※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

IT業界はIoT、RPA、生成AIなど、日進月歩の進化を続け、新規参入企業や大手メーカー企業も多く、競争の激しい業界だ。そんな中、青森県で創業60周年を迎える地域密着のIT企業がある。業界で長く経営を続けている会社の強みと今後の展望を、代表取締役社長の八島勝氏にうかがった。

アウトソーシングを先駆け!地域を支えるITサービス

ーー貴社の起業のきっかけをお聞かせください。

八島勝:
弊社は1965年に親会社の株式会社カクヒロという総合商社の子会社として設立されました。当時は紙に記されたデータを大型コンピューターで計算処理して集計表などを作成し、納品するのが主な業務でした。今でいうアウトソーシングサービスの先駆けです。

その後、情報処理サービス業界が広がり、「IT」という言葉が生まれました。時代の流れとともに弊社もコンピューターシステムに関わるさまざまな業務を行ってきました。

ーー展開する事業内容と取引先について教えてください。

八島勝:
2000年に青森市の誘致企業として現在の西部工業団地内に本格的なデータセンターを備えたビルを建設しました。

現在は、北東北のお客様を対象にシステムの導入・提供を行うシステムインテグレーションと、クラウドサービスの2つが事業の大きな柱です。自治体、医療機関、民間企業、各種団体、社会福祉協議会、財団法人などが取引先となります。

ーー社長の経歴についてお聞かせください。

八島勝:
私は1979年に日本大学理工学部を卒業して新卒で入社しました。1992年から1996年まで東京出張所に所長として勤務したのち、2020年に代表取締役社長に就任しました。弊社は非同族経営であり、グループも含めて個人オーナーはいません。

徹底した利益率管理と地域密着で培った営業力が強みに

ーー変化の激しいIT業界で業績を伸ばし続けている理由や、貴社の強みをお聞かせください。

八島勝:
弊社の強みは大きく2点あります。1つは高い利益率です。一般的に開発業務が多いと粗利益は多くなりますが、販売商品が多いと粗利益は下がります。大きな病院の電子カルテを受注すると売り上げは数億円になりますが、一社だけでは対応ができないため、パートナー企業と連携する必要があり、利益率は下がります。

しかし、弊社では固定外注先を抱えていないため、外注費を抑えることができます。移転して23年が経ちましたが、いまだに赤字はありません。

もう1つの強みは地元密着です。三方を海に囲まれた青森県内において全域を営業エリアとして活動を続けてきました。そのため、社員たちには、「青森全域が自分たちの仕事場だ」という自覚があります。

たとえば、まぐろで有名な町は青森市内から車で3、4時間かかります。しかし、弊社はこのような、メーカーが行けない地域でも対応するので、お客様の信頼も厚く、現在では地域の役場のITサービス全般を弊社が請け負っています。地元ならではの顔の見える身近なケアでお客様から信頼をいただいていると自負しています。

また、地域に貢献することが、青森全域をエリアとしている会社の使命だと思っています。弊社では設立30周年から、自治体の図書館や学校図書に5年ごとに図書費の寄付をしており、もちろん60周年になる来年も実施します。

ーー業務上の課題として取り組んでいることは何でしょうか。

八島勝:
2点あげられます。1つはデジタル庁が定めた「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」という課題です。期限は2026年の3月までと迫っており、IT業界は、この標準化でスケジュールが詰まっています。弊社でも青森県内40市町村のうち、17団体のお客様について、新しい標準システムに移行する必要があり、その対応に取り組んでいます。

もう1つは、この数年でRPAや生成AIなど、さまざまな新しい技術が広がっていますが、首都圏、東名阪の大企業以外では、まだビジネスとしては成り立っていません。変化についていけるように社員教育の場や資格をとれる環境を用意するなど、準備を進めているところです。

将来に続く会社経営を見据えた社員の育成

ーー社長ご自身のミッション、今後の展望についてお聞かせください。

八島勝:
私自身の現在の課題は次の役員、社長になる社員を育てることですね。社長とは、なりたいと思う人が就くものではなく、この人に社長を任せたいと思われる人が就くものだと思っています。

選ばれるためには目の前の仕事を確実にこなし、人より優れた成果を上げていく必要があります。そのためには自分を成長させなければいけません。世の中から広く、自分の耳、目、頭に刺激を受けておくことが大事だと思います。

来年、60周年を迎えるにあたり、記念事業を計画しています。まずは60年誌をつくろうと思っています。そして、100年続く企業を目指すということで、「60周年を機に会社の未来をどうするべきなのか」など、若手とともに未来像を描く取り組みを進めていきたいですね。50歳未満の社員に対して、目指すべき「場所」や弊社のアイデンティティを示すことが私の役目だと思っています。

ーー就活中の学生の方にメッセージをお願いします。

八島勝:
青森県内の大学の卒業生が県内に留まる率は約3割と言われています。給与が首都圏と比べると低いこともありますが、弊社自身もPR不足だと感じています。仕事内容を紹介したコマーシャルビデオもあるので、地元の東奥日報社が毎年開催している「ワークパーク・会社の参観日」を活用してもっとPRをしていきたいと思います。

県内外、文系、理系などの区別はありません。弊社の未来を支えてくれる人材をしっかりと育てていきたいと思っています。大切なことは、言われた通りにやるのではなく、お客様が本当に求めるものを理解して提供する力を磨くこと、これに尽きます。好奇心をもって仕事に取り組んでいただける方、ぜひお待ちしています。

編集後記

創業60周年という長い歴史を持ちつつも、非同族経営だからこそ誰にでもチャンスがあり、フラットな関係性が築ける会社。八島社長の穏やかな人柄から、社風、社員同士の関係性、風通しのよさが伝わってきた。

八島勝/1956年青森県生まれ。1975年青森県立青森高校卒業。1979年日本大学理工学部卒業、同年株式会社青森電子計算センターに入社。1992年から1996年まで東京出張所の所長として勤務。2004年取締役に就任。2020年代表取締役社長に就任。