2006年の設立以来、独自性あふれる野球用品の開発・販売を続けてきた株式会社フィールドフォース。「自由に練習できる場所が少ない」という少年野球の現状に着目し、ボールパーク(室内練習場)の運営や施工事業も手がけている。代表取締役社長の吉村尚記氏に、起業のきっかけや事業にかける思い、今後の展望についてうかがった。
野球に明け暮れた学生時代。中国留学を経て野球グッズメーカーを設立
ーーご経歴をお話しいただけますか。
吉村尚記:
学生時代は、小学三年生から始めた野球が生活の中心でした。高校で古文・漢文に興味を持ったことから、進学先に中国の大学を選んだことがターニングポイントとなります。語学スクールでの学習を経て、最終的には大学で授業を受けられる語学レベルに到達しました。
帰国後、入社したスポーツ用品メーカーで与えられたのは「地下倉庫で野球グローブの検品」という仕事でした。退職する同期もいる中で、私は「1日で仕上げられる個数を増やす」など、昨日の自分と競争しながら踏ん張りました。半年ほどは「何のために中国語を勉強してきたのか」という思いもありましたが、今では大切な下積みだったと言えます。
野球は、超一流のプロ選手でも打率3割のスポーツです。私も野球で失敗ばかりしてきたからこそ、「思いどおりにいかないことが普通」と切り替えられたのだと思います。その後、営業や開発、中国の工場との窓口業務という形でものづくりに携わる中で「自分のブランドをつくりたい」と思い描くようになり、30歳で独立しました。
ーー起業から現在までの流れもお聞かせください。
吉村尚記:
「フィールドフォース」の社名・ブランド・経営理念はすべて共通しています。弊社における「フィールド(FIELD)」は、野球のグラウンドだけでなく職場や取引先を含みます。「力」を指す「フォース(FORCE)」には、「フィールドで活躍する人の力になる」という思いをこめました。
創業当初は、経営を維持するためにOEMも請け負っていました。しかし、コストが変わるたびに生産工場や運送会社へ値下げをお願いすることになり、「このままで周りの人が本当に幸せになるのか」と我に返ったのです。「自社ブランドをもっと強くしていくべきだ」と考え、2011年にOEM事業から撤退する決断をしました。
OEMのお取引先に今後の方針を説明したところ、大変ありがたいことに「これからはフィールドフォースを応援するよ」と言ってくださり、今もご縁が続いています。
ニッチなアイテム製作のかたわら、少年野球の現状に警鐘を鳴らす
ーー事業内容を教えてください。
吉村尚記:
弊社独自の野球用品の開発・販売、アフターケアや輸入販売のほか、ボールパーク(室内練習場)の運営や施工事業も手がけています。特に、重視している点は「企画力」です。「小さいスペースで最大限の練習効果が得られる」というコンセプトを掲げて、パートナーがいなくても連続的に打撃練習できる「オートリターン・フロントトス」などのアイデアグッズをつくっています。
弊社を立ち上げた2006年頃から、多くの公園や広場に規制がかかり、少年野球を取り巻く環境が悪化していきました。練習場所が減ったことにより試合で活躍できず、指導者に叱られ、野球を辞めてしまう子どもが後を絶ちません。
野球界をピラミッドにたとえると、頂点にはプロ野球選手がいて、社会人、大学生、高校生、中学生、小学生と下っていきます。ピラミッドの裾野を支えているのは少年野球なのです。私たちには「今も続く負の連鎖を変えたい」という思いがあります。
ーー他社との差別化ポイントはどんなところでしょうか。
吉村尚記:
「かゆいところに手が届く、マニアックで変態的な商品開発」をポリシーに、価格設定についても大手企業にはできない仕組みにチャレンジしています。
一般的に大手メーカーはプロ野球選手と契約して、年間にわたってグローブやバットを無償提供します。広告費は商品の売上で回収するため、子ども向けのグッズも高価になりがちです。その点、製造から流通の間に「他社が入らないこと」は弊社の強みで、自社ブランドが適正価格を維持できる理由にもなっています。
野球業界に利益を還元するため、直営ショップを併設した練習場をつくる取り組みもスタートしました。子どもたちが気軽に野球を楽しめるように、制約なく練習できる施設を47都道府県に増やしていくことが目標です。練習場はバットを思いきり振れるエリアさえあればつくれるもので、むしろ狭い方がボールを回収しやすく、練習効率が上がります。
野球の本場・アメリカへの進出も計画。「異端な企業」を目指して
ーー今後の展望をお話しいただけますか?
吉村尚記:
今後は国内の展開を進めると同時に、越境ECにも力を入れていきます。自分たちのアイデアを駆使したグッズを、野球の本場であるアメリカでも広めたいと考えています。
全国各地の野球大会に協賛し、商品を提供する活動もとても大切です。利益面では損失となりますが、フィールドフォースの認知度が上がり、私たちの思いをダイレクトに伝えられる機会です。大会で活躍した子どもに、「もっと練習して上手くなりたい」と思ってもらえればうれしいですね。
「現状維持」では会社が衰退するため、現在の取り組みを客観視して、新しいことにチャレンジしていく必要があります。私が大事にしている格言は「優れるな、異なれ」です。一つの畑で秀でた人を追い越そうとがんばっても、後ろから別の人に追われるだけなので、目線を変えて誰もまだ着手していない分野を開発したいと思います。
編集後記
スポーツ用品メーカーとしては非常にニッチな分野を追求してきた吉村社長。創業時から「フィールドフォースらしさ」を失わずに、取引先と信頼関係を築いてきたからこそOEM事業を終了する際にも縁が途切れなかったのだろう。国内外の少年野球に貢献する事業を見ても、この先の野球界を盛り上げる企業であることは確かだ。
吉村尚記/1975年生まれ、東京都出身。小学生から高校卒業まで野球に明け暮れたのち、中国へ語学留学。天津師範大学の本科生となり、課程修了後に帰国。スポーツメーカーでの就業を経て2006年に独立。株式会社フィールドフォースを設立し、2020年に代表取締役社長に就任。