※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

キッチン用品やバス用品、リビングの収納用品など、プラスチックの家庭用品を中心にさまざまな商品の企画・開発を手がけている株式会社伊勢藤。折りたたんでコンパクトに収納できる洗い桶や水切りバスケット、アウトドアテーブルなど、日常を便利にする商品の開発を強みとしている。

同社が人々の生活を豊かにする商品を生み出し続けられる理由とは、一体何なのか。50周年を機に代表取締役に就任した伊藤剛氏に、ものづくりへの考え方を聞いた。

1番の財産は、会社に向き合い続けた父の生き様を見られたこと

ーー会社を継いだときのことを教えてください。

伊藤剛:
海外の大学を卒業後、父が経営する株式会社伊勢藤に入社しました。周囲から世間知らずと言われることもありましたが、むしろそういった声があったからこそ、反骨精神を持って仕事に取り組めたのだと思っています。

入社して1年目は物流、2年目は経理、3年目は営業など、いろいろな仕事を経験しました。その中でも特に学びになったのが、父の仕事ぶりを間近で見たことです。創業から31年間、1日も休まず働く父の仕事に対する情熱や、信念を感じられたことが大きな糧となりました。

父が「会社経営を辞めたい」と言っているのを聞いたことはなく、89歳になる現在もフルタイムで出社しています。そんな父の生き様を見せてもらい、「人の価値は生き様に表れる」と学べたことが、僕にとって1番の財産です。

仕事について詳しく教えてくれる人ではありませんでしたが、唯一言われた「会社経営は俺の真似をするなよ」という言葉は、常に頭の片隅にあります。

ヒット商品を開発し、経営危機やコロナ禍を乗り切る

ーー貴社の事業内容とものづくりへの考え方を聞かせてください。

伊藤剛:
弊社は収納グッズやアウトドア用品、ペットグッズなど、さまざまな製品の企画・開発を手がけております。どれも日本製にこだわったプラスチック製品という点が特徴です。

業界で生き残るためには、世の中にまだ出ていない製品を開発し、パイオニアとして走ることがベストな選択肢だと思っています。ただ、ものづくりに正解はないので、どうすれば人々の生活を便利にする製品を開発できるか常日頃考えているところです。

たとえば他人との会話の中から開発の糸口を見つけることもありますし、街を歩いているときに良い製品の案が出てくることもあります。今まで商品開発でたくさん失敗してきた経験が、今に活きているのかなと思っています。

ものづくりは大変で、苦しみがある。だからこそ、大ヒットしたときは非常に大きな快感や喜びを得ることができます。そのため、僕は「ものづくりの苦しみ」というものをこれからもずっと経験していたいと思っているのです。

過去に会社が経営危機に陥ったこともありますが、ヒットする商品を生み出せたから、一発逆転ができました。また、弊社の開発したマスクケースがコロナ禍で爆発的に売れ、1か月で40万個も出荷したことがあります。この出来事のおかげで、コロナ禍でも自分たちはやっていけると自信を持つことができました。

こういった出来事から、最終的に会社を助けてくれるのは商品なのだと実感しています。

「目標は100年企業」営業マンの意識改革とECの強化に注力

ーー今後の注力テーマを教えてください。

伊藤剛:
1つは営業マンの意識改革を行い、時代に合った仕事をできるようにすることです。たとえば、最近の若者はSNSを更新するのが普通ですが、弊社の年配社員の中には「SNSで商品を宣伝する必要があるのか」なんて言う人もいます。

僕はSNSでどうしたら商品をバズらせられるかについてよく考えていますが、営業マンにも時代の流れを見てもらい、意識を変えてもらう必要があると思っています。

そしてもう1つがECの強化という点で、自社のECサイトの売上を伸ばすことと、楽天などインターネット通販サイト上での流通額を増やすことの2つに力を入れていきたいです。

自社のECサイトは、梱包や商品説明メモを入れる手間が発生したり、運賃もかかったりなど、負担が大きいのが難点です。とはいえ、楽天などのインターネット通販サイトは手数料がかかります。この2つのサイトで、それぞれどのくらいの収益を目指していくべきなのかについても、これから精査していきたいと思っています。

ーー最後に、長期的な会社の目標をお願いします。

伊藤剛:
まず、100年続く企業を目指したいと思っています。そして、世の中で今どのような物が求められているのか、どうしたら皆さんの生活をより良くできるのかという点を引き続き追及していきたいです。

「社会貢献できているのかどうか」を大きなテーマとして掲げ、このテーマを達成する過程で、売上がついてきてくれたらと思います。

編集後記

伊藤社長がものづくりに妥協せず、真摯に向き合い続けられるのは、父親の仕事に対するひたむきな姿勢を間近で見てきたからだろう。55周年を迎えた同社が、100年企業を目指してどのような進化を遂げるのか。経営危機やコロナ禍をヒット商品の開発で乗り切った同社なら、「人々の生活をより豊かにする」という目標のもと、今後もきっと素晴らしい商品を世に届けてくれるはずだ。

伊藤剛/1969年生まれ。海外の大学を卒業後、1993年に株式会社伊勢藤入社。2019年、会社設立50周年を機に同社代表取締役に就任。