ハイパーカジュアルゲームをご存じだろうか。これは、誰でも簡単にスマホで楽しめるカジュアルなゲームの一種で、年齢、性別、国籍を問わず世界中で多くの人々に親しまれている。市場規模は2023年に135億ドルに達し、2032年には274億8000万ドルにまで拡大すると予測されている。
株式会社GOODROIDは、このハイパーカジュアルゲーム市場に注目し、世界トップシェアの獲得を目指している。ゲーム開発のプロ集団を率いる同社の代表取締役社長 執行役員CEO、松田和彬氏に、起業に至るまでの経緯や経営の中で大切にしていることについて話を伺った。
より多くのサービス開発のために会社を設立!挑戦を重ねて得た新たな価値観
ーー会社設立までの経緯を教えてください。
松田和彬:
2009年、新卒で株式会社サイバーエージェントに入社し、メディアやゲームのプロデューサー業務を経験しました。2014年には同社の完全子会社として、株式会社GOODROIDを設立しました。サイバーエージェントでは、当初1本のゲームを約3~6ヶ月で開発していましたが、ユーザーが求める品質の基準が高まり、1年から2年ほどかけるようになったのです。
私はもっと多くのサービスをつくりたいと考えていたため、開発期間の長期化でリリースする本数が限られることに物足りなさを感じていました。当時、サイバーエージェントではルールが簡単で短時間で遊べるカジュアルゲームを開発しておらず、他社への転職を考えていたところ、藤田晋社長から「うちでつくればいい」と声をかけていただき、会社を立ち上げました。
当初、社長になることは特に目指していませんでしたが、実際にやってみるとプロデューサー業務と大きな違いがないことに気づきました。プロデューサーにとってのプロダクトが「サービス」なのに対し、社長にとってのプロダクトは「会社」そのものです。会社の業績を伸ばすために施策を考えたり新たなサービスを生み出したりする点で、非常に似た感覚で取り組めているため、今ではその役割を楽しんでいます。
ーー現在の自由な経営スタイルが確立された理由を教えてください。
松田和彬:
弊社は、サイバーエージェントの数多くある子会社の中でも、比較的自由にやらせていただいています。意思決定の最終権限は私にあり、サイバーエージェントの担当役員とは内容を共有しますが、提案が止められることはなく、同社から具体的な要望が出されることもほとんどありません。この自由な環境のおかげで、モチベーションを高く保ちながら楽しく仕事に取り組めています。
このような環境が築かれている理由の一つとして、以前サイバーエージェントに在籍していた際の藤田晋社長の姿勢が印象に残っています。藤田社長が同席する会議で、私を含めた社員が意見を相談すると、「そんなの、勝手にやればいいじゃん」と返答されることがありました。この一言には、「自分で考えて動き、責任を持って成果を出せばいい」というメッセージが込められているのだと感じました。
こうした経験を通じて、自由にやらせてもらえる環境にいるからこそ、しっかり成果を出して恩返しをしなければならないという責任感が強まりました。
東京リベンジャーズのゲームなど、社員自らが楽しむことがものづくりの秘訣
ーー貴社の事業内容について教えてください。
松田和彬:
弊社はカジュアルゲームの開発を主軸としています。手掛けるカジュアルゲームは、大きく2つのカテゴリに分けられます。1つはアニメや漫画などのIP(Intellectual Property=知的財産)を活用したゲーム、もう1つはグローバル市場向けのハイパーカジュアルゲームです。
IPを活用したゲームでは、『東京リベンジャーズ』や『おそ松さん』『青鬼オンライン』『SAKAMOTO DAYS』などのアニメや漫画とコラボレーションしています。どの作品とコラボするかについては、基本的に私たち自身が「好きなもの」を基準に決めています。「好きな人が好きなものをつくる」ことで、ものづくりにおいて本当に良いものが生まれると信じているからです。
