株式会社ヤナギヤは、水産練り製品の加工機械分野において世界トップシェアを誇る。「人の役に立ちたい」という思いから、手作業では重労働とされる練り作業の機械化に成功し、全国のかまぼこメーカーから高い評価を得た。
現在はかまぼこの製造機械にとどまらず、オーダーメイド機械の数々を創造する。不可能を可能にするために考え続ける同社の代表取締役社長、柳屋芳雄氏にお話をうかがった。
恵まれた修業先、そこから得た学びとその後の道のり
ーー社長就任までの経緯についてお聞かせください。
柳屋芳雄:
大学卒業後、父親から取引先のかまぼこメーカーで修業するようにいわれて就職しました。そこではかまぼこのつくり方を基礎から教えてもらったり、おいしさを追求するために努力する姿勢を学ばせてもらったりしました。1年ほど経った頃、家業の業績が傾いてきたので戻ってきました。
ーー社長就任後、貴社の市場シェアは約15%から50%に伸びました。シェア拡大に向けてどのような取り組みをしたのですか。
柳屋芳雄:
まず最初に、お客様が何を望んでいるのか、機械を買ってもらうために必要な要素は何か、といったことを考えました。
お客様に買ってもらえない理由を直接聞くと、「機械が高いし、不具合が起きても修理に来ない」など、いろいろなご意見をいただいたので、それらを直していくことにしました。
一度にすべてを変えることは無理なので、お客様に呼ばれたらすぐに駆けつけるようにして、社内の体質や社員の考え方などを徐々に変えていきました。お客様に満足してもらえるまでには10年ほどかかりました。
コンビニ弁当からペットフードまで、日常生活にあるビジネスチャンス
ーー貴社の事業内容を教えていただけますか。
柳屋芳雄:
食品の製造機械を生産しています。食品といっても幅広く、食品事業は製造機械の良し悪しで決まるといっても過言ではないため、弊社の機械の需要は高いです。
また、人手不足であれば省力化機械、経費節減のためには省エネ機械、かまぼこ・お豆腐・海苔などの製造には伝統的な機械、他にはコンビニのお弁当などの製造にはベンダー加工の機械、といったようにニーズに適した機械を提供しており、それが弊社の強みでもあります。
ーービジネスチャンスはどこから見つかるのでしょうか。
柳屋芳雄:
日頃から、あらゆる方面にアンテナを張っていますね。
たとえばペットフード事業を手がけるきっかけとなったエピソードなのですが、私が晩ご飯を食べているときに愛犬3匹がペットフードを横で食べていて、その値段が私の晩ご飯より高かったのです(笑)。その後ペットフード業者を探して、現在では3、4社と取引をさせていただけるようになりました。
窓口を広くして待っていると、お客様の方から寄ってきてくれます。展示会にきて「こんなものできませんか?」と尋ねていただくところから始まることも多くあります。
弊社で心がけていることは「ご相談ごとがあれば言ってください」とお客様にお伝えすることです。そして、問い合わせがあった際には、すべての社員が「そのようなことは行っておりません」と対応するのではなく、「わかりました!調べてみます」とこたえるようにしています。
カニカマのように時代のブームになるマーケットを探して、それに対してアプローチも行います。マーケティングやビッグデータを参考にするのではなく、私の勘と経験で「この業界は面白いから何かしよう」という感じでチャンスを見つけています。
チャレンジ精神を大切にする「ベリーホワイト企業」
ーー貴社が求める人物像を教えてください。
柳屋芳雄:
弊社で働きたいという気持ちが強い人を雇用しています。重視する点は、学歴ではなくやる気です。会社は社員のやる気をくみとって、その人に合ったやり方を考えます。社員にやりがいや働きやすさをどれだけ提供できるかは、会社にとって非常に大切なことです。
現在は、時代の変化に適応するために「ベリーホワイト企業」であることを心がけて、より良い組織を目指しています。
ーー独自の社内制度はありますか。
柳屋芳雄:
次の内閣を意味する「ネクストキャビネット」制度があります。やる気のある20、30代の社員に弊社の経営情報を共有し、「現在の会社の状況はこうです。今後、君たちが幹部になった時はどのように対処しますか?」と日頃から考える機会を与えています。熱意から経営層の情報を聞きたい人がいれば、積極的にそれにこたえていきたいと考えています。
100の小さな約束で築く信頼、小さなことの積み重ねが大きな成功へ
ーーお客様の信頼を得る秘訣は何でしょうか。
柳屋芳雄:
「信頼というのは100の小さな約束を守ること以外にない」といってもいいですね。約束は1回破っただけで終わりです。信頼を築くことは容易ではありません。100の約束を守り抜くことで、ようやく信頼を得ることができるのです。会社全体で、そういう小さなことに目を向けるように働きかけています。
ーー貴社の今後についてお話いただけますか。
柳屋芳雄:
私は“今”という時間を大切にしています。目の前の仕事をきちんとこなし、いつも新しいチャンスを探し続けています。自分の足で歩き、自分の目で確かめることが重要です。
たとえば、食品の場合は、コンビニやスーパーマーケットで商品を見て、どこでつくられたのかと考えます。また、人と積極的に話すことで新しく発見できることもあります。トイレ掃除など、人が嫌がることに進んで取り組むことも大切です。
そうすることで、仕事は自然と舞い込んでくると思います。お客様を100件も訪問すれば、仕事の依頼を何件も獲得できるでしょう。
私はビッグになりたいわけではありません。ただ「あの会社、面白いね!いろいろなことをしているね」といわれるようになりたいと思っています。
編集後記
老舗ながらも、好奇心のままに、時代の流れを感じ取って柔軟に変化しつつ挑戦し続けるところが株式会社ヤナギヤの魅力であり、人々に長く愛されるゆえんだ。
藍綬褒章受章など多くの偉業を成し遂げるも「特別ではない。一歩ずつ努力してきただけ」と語る柳屋社長。社員の目に映っているのは、社長の経営者目線だけではなく日頃の何気ない努力、生きる姿勢のすべてなのだろう。特別というのは特別ではない日々の積み重ねに他ならないと改めて学んだ。
柳屋芳雄/1950年生まれ。日本大学経済学部卒業。1973年にヤマサ蒲鉾株式会社入社。1974年に株式会社柳屋鉄工所(現株式会社ヤナギヤ)入社、取締役就任。1975年に同社代表取締役社長就任。2017年、藍綬褒章受章。