
通信業界は、国境を越えたボーダレスな接続と、時間帯に依存しない柔軟なサービスを提供する方向へと進化している。これにより、個人や企業は、国内外問わず安定した通信環境を実現し、ビジネスのスピードは飛躍的に向上した。
今後もこうした変化に迅速に対応できる革新的で柔軟なサービスが求められるだろう。このような状況の中、a2network株式会社の代表取締役である門田朗人氏は、2005年に通信事業を立ち上げ、世界中で利用できるモバイルWi-Fiサービス「スカイベリー」などを提供し続けてきた。創業までの経緯や事業内容、今後の注力テーマをうかがった。
通信業界の変革とグローバル化。ドイツから始まった新たなチャレンジ
ーー創業までの経歴を教えてください。
門田朗人:
幼少期はスタートレックのドラマが大好きだったので、漠然と「コンピューターを学んで宇宙へ行きたい」という思いから理系を選択し、大学院まで進学しました。学生時代はオートバイに夢中になり、オートバイに関わる仕事ができるという動機から住友ゴム工業株式会社に就職しました。
当時は、タイヤづくりのエンジニアとして寝食を忘れて仕事に没頭したものです。学生時代から海外への憧れもあったため、その後は兼松株式会社へ転職し、ドイツ会社の駐在員として経験も積みました。帰国後は、日本のテクノロジーを海外へ広めたいという思いからさらなるキャリアアップを目指し、株式会社ACCESSへ転職しました。海外拠点の立ち上げに携わり、労務や経理なども学ぶことができました。
そして、「MVNO(仮想移動体通信事業者)」という当時、まだ日本にはなかったビジネスモデルと出会います。「多額な投資なく通信事業ができる」ことが非常に面白いと感じ、この事業を自分でカタチにしたいと思ったのが創業のきっかけです。勝てるシナリオや完璧なビジネスプランがあったわけではありませんが、強い想いがあったので、迷いなく2005年にa2network株式会社を設立しました。
ーー創業してから苦労したタイミングはいつでしたか。
門田朗人:
当時はドイツに住んでいたため、就労許可申請や会社設立には大変苦労しました。各所で協議や交渉を重ねる中で、ドイツの商工会議所でのプレゼンをきっかけに会社設立に向けて大きく動き出します。会社設立と並行して、携帯電話会社から回線を借りる交渉を行いましたが、日本語に対応した端末をつくるための交渉などと共に難航しました。海外で創業したからこその苦労かなと思います。
今振り返ると苦しい時期も多くありますが、弊社は会社設立をしてまもなく20周年を迎えます。ここまでやってこられたのは、「通信」というビジネスに対する熱い想いがあったからこそです。そして、各ステージで支えてくれたビジネスパートナー、従業員には本当に助けられました。多くの出会いや人に恵まれている私は本当に運がいいなと思います。
顧客満足を追求した技術革新で通信インフラの未来を切り拓く

ーー貴社の事業内容を教えてください。
門田朗人:
ビジネスを通して社会に貢献したいという思いを込めた弊社の信条「四方良し」に基づき、MVNOとして、私たちの生活に不可欠な通信サービスを提供しています。日本人が渡航先の海外で使用できる通信を提供するのが弊社の主力ビジネスです。日本も世界もボーダーレスで利用できるモバイルWi-Fi「スカイベリー」サービスを展開しています。
ーー海外向けサービスの特徴はどのようなところですか。
門田朗人:
海外へ行く目的は人それぞれですが、弊社のサービスはビジネスで使用していただくケースが多いです。たとえば、海外渡航の前には、多くの方は空港などでWi-Fiルーターをレンタルしてデータ通信をするでしょう。
弊社では、そういった一時的なレンタルサービスはほぼやっておらず、代わりに年契約のサービスを提供しています。毎月支払いが発生するので、短期での旅行には不向きですが、海外によく行く方にはコストや契約の手間を考えると非常にメリットが大きいのが特徴です。
サブスク型サービスなので、顧客満足度をあげるために、サポートやクオリティにも非常に注力しています。BtoBとしては、自動車メーカー、電器メーカー、商社、飲食関係、医療関係など幅広い企業の方から選ばれています。
通信が人と人をつなげる。未来の架け橋となる
ーー注力テーマについても詳しくお聞かせください。
門田朗人:
新しい通信テクノロジーとして約2年前から「ベリー eSIM」というサービスを展開しています。既存のWi-Fiルーターに代わる新たな通信手段として期待しています。そして途切れない通信をコンセプトにした「スカイベリーpro(ゲートウェイ)」のサービスはBCP対策に有効です。
専用端末に、ドコモ・au・ソフトバンクの3社のキャリア回線を搭載することで、ひとつのキャリアに依存しない冗長化ソリューション(※)を実現した、ワンストップインターネット接続サービスとして利用できます。災害時など不安なときにこそ、安定した通信環境をご提供することで、インフラとして常に「つながって当たり前の状態」をつくることを目指しています。
(※)冗長化ソリューション:システムや設備について、一部が故障してもシステム全体が機能するように、スペアを組み込んでおくこと。
この2つの事業を、より効果的にマーケティングしていくことが今後の注力テーマです。たとえば、スカイベリーであれば海外に行く方向けのサービスなので、航空会社に広告を出したり、機内誌などに掲載することで反響があります。ターゲットに正確に情報が届くようにさまざまなマーケティングに注力していきます。
ーー最後に、経営において大切にされている思いなど教えてください。
門田朗人:
創業から約20年が経ちますが、いまだに決断に迷うことは多くあります。このようなときにまず私が立ち返るのが、弊社のもう一つの信条「適利適売」という考え方で、「いたずらに規模を追いかけず、必要とされるものを提供し、適切な利益をいただく」という意味です。
大量につくってディスカウントされるような商売ではなく、お客様にご満足いただける高品質なサービスを提供し、適切に利益を得ることが本来の姿だと信じているからです。
通信業では、多くの方が関わって事業が成り立っているので、ステークホルダーの方すべてにとってプラスになることを目指すのが基本的な考え方です。この信条を心において決断し、会社を経営してきたことが、ここまで会社を成長させられてきた要因だと思います。今後も人と人のつながりを大切に、通信という新しい社会インフラの維持に貢献していきます。
編集後記
テクノロジーの進化を追求しながらも、人と人とのつながりを大切にしてきたという言葉が印象的だった。通信業界の変化の中で、技術力とともに顧客との信頼関係を築くことが、企業の成長に不可欠であるという考え方がしっかりと根底にある。
今後、同社の通信技術とサービスが世界中に広がることで、より多くの人々が国境を意識することなく活動できる社会が実現するだろう。ビジネスの可能性や文化交流もさらに広がっていく。真の意味でのボーダレスな世界の実現に向けたa2network株式会社の次なる展開が楽しみだ。

門田朗人/1961年、兵庫県生まれ。神戸大学大学院修了。住友ゴム工業株式会社に入社し、5年のエンジニア生活を経て、1990年に兼松株式会社へ入社。株式会社ACCESSを経て、通信の世界に国境をなくしたいという思いから、2005年にa2network株式会社を設立。