※本ページ内の情報は2024年5月時点のものです。

1954年に創業し、奈良県葛城市に本社を置く仲内株式会社。問屋・大手アパレルメーカーへ向けて、服飾用ボタン、アクセサリー、雑貨などを企画・製造している会社だ。ハイセンスな自社ブランドにも注目が集まる企業の歩みと現在について、代表取締役社長の仲内おりえ氏に話をうかがった。

入社の経緯――海外留学中に変化した「家族」への思い

ーー入社のきっかけを教えてください。

仲内おりえ:
大学を卒業後しばらくして、6ヵ月ほどハワイに語学留学し、ホストファミリーと生活したことが転機となりました。門限があるだけでなく、家族そろって食事をとったり、休日は一緒に買い物へ行ったりという、普通の家族の有り方ですが私にとって初めての体験を息苦しく感じてしまったのと同時に、本当の家族とは何か?と自問自答しました。

「家族」の在り方に対する価値観が変わり、放任主義だった両親との関係を見直し、感謝する機会にもなりました。帰国後の進路も考え直した結果、家業へ興味を持ち、前社長である父に頼んで2003年に仲内へ入社した次第です。入社後は約3年にわたって営業職や営業事務職、貿易業務を務めました。

ーー2006年に系列会社・株式会社ニュートロンへ入社したのはなぜでしょうか。

仲内おりえ:
当時のニュートロンは、海外アパレルブランドの日本の総輸入代理店でした。長年のお付き合いがあったことから、親会社の意向で廃業になりそうなニュートロンを弊社が支援することになったのです。再出発にあたり、社長を任されたのが私の夫の梅咏(メイ・ヨン)です。夫婦で経営に加わり、赤字続きのニュートロンを立て直していきました。

ブランド立ち上げで経営難の会社を再起し、再び家業へ

ーー関連会社「ニュートロン」の自社ブランドをつくった経緯をお聞かせください。

仲内おりえ:
経費削減のため、東京にあった2つの直営店舗を閉めたことで「末期のブランド」というイメージがつき、多数の従業員と取引先を失いました。また、海外ブランドを取り扱う難しさを学びました。

たとえば、日本と外国では好まれるファッションや服のサイズ感が違うにもかかわらず、ブランド側がOKしなければデザインやスタイリングの要望が通りません。会社の売上が取引先と、海外ブランドのデザイン次第という状況を変えるためには「自社ブランド」が必要だと考えたのです。

ーー2018年に再び「仲内株式会社」へ戻りましたね。

仲内おりえ:
4代目社長を務めていた兄が会社を離れ、両親も高齢だったことから社長就任を依頼され、夫とも相談した上で私のみが仲内へ戻りました。会社としての立ち位置や営業方法は以前と変わってはいませんでしたが、私が働いていたころよりもスタッフが減り、私が以前仲内で働いていた頃はアパレル様しか担当していなかったので、問屋への営業に初めて取り組んでいる状況です。

その結果、営業方法や業界内での立ち位置が複雑化しており苦労しています。製造業者はピラミッド構造において一番下とされ、価格改正などの希望がなかなか通らず、加えて「社長が女性」、そして問屋から見た私は「服飾付属業界の経験値0点」という観点からも軽視されていると思われます。

自社のブランド化を目指して――「無料サンプルの有償化」

ーーどのように状況を改善したのでしょうか?

仲内おりえ:
ピラミッド構造から脱却するには「価格競争ではなく仲内に商品をつくってほしい」と言われるレベルに到達しなければいけません。会社をブランド化するため、一つは「サンプル帳(カタログ)」の有償化です。

それまで無償でお渡ししていたものなので、社内には反対意見もありました。それでもアパレル企業向けにわかりやすく、かっこいいと思える中身に一新し、お金を払う付加価値をつけたカタログは企業のブランド化に効果的でした。

ーー今後の展望を教えていただけますか。

仲内おりえ:
最終的な目標は、大手ナショナルブランドからOEMや「仲内のボタンを使いたい」といったご依頼をいただくことです。

現在は「日本の技の継承」をテーマとした「GAWA」(※1)、サスティナブルなメッセージ入りギフト「Agelu」(※2)という2つの自社ブランドを展開するほか、今年で創業110年ということで倉庫に眠る素材を本来の価値のまま世に出すことも考えています。

まだ発表は出来ないのですが、新事業の展開に向けて進んでいるのと、今後も問屋さんに対する影響力をキープしつつ、対アパレル業の売上を伸ばしていく方針です。

(※1)GAWA公式サイト

(※2)Agelu公式サイト

性差のない会社づくり――「女性が前向きに働けるように」

ーー一緒に働きたいのは、どのような人ですか?

仲内おりえ:
以前、弊社では、女性と男性の給料に著しい差があったため、スキルに見合った性差のない昇給・ボーナス支給を実現しようと取り組み、その差は埋まりつつあるところです。また、有給休暇の取得率を上げて育児中もそうでない人も働きやすいように環境を整備していますが、日本の構造的にまだまだ女性の負担は大きく、キャリアアップを望む女性が少ないことも事実です。

「バリバリ働いて重役を目指したい」という女性がいれば、ぜひ弊社で活躍していただきたいですね。自分のやりたいことや業務の改善に前向きな方が理想的です。私も知らない間に古い風習に染まりつつあるので、それを払拭してくれるような人をお待ちしています。

編集後記

「服飾」という歴史ある業界で、大正時代創業という背景を持つ仲内株式会社。昔ながらの風習や構造がある中で、女性である仲内社長が多くの障害にぶつかってきたことは容易に想像できる。男女問わず人材が活躍できる世界を望み、前に進み続ける姿は多くの人を勇気づけ、業界や会社の未来を明るく照らすだろう。

仲内おりえ/1977年、奈良県生まれ。青山学院大学を卒業後、2003年に仲内株式会社へ入社。2006年に系列会社の株式会社ニュートロンへ入社し、輸入代理店業などのブランドビジネスを学ぶ。2018年、仲内株式会社へ戻り、代表取締役社長に就任。