そのため、コラボ案件は、こちらからアプローチするケースが多いですね。たとえば、サイバーエージェントが運営するAmebaTVのつながりを通じてアニメ関係の担当者を紹介してもらったり、原作者のFacebookやお問い合わせフォームを活用して直接交渉することもあります。
一方、グローバル向けのハイパーカジュアルゲームは、世界中のユーザーをターゲットにしているため、ダウンロード数が非常に多く、大きなやりがいがあります。私はサイバーエージェント時代から「つくったサービスをたくさんの人に使ってもらいたい」という思いを抱いています。まさにその思いに直結したこの取り組みは、非常にワクワクすると同時に、さらなる成長につながると考えています。
実際、ハイパーカジュアルゲームの事業は最初の数カ月間、売上がゼロでした。それでもあきらめずに続けた結果、5カ月目には月20万円の売上を達成し、さらに5年後には年間数十億円を稼ぐ事業に成長しました。最初は結果が出ずに苦しい思いをしましたが、粘り強く続けることで、成功した事例といえます。このように、つらい経験を乗り越えた成功体験を増やしていくことで、会社としてもさらなる成長が可能になると感じています。
社員がやりたいことをやる社風だからこそ、社員の力が会社の新しい未来をつくっていく
ーー貴社が大切にしている考え方や価値観を教えてください。
松田和彬:
フットワークの軽さを非常に大切にしています。新しいビジネスを始める際には、競合や市場の調査、専門家の意見収集などに時間を割くうちに、リスクばかりが気になって腰が重くなることもありますよね。弊社では、「とりあえずやってみよう!」を合言葉に、まずは小規模で試してみます。
その過程と結果を踏まえて、続けるか撤退するかを判断しています。このフットワークの軽さは、サイバーエージェントグループ内でもトップクラスだと思いますし、市場全体で見てもかなり優れていると自負しています。
また、私自身はカジュアルゲームがやりたくて起業しましたが、特定の事業にこだわるわけではありません。そのため、面白そうだと思ったビジネスには積極的にチャレンジしています。たとえば、カプセルトイの企画やオンラインくじの立ち上げもその一環です。今後も、社員が責任を持って取り組みたいという事業であれば、それがビジネスとして可能性がある限り、どんどん挑戦させたいと考えています。
ーー貴社で働く社員にはどのような特徴がありますか?
松田和彬:
弊社が重視するフットワークの軽さは、文化として社内に根付いています。そのため、自走することができ、すぐに行動できる社員が活躍しています。弊社で成果を出すためには、「不可能に思えることをどうやって可能にするか」を常に考える姿勢が重要です。なぜなら、チャンスはそのような課題の中にこそ隠れているものだと思うからです。粘り強く考え、実行し続けられる人が弊社に向いていると感じます。
また、早い段階で裁量権が与えられる点も、弊社の特徴です。ハイパーカジュアルゲームは1本あたりの投資金額がそれほど高くなく、メンバーも2〜3名程度で立ち上げることが多いので、若手社員が早くから責任を持って仕事に取り組める環境が整っています。何でも自分でやらなければなりませんが、その分、大きな成果や成長が期待できるのが弊社の魅力です。
編集後記
「おもしろくあれ!」という企業理念のもと、100名の従業員が楽しみながら働く株式会社GOODROIDには、既存の枠にとらわれない個性豊かな仲間が集まってくるという。代表の松田氏が「挑戦することで気づけることがある」と、失敗を前向きに捉える姿勢を持つからこそ、社員たちの行動力も一層高まっているのだろう。同社の持ち味であるスピード感と柔軟な事業展開によって、これからも新しい未来を切り開いていくに違いない。
松田和彬/1985年生まれ、岡山県出身。2009年、慶應義塾大学 環境情報学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。数々のインターネットメディアやソーシャルゲームをプロデューサー/事業部長として立ち上げ、2014年に同社100%子会社である株式会社GOODROIDを設立。代表取締役社長に就任。