アルバイトやパートスタッフの待遇改善に独自のアプローチで挑む企業がある。株式会社エーピーシーズは、「速払いサービス」と「ポイントインセンティブ」を軸に、労働者の働きがいを高める革新的なソリューションを提供している。
人材業界で培った知見を活かし、従来の金融サービスとは一線を画す「HRテック」の視点で、労働市場の構造的課題に切り込む。柔軟な評価システムと給与の前払いなどの柔軟な仕組みにより、従業員と企業の双方にメリットをもたらす同社の取り組みについて、代表取締役 社長執行役員の藤本勝典氏にうかがった。
偶然の出会いから時代に合わせた給与支払いサービス事業に挑む
ーー貴社に入社した経緯を教えてください。
藤本勝典:
私が弊社に関わるようになったのは、偶然の出会いによるものでした。弊社は2009年に設立され、私が前職にいたときに株式会社エーピーシーズから「弊社を買いませんか?」と売り込みに来たことがあったのです。そのあと転職をして、別の企業で働いていたときにも、当時の常務に同様の売り込みがあったそうです。
会社としては買収を見送ったのですが、そうした縁があったため、その常務と私の2人で個人的に株式を取得しました。その後1年ほどエーピーシーズに所属したのち、2014年に代表取締役 社長執行役員に就任することになりました。
ーー入社後、どのような課題に直面しましたか?
藤本勝典:
転職というよりは、いわば事業再生のような形での入社でしたね。私たちがまず取り組んだのは、システムの刷新です。当時、エーピーシーズは給与の前払いサービスを展開していましたが、そのシステムが古くなっていて、もはや誰も詳細を把握できていない状態だったのです。新しいシステムの構築には約4年かかりましたが、これが成功しなければ会社の存続も危ういような状況でした。
労働者の真のニーズに応える、独自のサービス開発
ーー貴社の事業内容について教えてください。
藤本勝典:
私たちの主な事業は、「速払いサービス」と「ポイントインセンティブ」の2つを軸に事業を展開しています。「速払いサービス」は、働いた分の給与をすぐに受け取れるというもので、多くのお客さまにご活用いただいています。従来の月末締め翌月払いでは、働いてからお金を受け取るまでに時間がかかりすぎるのです。働いた成果がすぐに見えると、働く人のモチベーションも上がっていくことでしょう。
一方、「ポイントインセンティブ」は、企業独自のインセンティブ制度を管理するシステムで、従業員の頑張りをポイントの形にして見える化します。たとえば、金曜日の夜などの特に忙しい時間帯に出勤してくれた従業員に追加でポイントを付与したり、販売員の場合は売上に応じてポイントを加算したりできます。
そのポイントに対して賞品を用意することで、時給を変更することなく、従業員の貢献度に応じた評価が可能となるのです。しっかりと評価する仕組みを整えることで、企業は頑張ってくれる人を大切にして、従業員も「もっとこの会社で働こう」という気持ちになるのです。
ーー他社と比較して、どのような点が強みだとお考えですか?
藤本勝典:
私は人材業界に長年携わっており、そこで培った経験と知識があります。アルバイトやパートスタッフの気持ちを本当に理解しているため、彼らのニーズや課題、そして彼らを雇用する企業側の悩みも熟知しています。だからこそ、単にお金を前払いするだけでなく、働く人々のモチベーションを高め、企業の人材管理を改善するようなサービスを提供できるのです。
変化する労働市場に対応し、働く人々の可能性を広げる
ーー日本の労働市場の現状について、どのようにお考えですか?
藤本勝典:
日本の人口は減少傾向にありますが、興味深いことに働く人の数は微増の傾向にあります。これは主に、女性の社会進出や高齢者の就労継続が影響しているもので、この変化によって、従来の評価システムや報酬体系では対応できない問題が生じています。
たとえば、パートスタッフの中には、家庭の事情などで出勤日を決めている人もいます。月曜日しか出勤できない人と、繁忙期の金曜日や土曜日に出勤する人では、会社への貢献度が明らかに異なるでしょう。しかし、現状の時給制度では、この差を適切に評価し、報酬に反映させることが難しいのです。
また、正社員向けにはさまざまな評価制度やタレントマネジメントシステム(人材に関する情報を一元管理し、評価・育成・活用に役立てるためのシステム)が存在しますが、アルバイトやパートスタッフに対してはそういった仕組みがほとんどないのは、大きな問題です。彼らのモチベーションを高め、適切に評価する新しい仕組みが不可欠だと考えています。
ーー今後、どのような方向性でサービスを展開していく予定ですか?
藤本勝典:
私たちの目標は、時給で働く人々が自分の貢献を適切に評価されるシステムをつくることです。具体的には、勤務時間や曜日、売上への貢献度などを総合的に評価し、それに応じた「ポイント」を付与できるようなサービスの開発を進めています。
私たちは、アルバイトやパートスタッフの可能性を広げ、働きがいを高めることが、日本の労働市場全体の活性化につながると信じています。今後も、彼らの未来を明るくするサービスを提供し続けていきたいですね。
編集後記
藤本氏の言葉からは、人材業界で培ってきた経験から得た、時給で働く労働者への深い理解が感じられた。エーピーシーズのサービスは、日本の労働市場が抱える構造的な課題に対する一つの解答になりうるだろう。変化する労働環境の中で、働く人々の可能性を最大限に引き出すための挑戦は、まだ始まったばかりだ。
藤本勝典/1964年、東京都生まれ。1985年、株式会社リクルートフロムエーに入社し、19年間求人・人材業界に従事。その後、2004年に株式会社インディバルを設立し、取締役に就任。2010年にはディップ株式会社に移籍し、執行役員常務に就任。2014年に株式会社パルマSVCの株式を一部取得して代表権を譲り受け、株式会社エーピーシーズへと社名を変更し、代表取締役 社長執行役員に就任。