門分野を徹底的に突き詰めた知識が、現在の事業の基盤となっていると中村社長は語る。彼の経験からは、学生時代に深く学び、幅広い人脈を築き、人間としての経験値を積むことがいかに重要かがよくわかる。豊富な知識と経験、そしてNo.1を目指す野心的な姿勢が、Idein株式会社の急成長を支える原動力となっていることが強く感じられた。グローバルな舞台で、さまざまな情報をソフトウェアで処理する未来を実現するために挑戦を続ける同社に、今後も注目していきたい。

中村晃一/1984年岩手県生まれ。東京大学情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻博士課程を中退し、Ideinを創業。大学では主に高性能計算のための最適化コンパイラ技術を研究。2018年、ARMが選定する「ARM Innovator」に日本人で初めて選ばれる。2024年から国立大学法人東北大学共創戦略センター特任教授(客員)を務める。趣味はジャズピアノ。